第1節で述べたとおり、ODAは日本および国際社会全体のための未来への投資であり、このような考え方は、2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」にも明記されています。たとえば、日本が東アジアで展開してきた成長重視の開発協力は、地域の大きな成長と発展につながりました。これは日本を含む東アジア全体に大きな恩恵をもたらしています。日本のODAがまさに「未来への投資」として効果的に機能し、花開いた好例の一つといえるでしょう。以下では、未来への投資として機能する国際協力の具体例を紹介します。
現在、新興国をはじめとする途上国では、急速な成長を遂げる中で、インフラ需要が急激に膨らんでいます。日本としては、途上国のインフラ開発を支援するに当たり、ODAとインフラシステム輸出の連携を図ることで、相手国の経済発展と日本自身の力強い経済成長の両方を実現させることができると考えています。そのためには、日本企業による機器の輸出のみならず、インフラの設計、建設、運営、管理を含む「システム」としての受注や、事業投資の拡大など多様なビジネス展開が重要になります。インフラシステムの輸出は、受注企業が直接的に利益を享受するのみならず、日本企業の進出拠点整備やサプライチェーン強化など複合的な効果を生み出します。そして、インフラ開発による相手国の成長と同時に、日本の先進的な技術・ノウハウ・制度等の相手国への移転が起こることで、相手国の抱える課題の解決にも役立ちます。特に、環境対策や防災など日本の得意とする分野について、日本の持っている技術、制度は途上国からの評価も高く、多くの国から要望が寄せられています。たとえば、火山噴火、暴風雨など災害の早期警報の技術を導入した国では、それまで課題であった避難の遅れが解決されて犠牲者数の大幅な減少にも貢献しています。このように、インフラシステムの輸出のためのODAの活用は、日本および相手国の双方に利益をもたらすことになる「未来への投資」であるといえるのです。
この考え方に基づき、2013年5月、日本政府は、ODAを含めた取組について「インフラシステム輸出戦略」を策定しました。インフラシステム輸出を増大させるため、ODAについて、たとえば、次のような施策が実施されています。
●本邦技術のさらなる活用に資する制度改善(STEPの制度改善)
●外貨返済型円借款の導入をはじめとする円借款の制度改善
●JICA海外投融資の積極的活用
●民間セクターと連携したマスタープランの作成
●地方自治体の海外事業参画(ODAを通じて、地方自治体と開発途上国との関係構築を図り、また地元企業のノウハウの活用により、地方企業の海外展開の基盤とする)
●インフラ海外展開のための法制度等ビジネス環境整備
●グローバル人材の育成および人的ネットワーク構築
インフラのみならず、健康な国民、そして健康な国民が構成する労働力も、国の安定や経済成長に不可欠です。すべての人に対して基本的保健医療サービスへのアクセスを保障し、健康向上を図ること、また医療費の支払いによって貧困に陥らないようにすることが重要です。さらに、健康の確保は人々の就学や就労の機会を増やし、その国の経済発展を促します。このため、保健医療分野の国際協力は、人々の命と健康に直接かかわる基本的な取組であるだけでなく、国づくりへの人的投資、ひいては平和な社会の構築、安定した経済・社会発展への投資、すなわち「未来への投資」といえます。
近年、国際的な努力により、世界の平均寿命や乳幼児死亡率などの保健指標は向上し、途上国の人々の健康は改善されていますが、世界には、劣悪な衛生環境や感染症の蔓延(まんえん)の中にありながら十分な保健医療サービスを得ることができない状況、つまり健康格差がむしろ拡大している国や地域が少なくありません。また、これらの国々では、保健課題別の支援および保健システム強化へのさらなる支援を必要としています。
日本政府は、2013年5月、「国際保健外交戦略」を策定し、世界が共通に直面する保健課題を外交の重要課題に位置付け、すべての人が予防・治療・リハビリなどの基礎的な保健医療を必要なときに経済的不安なく受けられることを意味する「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」に向けて取組を強化する方針を打ち出しました。日本は、国民皆保険制度等を通じて世界一の健康長寿社会を実現し高齢化社会に対応してきた実績があり、この経験や高い技術力を活かすことが可能です。2013年9月、安倍晋三総理大臣は国際保健外交戦略について、世界で最も評価が高いとされる医学専門誌「ランセット」に、G8諸国の首脳級としては初めて寄稿し、日本の考え方を詳細に説明しました。世界の疾病状況や保健ニーズが変化し多様化する中、特定の疾病の治療のみならず、各国や地域の実情に応じた政策や支援が不可欠です。日本は、この戦略の下、引き続きMDGsの達成への支援を進めるとともに、人間の安全保障を実現する上で欠かせないUHCの達成に向けて、二国間援助の効果的な実施、グローバルな取組との戦略的連携、国際保健の人材強化を図ります。また、これに連動する形で、保健医療サービスの質向上のため進めているのが日本の成長戦略の一つである医療技術・サービスの国際展開です。日本の先端医療技術の移転、優れた医療機器や医薬品の紹介、国民皆保険を実現した日本の公的医療保険制度の経験、医薬品や医療機器の開発から承認に至るプロセスについての相互理解の促進など、官民一体で世界の保健課題の解決に貢献していきます。
女性に対する投資は、男女平等の推進と女性の社会進出につながるもので、極めて効果の大きな未来に対する投資といえます。
世界には今なお男女間で就学率の違いが大きい地域が少なからずあります。女性が教育を受けることができれば、自身の健康や生活を改善できるのはもちろんのこと、出産や育児に関する知識を得ることや教育の重要性を認識することにより、その子どもたちの死亡率を低下させ、成長にも良い影響を与えることができます。また、教育を受けた女性は就労機会ひいては収入も得やすくなります。女性は、その収入を子どもたちの教育、栄養、保健衛生などのために使う傾向が高いため、女性が収入を得て、自ら所得を管理できれば、子どもたちがより良い教育を受け、より良い健康状態でいられることにつながります。このような女性の社会進出に資する女性に対する投資は、正に未来を担う子どもたちへの投資ともなるのです。
2013年9月、安倍総理大臣は、国連総会での一般討論演説において、「女性が輝く社会」の実現のために、女性の活躍と能力強化に資するような支援を強化し、今後3年間で30億ドルを超えるODAを実施することを表明しました。日本は、「女性の社会進出推進と能力強化」、「女性の医療アクセス改善や保健医療分野の取組」、「平和と安全保障分野における女性の参画・保護」をこのコミットメントの3つの柱とし、二国間協力および国際機関との連携を通じ、着実に支援を実施していきます。
第68回国連総会で「女性が輝く社会」について述べる安倍晋三総理大臣(写真:UN Photo/エバン・シュナイダー)