アフリカ、特に、サハラ砂漠より南に位置するサブサハラと呼ばれる地域は、依然として深刻な貧困問題に直面しています。サブサハラ・アフリカ諸国の大半(48か国中33か国)は後発開発途上国(LDCs)であり、人口の約半分が貧困の境界線である「1日約1.25ドル」以下の生活を送っています。また、この地域には、内戦や紛争、難民、干ばつによる飢餓、HIV/エイズをはじめとする感染症の蔓延(まんえん)など、発展を阻害する深刻な問題を抱える国も多く、国際社会からの多大な援助を必要としています。国連安全保障理事会(安保理)やG8サミットなどにおける議論でも、アフリカのこうした問題は国際社会の重大な関心事となっています。
一方、アフリカは豊富な天然資源に恵まれているほか、近年は目覚ましい経済成長を遂げており、「希望と機会の大陸」として国際社会の関心を集めています。
主食である稗(ひえ)を杵と臼で脱穀するニジェールの女性たち(写真:玉井誠子)
< 日本の取組 >
日本は、アフリカの主体的取組(オーナーシップ)と国際社会による協力(パートナーシップ)を基本原則とするアフリカ開発会議(TICAD(ティカッド))の開催を通じて、アフリカ自身による開発課題への取組に積極的に協力してきました。1993年に開始したTICADの15周年に当たる2008年5月には、横浜において第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)を開催し、2011年5月には、セネガルの首都ダカールにおいて第3回TICAD IV閣僚級フォローアップ会合を開催しました。同会合では、日本が東日本大震災後もアフリカの平和と安定のために積極的 役割を果たしていく考えに変わりなく、TICAD IVの公約を引き続き誠実に実現していくとの決意を表明したことに対し、参加国・機関から高い評価を得ました。
2011年9月の国連総会の一般討論演説において野田総理大臣(当時)は、2013年6月に日本において第5回アフリカ開発会議(TICAD V)を開催予定であると表明しました。2012年5月には、モロッコのマラケシュにて開催された第4回TICAD IV閣僚級フォローアップ会合においては、「横浜行動計画」を着実に履行していることに対して、多くの国から称賛が寄せられるとともに、TICAD Vに向けた出発点として、TICAD Vで重点を置くべき課題について議論されました。TICAD Vでは、近年のアフリカの経済成長を強固なものとしつつ、成果の恩恵が広く社会に行き渡るよう、引き続きアフリカ自身の取組を支援していきます。
また、日本はアフリカ地域における平和と安定の実現に向けた取組にも貢献しています。たとえば、南北スーダンへの支援は、TICAD IVの重点分野の一つに掲げられており、同時に日本が対アフリカ政策の重要な柱として強調する「平和の定着」に向けた支援の一例となっています。2008年にオスロ(ノルウェー)で開かれた第3回スーダン・コンソーシアム会合では、(1)南北スーダンのバランス、(2)対南部スーダン支援における人道支援から復興・開発支援への移行、(3)地域格差の是正を念頭に置きつつ、これまでの支援に加え、当面約2億ドルの支援を表明し、2010年8月までに約2億2,000万ドルの支援を実施しました。特に、2011年1月に実施された南部スーダンの独立を問う住民投票は、南北包括和平合意(CPA)履行プロセスの集大成であることを踏まえ、日本は住民投票の実施に対して約800万ドルの緊急無償資金協力を供与するなど、同国の平和の定着を支援しています。また、国際機関や日本のNGOと積極的に連携しながら、難民の帰還・再統合の支援、食糧支援などのほか、近年では、基礎生活分野およびインフラ整備等に対する支援を行っています。(スーダン・南スーダンについてはこちらを参照)
そのほか、民主的な政治プロセスを促進し平和の定着を図る観点から、大統領選挙等への支援も実施しています。2011年4月~2012年3月にはアフリカで多くの選挙が実施され、リベリア、コンゴ民主共和国、ギニアビサウ等においては、国連開発計画(UNDP)と連携し、投票箱などの選挙機材供与、選挙管理員の能力強化など総額約920万ドルの支援を行いました。これにより、これらの国における民主的な選挙の実施に貢献しました。
さらに、2011年度には、60年ぶりの大規摸な干ばつ被害に遭ったアフリカの角(つの)地域(ソマリア、ジブチ、エチオピア、エリトリアから成るアフリカ大陸の北東部地域)や、治安悪化と干ばつに苦しむモーリタニア、ニジェール、ブルキナファソ、チャドなどのサヘル地域(主に西アフリカのサハラ砂漠南端部周辺)の国々に対して、現地のニーズに合った迅速な食糧支援を実施しました。
●タンザニア/ルワンダ
「ルスモ国際橋及び国境手続円滑化施設整備計画」
無償資金協力(2011年8月~実施中)
インド洋に面するタンザニアのダルエスサラーム港から、ビクトリア湖の南側を回り、隣国ルワンダの首都キガリに至る国際幹線は中央回廊と呼ばれ、東アフリカ地域の主要国際経済回廊に位置付けられています。この回廊のタンザニア・ルワンダ国境にあるルスモ橋は両国間の物流の重要地点となっていますが、道幅が狭く老朽化も進み、貿易拡大に伴う交通量増加に対応できていません。
本事業は、老朽化したルスモ国際橋の架け替え、タンザニア・ルワンダ間の国境手続き円滑化のための施設建設および改修(ワン・ストップ・ボーダー・ポスト:OSBP※)を行うものです。これにより、ルスモ国境を通過する車両の重量・速度規制の緩和、越境手続きの時間短縮が可能となり、両国間の輸送コストの低減、貿易・投資の拡大に寄与することが期待され、タンザニア・ルワンダ両国のみならずブルンジやコンゴ民主共和国といった近隣内陸国も含めた周辺地域の経済発展に寄与すると期待されます。
2008年に開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)にて、日本はアフリカ地域の広域インフラや、隣接国の越境手続きを一本化し物流の効率化を図るOSBP整備への支援を表明しています。本事業は、日本政府が支援を表明した「アフリカ諸国の広域道路網・通関手続き円滑化施設の整備」を具体化するものです。
(2012年12月時点)※ ワン・ストップ・ボーダー・ポスト OSBP:One Stop Border Post 陸路における出国・入国手続きや税関検査等の国境手続きを、国境を接する二つの国が共同で行うことにより、一度で効率的に実施するため仕組み
混雑時の様子(写真:JICA)
●セネガル
「ティエス保健センター整備計画」
草の根・人間の安全保障無償資金協力(2011年3月~実施中)
セネガルの首都ダカールから東に70kmほどにあるティエス保健センターは、1975年に設立された公立医療施設です。同センターは周辺の州立病院や私立の診療所より診療費が安価なため、貧困層の多くが利用しています。しかし、建物は、1950年代のフランス植民地時代に建設されており、たいへん狭く、老朽化が激しいため、訪れる多数の患者を診察することが困難な状況でした。
日本政府は、官民連携の一環として三菱商事セネガル事務所のCSR活動と連携し、草の根・人間の安全保障無償資金協力を活用して、「ティエス保健センター整備計画」を実施しました。この計画では日本政府が同センターの歯科診療施設を、三菱商事がレントゲン施設を建設しました。公共性の高い企業活動とODAによる経済協力活動が連携することにより、日本の「顔の見える援助」としての広報効果も一層高まるといえるでしょう。
(2012年12月時点)建設された歯科治療室