中東・北アフリカ地域は、世界の石油埋蔵量の約5割、天然ガス埋蔵量の約4割を占めており、世界のエネルギーの一大供給地です。日本の石油資源の約9割を中東・北アフリカ地域に依存している上、日本と欧州とを結ぶ貿易の中心となる航路は中東地域を経由しており、日本の経済とエネルギーの安全保障という意味からも極めて重要な地域となっています。
また中東・北アフリカ地域は2011年から2012年にかけて、大きな政治的変動を経験しました。長期政権が崩壊した多くの国で選挙や憲法改正などが行われ、おおむね平穏に民主化プロセスが進んでいます。
しかし、経済的・社会的な状況は依然として改善したとはいえず、改革はこれからが正念場です。また、これらの地域の中には未だに情勢が不安定な国もあります。そうした国の改革努力を、経済的支援を通じて後押しし、地域の安定に貢献していくことは、その国自身や周辺諸国だけでなく、世界全体の平和と安定にもつながります。
さらに人口に占める若者の割合が高く、高い経済成長を続ける国が多いことも中東・北アフリカ地域の特徴であり、そうした伸び盛りの国が今後も安定した成長を実現できるよう援助していくことも重要です。
< 日本の取組 >
中東・北アフリカ地域には、パレスチナ問題に加え、アフガニスタンやイラクなど、生活・社会基盤の荒廃や治安の問題を抱える国や地域が多く存在します。これらの国や地域の平和と安定は、地域全体、さらには国際社会全体の安定と繁栄にも大きな影響を及ぼしかねないことから、これらの国・地域に対しては、持続的な平和と安定の実現、国づくりや国家の再建のために国際社会が一致団結して支援していくことがとても重要です。以上のような中東・北アフリカ地域の位置付けからも日本として積極的に支援を行う大きな意義があります。
ヨルダンでの現地政府パートナー職員の能力向上を目指した研修の様子(写真:加藤香子)
また、2010年12月以降、チュニジアを発端として中東・北アフリカ域内の各国・地域で市民による大規模デモが頻繁に起こりました。特にチュニジアとエジプトにおいては、そのデモによって旧政権が倒れ、民主的な政治プロセスへの道が開かれるなど、この地域はまさに歴史的な変革期に入っています。一方で、これらの中東・北アフリカ諸国における様々な改革や体制移行の動きはまだ始まったばかりです。今後、「政治体制の民主化」だけでなく、高い失業率、食料価格の上昇、貧富の差の拡大など、多くの経済的・社会的な課題を克服する必要があるため、域内各国はこれからたいへん重要な時期を迎えることになるといえます。この地域の平和と安定を保つ上でも、このような諸改革や体制の移行を安定的に実現させることが肝心であり、そのためにも国際社会による一層の支援が必要となっています。2011年5月に開催されたG8ドーヴィル・サミット(フランス)においても、出席した各国首脳は、この地域で起こっている変革の動きを「アラブの春」と呼んだ上で、この歴史的な変革を歓迎し、G8としてその努力を支援していくことを互いに確認しました。
中東・北アフリカ地域には、所得水準が高い産油国から、所得の低い後発開発途上国、あるいは紛争後の復興期にある国まで、その経済状況は様々です。日本としては、アフガニスタンやイラクにおける平和と安定の実現、中東和平の実現は、国際社会全体の平和と安全にかかわる問題であり、また、ODA大綱の基本方針である「人間の安全保障」ならびに「平和の構築」の実現という点からも意義が大きいと考え、国際社会と連携しつつ、積極的に支援しています。また、産油国においては、順調な経済発展を続けながら、産業の多角化を推進することで、石油に依存する経済から脱して、安定した経済基盤が構築できるように協力します。
また、石油等の天然資源がない低中所得諸国に対しては、貧困の削減に取り組むとともに、持続的な経済成長のための支援を引き続き実施していきます。特にG8ドーヴィル・サミット以降のハイレベル会合において、日本も、この地域で起こっている変革の動きに対して国際社会と連携して対応し、アジアの成長と安定に貢献してきた経験等を活かし、政府や民間企業が連携して、以下のような取組によって、この地域の安定的な体制移行および国内諸改革に向けた各国の自助努力を積極的に支援していくことを表明しました。
すなわち日本としては、(1)公正な政治・行政の運営、(2)人づくり、(3)雇用促進・産業育成を中心に支援していくとともに、(4)経済関係の強化と、(5)相互理解の促進にも取り組んでいくこととしています。これを受け、日本は2011年9月に10億ドルの円借款による支援を表明し、既に14億ドルの新規インフラ整備支援を決定または表明済みです。さらに、貴重な水資源の管理は地域の安定に影響を与える中東・北アフリカ地域の各国共通の重要課題です。日本は、国ごとに支援の分野や対象の重点を適切に配慮し、中東・北アフリカ地域の経済的・社会的安定と中東和平達成に向けた環境づくりのための支援を積極的に行っています。
重視していく点は、次のとおりです。
(1)平和の構築支援(イラク、アフガニスタン、パレスチナ)
(2)中東和平プロセス支援のための協力(対パレスチナ支援、周辺アラブ諸国支援など)
(3)公正な政治・行政運営のための支援(エジプト、チュニジアに対する選挙支援、格差是正と安定化支援(農村開発、貧困削減、水資源、防災、テロ・治安対策等)を含む)
(4)人づくりや雇用促進・産業育成に役立つ経済社会インフラ整備支援
(アフガニスタン、イラクおよびパレスチナについてはこちらを参照)
●オマーン
「電力省エネルギーマスタープラン策定プロジェクト」
開発計画調査型技術協力(2012年1月~実施中)
オマーンでは、電力需要の90%以上を自国産天然ガスによる火力発電でまかなっており、電力料金も低く設定されてきたことから、節電に対する意識は高くありません。しかし、近年の人口増加と経済成長により電力消費は急激に拡大していて、夏場には計画停電を行うこともあります。このため省エネルギーが重要な課題となっています。かつて日本はオマーンを対象に「電力合理化システム需給管理計画調査」(1997~1998年)を実施し、需要に合った電力系統を最適に管理するシステムを提言、電力供給側の改善に協力してきましたが、電力の消費側に対する取組がほとんど行われてきませんでした。
そこでオマーン政府は、消費側の省エネルギーの推進に関する協力を日本に要請し、2012年2月から「電力省エネルギーマスタープラン策定プロジェクト」をスタートしました。
このプロジェクトでは、現地調査やエネルギー診断を通じて、工場・事業所やビル、店舗、家庭の電力の使用実態を把握し、日本の経験・技術を紹介した上で、たとえば、企業のエネルギー消費管理、高効率電化製品の基準づくり・普及、省エネ意識の啓発などの施策の有効性や、導入の優先順位の検討を進めています。2013年3月までに、2020年までの行程表を含めた「電力省エネルギーマスタープラン」を提案する予定です。
(2012年12月時点)日本側専門家とオフィスビルの電力管理状況を調査(写真:JICA)