中南米地域の人口は5億9,000万人で、この地域は域内総生産4.8兆ドルの巨大市場です。また、民主主義が根付き、安定した成長を続けてきた上、鉄鉱、銅鉱、銀鉱、レアメタル(希少金属)、原油、天然ガス、バイオ燃料などの鉱物・エネルギー資源や食料資源の供給地でもあり、国際社会での存在感を高めつつあります。平均所得の水準はODA対象国の中では比較的高いものの、国内での貧富の格差が大きく、貧困に苦しむ人が多いことも、この地域の特徴です。また、アマゾンの熱帯雨林をはじめとする豊かな自然が存在する一方、地震、ハリケーンなど自然災害に弱い地域でもあることから、環境・気候変動、防災での取組も重要となっています。
モラレス・ドミニカ共和国外務大臣と会談する若林健太外務大臣政務官
< 日本の取組 >
日本は中南米諸国と伝統的に友好的な関係を築いています。日本のODAを通じて、これらの国々の持続的な成長への基盤づくり、貧困削減・格差是正のための支援、平和の定着、南南協力*などへの支援を行っています。中南米地域の持続的成長への支援としては、インフラ整備や様々な分野での人材育成を行っています。また、この地域の歴史的な課題となっている貧困と所得格差を改善するため、保健医療、教育、地域開発などの社会開発分野での支援も実施しています。さらに、2010年1月に発生したハイチの地震など、被災国に対する緊急・復興支援も積極的に実施しています。
より効果的で効率的な援助を実施するため、中南米地域に共通した開発課題については、中米統合機構(SICA)やカリブ共同体(CARICOM)といった地域共同体とも協力しつつ、広い地域にかかわる案件の形成を進めています。たとえば、CARICOM加盟諸国に対し、日本は「日本・カリコム・パートナーシップ・プログラム」に基づき、世界経済への統合、環境・気候変動の分野等での広域的な協力を実施しています。
また、長年の日本の経済協力の実績が実を結び、第三国への支援が可能な段階になっているブラジル、メキシコ、チリ、アルゼンチンの4か国との間では、中南米、アフリカ諸国などを対象として、第三国研修*や第三国専門家派遣*などを協力して実施しています。たとえば、ブラジルと共に、アフリカのモザンビークでの農業開発協力を進めているほか、メキシコ、アルゼンチン、ドミニカ共和国と協力し、震災後のハイチの復興支援を行っています。
中南米地域では、アマゾンの森林の減少、オゾンホールの拡大、気候変動によるアンデス氷河の減退や、ハリケーンなどの自然災害の多発といった環境問題も深刻になりつつあります。日本は、これらに歯止めをかけ、また影響をやわらげるため、自然環境保全、防災などの面で支援を実施しています。
日本は官民連携で地上デジタル放送の日本方式(ISDB-T方式)の普及に取り組み、2012年6月時点までに中南米では10か国が、日本方式を採用しています。日本はこれら採用した国々に対して、同方式を円滑に導入できるよう技術移転を行い、人材育成を行っています。
また、地震により多大な被害のあったハイチに対し、日本は地震発生直後から国際緊急援助隊医療チームおよび自衛隊部隊の派遣、国際機関を通じた医療・衛生分野での支援、食料・水・シェルターの供給、日本のNGOを通じた被災者支援を行いました。日本はこれまで総額1億ドルを超える復興支援を実施してきており、引き続きハイチの中長期的な震災復興のために、保健・衛生や教育といった基礎社会サービス分野を中心に支援を行っています。
さらに、2011年10月に発生した熱帯性低気圧の停滞により洪水などの災害に見舞われたエルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアに対し、発電機・毛布などの緊急援助物資を供与しました。
ペルーの山岳地域にて有望な熱源の探査を行う日本人専門家(写真:JICA)
用語解説
●グアテマラ
「ティカル国立公園文化遺産保存研究センター建設計画」
一般文化無償資金協力(2010年3月~2012年7月)
ジャングルの中に巨大ピラミッドがそびえ立つ、グアテマラのティカル国立公園は、マヤ文明を代表する文化遺産と自然保護地域から構成され、1979年にUNESCO(ユネスコ)の世界複合遺産に登録されました。現在、年間20万人を超える人々が訪れるグアテマラ有数の観光地となっています。マヤ文明最大規模の遺跡群であるティカル遺跡からは、陶器や石彫りなどの貴重な文化財が発掘されていますが、グアテマラには出土品を保存・修復できる施設がないため、貴重な文化財が劣化・損傷の危機にさらされていました。
そこで日本は、ティカル遺跡の貴重な文化財を保存・修復し、調査研究を行い、観光客に対して教育啓蒙活動を行うことのできる複合的施設「ティカル国立公園文化遺産保存研究センター」を建設しました。同センターの建設には日本人の研究者がかかわってきたほか、完成したセンターに環境への負荷を最低限に抑えるための日本の最先端環境技術が導入されるなど、日本の顔が見える援助となっています。また、日本の大学がグアテマラ文化スポーツ省との間で学術交流協定を結んでおり、その研究活動においてこのセンターが重要な拠点となることも計画されています。
今後、日本とグアテマラの協力により、ティカル遺跡の保存・研究が進み、グアテマラにおける文化遺産保護・文化振興が促進されることが期待されています。
ティカル国立公園文化遺産保存研究センターの外観
センター内部の展示ホール