メコン地域では、2011年に例年を上回る降雨があり、7月下旬以降、タイ、ベトナム、カンボジアを中心に広い範囲で洪水による被害が発生しました。これを受けて、日本は、これらの国々に対して緊急支援を実施しました。ここでは特に日本の報道でも大きく取り上げられたタイのケースについてご紹介します。
タイでは2011年7月下旬以降、北部、中部地方を中心に洪水が発生していましたが、10月上旬から、チャオプラヤ川に沿ってバンコク周辺でも大規模な洪水が起こるようになりました。最終的にバンコク中心部の冠水こそ免れたものの、洪水による犠牲者数は約800人となり、被害総額は世界銀行の推定で約1.44兆バーツ(約3兆6,000億円)に上りました。
バンコク周辺には、数多くの日本企業が進出しています。アユタヤ県を中心として多くの工業団地が存在しており、そのうち7つの工業団地が冠水しましたが、これにより、約450社の日系企業の工場を含め、多くの工場が操業停止を余儀なくされました。洪水はタイ経済に多大な損失を与えたのみならず、サプライチェーン(部品、部材等の供給網)の寸断によって日本を含む世界経済にも大きな打撃を与えました。
タイは、東日本大震災の際に迅速かつ多大な支援を行ってくれた親日友好国です。また、日本企業にとっては、生産拠点、サプライチェーンの要としてたいへん重要な役割を担っています。こうしたタイとの関係を踏まえて、日本はこの洪水被害に対して、様々な支援を実施しました。具体的には、緊急段階において、テント、浄水器、仮設トイレ等、2回にわたって合計5,500万円相当の緊急物資援助の供与を行いました。加えて、大型排水ポンプ等の購入のため、10億円を限度とした緊急無償資金協力を行いました。また、バンコク周辺において課題となっていた冠水地域の排水活動を行う排水ポンプ車専門家チームや、地下鉄、上水道、空港といった重要施設に対して防水指導を行う専門家を、国際緊急援助隊として派遣しました。特に、工業団地、教育機関、住宅地での効率的な排水活動は、タイ国内で大きな注目を集めました。(詳しくはこちらを参照)
さらに、洪水後の復興および洪水被害の再発防止の観点から、中長期的な洪水対策のマスタープラン策定を支援する「チャオプラヤ川流域洪水対策プロジェクト」を実施しています。このプロジェクトの成果の一部は、タイ政府が2012年1月に発表したチャオプラヤ川洪水対策マスタープランに反映されています。
これに加え、インフラの復旧・整備の観点から、洪水被害に遭った工業団地周辺での水門の設置や産業上重要な道路のかさ上げを実施するため、80億円規模の無償資金協力を実施することとしています。
こうした日本の継続的な支援に対し、2012年3月に東京で行われた日タイ首脳会談では、インラック・タイ首相から野田総理大臣(当時)に深い感謝の念が表明されました。
排水前(上)と排水活動完了後(下)のアユタヤ県ロジャナ工業団地(写真:JICA)