開発協力トピックス
官と民、日本とタイが協力し、洪水に立ち向かう-タイ洪水被害に対する国際緊急援助活動
2011年11月5日、10台の特別車両を載せた船が横浜港を出港しました。目的地はタイのレムチャバン港。これらの車両は日本政府が洪水で苦しむタイへの緊急援助として派遣した排水ポンプ車です。2週間後の11月18日、船はタイに到着。翌19日、現地入りしていた国際緊急援助隊専門家チーム(排水ポンプ車チーム)は、日本企業も数多く入居するアユタヤ県のロジャナ工業団地での活動を開始しました。24時間態勢で、団地の敷地内に溜まった水を隣接する運河などに排水していきました。派遣された排水ポンプ車は、国土交通省の地方整備局が所有していたものです。このように、今回の活動には外務省、国土交通省、JICAのほか、民間の建設会社やメーカーも参加し、累計51名から成る官民合同チームが組まれました。
この排水ポンプ車は、東日本大震災のときに津波で溜まった海水を排水するのにも使われました。その特徴は、ポンプ部分の軽量化を実現したことです。重量はわずか30kg。従来のポンプは800kgほどありましたが、この重量だと運搬にクレーンが必要です。災害現場でも対応できるよう日本のメーカーが人の手で運べる30kgに軽量化したのです。今回の活動にはポンプメーカーの設計責任者、望月暁久(もちづきあきひさ)さんも参加しました。海外の援助活動に初めて参加した望月さんは、「排水ポンプの設計のプロセスと災害現場での活動の両方に携わる機会を得て、地域の方々から感謝の言葉を直接いただき光栄です」と語っています。
現地での排水作業で活躍したのは、タイの人々でした。国土交通省から参加した宮島実(みやじまみのる)さんは、自身が国内の災害で対策本部の指揮を執った経験から、地域の防災に地元の人々がかかわる重要性を感じていました。「新しい作業は日本人とタイ人で組んで行いましたが、2回目からはタイ人だけで取り組んでもらうようにしました。タイの作業員は少し教えるとすぐに理解し、実践してくれました。」
ポンプを使った排水作業に参加したタイ人にニヨム・スックサワーンさんがいます。建設会社で働くニヨムさんは、日本人と働くのは初めてでした。土木工事の作業車両の運転や操作を得意とするニヨムさんは、排水ポンプ車の操作を担当し、「日本人は立派なポンプ車を持ち込み、技術や知識を教えてくれました。国際緊急援助隊の専門家は、手順を追って丁寧に仕事を教えてくれます。工業団地の再開を待っているタイ人労働者のために役立つことができました」と語りました。
国際緊急援助隊排水ポンプ車チームは作業開始から8日後の11月27日に同団地での作業を完了。場所によっては、1m以上水位が下がり、ボートで往来するしかなかった道路を多数の車両やバイクが走れるようになりました。しかし、国際緊急援助隊排水ポンプ車チームの仕事はこれで終わりません。その後も途切れることなく2か所の工業団地、3か所の住宅地、アジア工科大学でも排水作業を行いました。任務を完了した12月20日までの32日間に排水した水量は約810万m3、東京ドーム約6.5杯分に相当しました。
排水ポンプの使用方法をタイ側関係者に説明する日本人専門家(写真:JICA)
インラック・タイ首相に洪水対策について説明する日本人専門家(写真:共同通信社)