第2章 防災協力の実際

タイの洪水で大活躍した日本の排水ポンプ車(写真:JICA)

タイの洪水で大活躍した日本の排水ポンプ車(写真:JICA)

第1節 ASEAN に対する協力

開発努力を一瞬にして無にし得る自然災害に対して、適切に対処できる強靱(きょうじん)な社会を構築し、そのために、各国の施策において防災の主流化を促進していくことは、日本の国際協力における重要な柱の一つといえます。中でも、世界の自然災害による死者数・被災者数の9割以上を占めるともいわれるアジア地域における防災の主流化は特に重要です。

日本は、防災分野における協力を日・ASEAN協力の最重要課題の一つとして位置付け、これまで様々な支援を実施してきました。特に、2011年3月の東日本大震災後にASEAN諸国から日本に対して迅速かつ多大な支援が行われたことも踏まえ、日本は今後、ASEAN諸国に対する防災分野での協力をより一層強化していく考えです。

2011年7月の日・ASEAN外相会議では、日本から「ASEAN防災ネットワーク構築構想」が提案されました。この構想は、東日本大震災、阪神・淡路大震災、インドネシア・スマトラ沖地震等で得られた防災の知識や、日本の防災・環境分野における先進的な取組を、ASEAN地域で活かすことを目的とするものです。スマトラ沖地震で明らかになった地震・津波の広域的被害、気候変動の影響により多発化・激甚化する台風被害の広域化を踏まえ、ASEAN地域を一体としてとらえた防災ネットワークの構築を目指しています。具体的には、AHA(アハ)センター(ASEAN防災人道支援調整センター)の能力強化を支援するとともに、ASEAN各国に対して二国間の協力も行います。また、災害対策のための知識や経験、情報を共有することで、「宇宙から僻地(へきち)」に至るネットワーク強化の取組を行います。

AHAセンター(写真:AHAセンター)

AHAセンター(写真:AHAセンター)

AHAセンターは、2011年11月の第19回ASEAN首脳会議において設立協定が結ばれ、インドネシア(ジャカルタ)に設立されました。AHAセンターには、ASEAN地域の防災拠点としての機能が想定されており、平時には、ASEAN域内の災害時のリスク評価を行うとともに、継続的にASEAN域内の状況をモニターすること、また、災害が発生した際は、ASEAN各国と災害情報を共有し、緊急対応の調整を行うことを中心的な役割としています。

日本は、日・ASEAN統合基金(JAIF)の活用による、「AHAセンターの防災能力の向上およびASEAN域内の災害情報通信システムの構築」プロジェクトとして、AHAセンターが担うリスク特定とモニタリング機能の整備のため、同センターに対し通信関連機材を導入し、2011年11月からICT専門家1名を派遣しています。また、「災害発生時の緊急物資備蓄」プロジェクトとして、迅速で効果的な災害対応のため、緊急備蓄物資の提供と物資の管理・輸送体制の構築のための支援も行っています。また、AHAセンターが地域防災拠点として十分機能するよう、同センターの運営面についても支援しています。さらに2012年8月には、AHAセンターおよびASEAN各国の防災関係者を日本に招聘(しょうへい)し、防災に関する知見を共有するためのワークショップを実施しました。

ASEAN各国に対する二国間協力としては、専門家派遣や研修等の技術協力のほか、ベトナムに対する円借款「衛星情報の活用による災害・気候変動対策計画(第1期)」など、災害対策のための様々な支援も行っています。また、複数国にまたがる広域案件として、今後は、AHAセンターやASEAN各国が衛星情報を活用したり、域内の産業集積地が災害に対処するための能力を向上させ、その成果を域内全体で共有できるような支援も行っていきます。

災害情報をモニターするAHAセンター職員。AHAセンターに対し日本は日・ASEAN統合基金を活用してICT機材を整備した(写真:AHAセンター)

災害情報をモニターするAHAセンター職員。AHAセンターに対し日本は日・ASEAN統合基金を活用してICT機材を整備した(写真:AHAセンター)


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