第2章 共に成長するODA

「サイゴン東西ハイウェイ建設計画」のサイゴン川渡河トンネル内部で事業について説明する大林組の萩原正雄所長(写真:佐藤浩治/JICA)

「サイゴン東西ハイウェイ建設計画」のサイゴン川渡河トンネル内部で事業について説明する大林組の萩原正雄所長(写真:佐藤浩治/JICA)

第1節 民間資金の流入と途上国の成長

貧困、飢餓、感染症、気候変動、自然災害等、開発途上国は数多くの深刻な課題に直面しています。これらの課題を克服するためには膨大な資金が必要であり、それをODAのみで満たすことは困難です。多様な資金源を活用してそうした資金ニーズに応えていく必要があり、中でも民間資金は重要な役割を果たすことが期待されます。近年、途上国への民間資金の流れは大きく増加しており、途上国に流れる資金の7割を占めるといわれます。途上国に対するDAC(ダック)諸国からの民間資金は2011年には3,223億ドルであり、同年のDAC諸国のODA総額1,340億ドルの2倍以上となっています。

途上国の効果的な開発にとって、民間セクターの役割は重要です。海外からの直接民間投資は、途上国に資金のみならず技術や知識、経験の移転をもたらし、国内の産業の強化や雇用の増大にもつながります。また、世界経済のグローバル化が進展する中、海外から直接民間投資が増えれば、国際市場へのアクセスや国際競争力を高めることにもなり、途上国の成長に大きな役割を果たします。

民間投資を呼び込むためには、安定した政治状況、企業活動を可能とする法制度や信頼性の高い司法・裁判制度、活動の基盤となるインフラ等が整備されていることが不可欠です。従来、日本は途上国における民間投資の促進を目指し、インフラや貿易・投資環境の整備のための支援に積極的に取り組んできました。特にアジア地域では、日本のODAによる経済インフラ整備が呼び水となって民間投資が促進された結果、高い経済成長を実現しました。

アフリカ地域は、一部の国の政治的不安定やインフラの不足等の制約要因はあるものの、豊かな天然資源や市場としての潜在性が広く認識されており、民間セクターのアフリカ地域への関心は高まっています。日本もアフリカ開発会議(TICAD(ティカッド))の枠組みを通じて、民間セクター主導のアフリカの経済成長を後押ししています。また、2012年のG8サミットでは、サブサハラ・アフリカの食料安全保障と栄養の向上のための新たなイニシアティブとして「食料安全保障および栄養のためのニュー・アライアンス」が立ち上げられ、民間セクターの活力や技術革新を梃子(てこ)として、アフリカの農業分野の成長を通じて経済を発展させていくことが合意されました。

このように、ODAを活用してインフラや貿易・投資環境を整備することにより、途上国における企業活動の制約を減らし、投資のコストやリスクを軽減することによって、民間セクターの活動を促進させるという、ODAと民間資金の密接な連携は、途上国、援助国、民間セクターの三者すべてにとって有益です。ODAと民間資金が相乗効果を発揮することによって、より効率的に途上国に高い経済成長をもたらすことができます。また、日本企業を含む民間企業にとっては海外での事業展開が容易になり、新たなビジネスの可能性を広げることとなるのです。

収穫した新米を持つモザンビーク・ザンベジア州の地元農民たち。日本はベトナムと協力して稲作生産性向上のための技術改善プロジェクトを行っている(写真:谷本美加/JICA)

収穫した新米を持つモザンビーク・ザンベジア州の地元農民たち。日本はベトナムと協力して稲作生産性向上のための技術改善プロジェクトを行っている(コラム「ベトナムと共にモザンビークの稲作を改善する」参照)(写真:谷本美加/JICA)


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