昨今のグローバル化に伴う新興国・途上国の急速な経済成長、少子高齢化に伴う国内需要の伸び悩みといった状況の中、日本の中小企業が生き残るためには、新興国や途上国における海外の経済成長をいかにして国内に取り込むかが重要な課題になっています。中小企業の海外展開支援については、中小企業海外展開支援会議の事務局となっている経済産業省とも連携し、外務省・JICAも、途上国支援と国内経済の活性化の両立に資する新たな取組を2012年度より開始しました。具体的には、経済産業省・中小企業庁・日本貿易振興機構(JETRO)とも緊密に連携しながら、ODAを活用して、途上国の開発課題の解決を図り、優れた製品・技術を有する一方で海外事業に関する知見やノウハウの情報を必要としている日本の中小企業等の海外展開にも貢献することを目指します。第1章第5節において、優れた技術やノウハウを持つ地方自治体との連携を紹介しましたが、中小企業についても、ODAを活用して支援するものです。以下のような新たなスキーム(援助手法)の立ち上げや既存スキームの活用により、ODAを通じた二国間関係の強化と経済外交の一層の推進を同時に図る考えです。
プロジェクト型の無償資金協力としては、中小企業の優れた技術・製品を活用して施設などの整備を行うことが可能です。たとえば、再生可能エネルギー分野で、日本の中小企業の技術に優位性がある小水力プラントを利用した地方電化プロジェクトを予定しており、現在JICAが協力準備調査を実施しているところです。
ノン・プロジェクト無償資金協力としては、途上国の要望を踏まえて日本の中小企業の製品の購入を支援する「中小企業ノン・プロジェクト無償」を2012年度から開始するため、その制度設計および途上国に対する要望調査を行い、その結果を踏まえて実施します。日本の中小企業が製造している製品のうち、被援助国にニーズがあり、その経済社会開発に役立つと考えられる品目の購入を、被援助国の要請に基づき支援するものです。
2012年度から、新たに上記の委託調査事業を開始しました。同調査事業は、(1)ニーズ調査、(2)案件化調査、(3)途上国政府への普及事業の3つから成ります。
(1) ニーズ調査は、日本の中小企業の製品・技術の開発課題の解決における活用ニーズを網羅的に把握し、開発援助案件としての事業化に必要な調査を開発コンサルタントなどに委託して行うものです。
(2) 案件化調査、および、(3)途上国政府への普及事業は、日本の中小企業等からの提案に基づき、ODA事業への展開を念頭に、途上国政府関係機関等と協議の上、中小企業等の製品・技術の活用、または技術指導等を行うもので((3)については製品・技術の現地におけるニーズ調査や紹介、試用、適合性の検証を含みます)、途上国の開発に資する事業計画の立案等を支援します。なお、これら案件化調査、途上国政府への普及事業については、2012年度の経験を元に制度面での手直し等を加えながら継続していきます。
いずれも2012年7月下旬の応募締切日までに、採択予定数に対し3~4倍の応募があり、外部専門家を含む審査員による厳正な審査を経て、ニーズ調査8件、案件化調査32件、途上国政府への普及事業10件を採択しました。地域としては、ベトナム、フィリピン、インドをはじめアジアに、分野については、環境・エネルギー・廃棄物処理、職業訓練・産業育成、水の浄化・水処理等に多数の提案が寄せられました。今後、ODAを活用し、中小企業の海外展開支援に貢献する優良案件の形成に努めていきます。
日本の中小企業が海外展開する上で、人材の育成・確保は重要な課題です。このため、中小企業の人材が途上国での国際協力活動を経験することができるJICAを通じた技術協力やボランティア派遣(「青年海外協力隊(JOCV)」と「シニア海外ボランティア(SV)」を活用し、中小企業の優れた人材や技術と連携した研修生受入れや専門家派遣も強化していきます。JOCVとSVについては、2012年度から中小企業におけるグローバルな視野を持った人材育成の場としても活用できる「民間連携ボランティア」制度を新たに実施することとしました。同制度では、社員派遣を希望する中小企業との間で、事前に派遣希望国・職種・期間・時期について企業側の要望を聴取、調整するなど、通常のボランティアよりも中小企業の方が参加しやすい仕組みとしています。
また、経済産業省でも、日本の若手人材を対象に途上国に派遣する海外インターンシップの取組を新たに開始しています。そのほか、中小企業が海外に事業を展開する上で必要となる現地の産業人材育成の取組として、現地拠点で必要となる幹部人材などの受入研修や専門家派遣を通じた生産管理技術の移転などの支援を実施しているほか、日本の優れた中小企業の技術をPRするためのセミナーや現地企業関係者と国内中小企業との交流を促進しています。
日本製の農業機械の販路を世界に拡大したいが、ビジネス拡大の手がかりとなる現地の情報や人脈が不足している、という北海道の農業経営者の声と、農業振興による経済成長のために優れた農業技術を学びたい、というウクライナ政府関係者・農業関係者の声を受けて、ODAを活用し、JICAがウクライナから政府関係者・農業関係者を招待して、小麦の品質管理技術等の研修を実施しました。この研修を通じて、ウクライナ側は日本の農業技術等を学ぶとともに、日本の農業経営者・農業機械メーカー等は人脈を形成することに成功しました。
また、ODAを活用した中小企業等の海外展開支援に係る委託事業「案件化調査」で採択された例として「太陽光発電を用いた水浄化事業案件化調査」があります。これは水の浄化に必要な電力インフラが整備されておらず、水道が普及していないケニアの農村部において、太陽光発電式小規模分散型浄水システムの導入・普及を図る事業の調査を行うものです。このシステムで安全な水を供給することにより、ケニアの衛生環境改善とともに、日本の中小企業の水関連ビジネスの展開への貢献が期待されます。