第3節 インフラ輸出を通じた成長への貢献

開発途上国の貧困削減のためには、人間の基礎的ニーズ(BHN)への対応に加えて、持続的な経済成長の実現と安定的な雇用の拡大が重要です。G8、G20といった国際的なフォーラムにおいても、原材料・製品の輸送網の構築や工場の操業に必要な電力供給など経済活動を支えるインフラ(経済社会基盤)の整備、それを通じた貿易・投資の活性化が重要であることについて幅広い意見の一致が見られます。新興国・途上国におけるこうした旺盛なインフラ需要は日本の企業にとって大きなビジネスチャンスをもたらすものでもあり、日本は官民で積極的に連携してインフラ関連産業の国際展開に取り組んでいます。民間の資金・技術も動員して開発途上国のインフラ整備を進めることは、途上国経済にも多くの恩恵をもたらします。海外直接投資の促進による新たな産業の創出、技術移転を通じた産業の高度化、雇用促進など多様な効果が見込まれます。

日本の経済の視点からは、開発途上国のインフラ整備は日本企業の投資環境整備につながり、成長する海外市場の需要を取り込むことになります。日本企業の投資先として期待が高まる地域において、日本政府は、道路・橋梁(きょうりょう)・鉄道・港湾・空港などの輸送網の整備に向けた支援を実施しているほか、高効率の火力発電所等日本の優れた技術を活用した電力の安定供給のための支援や防災等に対応するための情報通信技術の支援等を行っています。同時に、法制度整備支援や税関の能力向上等も投資環境改善に極めて重要です。

ある国同士が貿易を行う場合、地理的な距離に比例した物流コストが発生します。一般的には、距離が離れるほど貿易量は低減しますが、輸送インフラを整備することによって、輸送日数の短縮・輸送量の増加を図ることができ、貿易を盛んにすることが可能です。物理的に離れた経済圏同士の物流量を増大させることで、経済統合を進め、一層の貿易の活性化が期待できます。また、こうした経済統合は、域内の格差是正にも有効です。

岸田文雄外務大臣は訪問先のフィリピンでデル・ロサリオ外務大臣と会談し、ビジネス環境整備等を通じた貿易・投資の拡大、インフラ整備などの協力を進めることで一致した

岸田文雄外務大臣は訪問先のフィリピンでデル・ロサリオ外務大臣と会談し、ビジネス環境整備等を通じた貿易・投資の拡大、インフラ整備などの協力を進めることで一致した

日本は、世界各地で経済回廊などの広域インフラ整備の支援を行っており、域内貿易活性化を通じた開発途上国の経済成長実現に取り組んでいます。2011年11月の日・ASEAN首脳会議では、事業規模として約2兆円と見積もられる地域内の連結性強化に役立つ主要案件リスト「フラッグシップ・プロジェクト」の実施のために、ODAも含めて活用していく必要性に言及しました。また2012年の第4回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) IV)フォローアップ会合においても、アフリカの成長加速化のためのインフラ整備の重要性を指摘し、引き続き支援に取り組んでいくことを表明しています。開発途上国でのインフラ整備を支援するために、日本は今後もODAを様々な形で活用していきます。

開発途上国のインフラ整備を進めるためには民間との連携が重要であり、日本のODAは、そうした新たな政策ニーズに対応するため既存の制度改善や新制度の導入を進めています。JICAは、民間企業の知識・経験、資金、技術等を活用するとともに、民間企業の海外展開を後押しするため、官民連携(PPPインフラの事業化調査の提案を民間より公募し、提案した企業に調査を委託する制度を2010年度より開始しました。これまでに26件の案件が採択され(2012年12月現在)、多くの企業がインフラODA案件の形成に取り組んでいます。

途上国の開発に貢献する民間事業へ直接の出資・融資を行うJICA海外投融資制度についても、インフラ分野を含む案件の審査等を試験的に実施した上で、実施体制の検証を完了し、2012年10月に本格再開を実現しました。海外投融資本格再開後の第1号案件として、2013年1月30日には、「ベトナム国ロンアン省環境配慮型工業団地関連事業」の融資契約の調印が行われました。

この事業は、急速な工業化が進むベトナムにおいて、ロンアン省内の工業団地に対して、日本企業がその技術・ノウハウを活用し、工業団地内で排出される排水の処理、および給電関連の整備・運営維持管理のサービス提供を実施し、環境配慮を行った工業団地の整備を推進するものです。この事業が今後の官民連携(PPP)案件のモデルケースとなり、インフラ分野での官民連携が進展していくことが期待されます。

また、公的ファイナンス支援の強化の一環として、上述の海外投融資の本格再開に加え、円借款の戦略的活用も重要であり、円借款手続きの迅速化や中進国および中進国を超える所得水準の途上国への柔軟な活用などに取り組んでいるところです。

加えて、経済産業省においては技術協力に関し、現地の企業人材等に対する日本のインフラ技術の理解の促進に向けた研修事業や、日本企業がインフラ案件を受注する上で不可欠なコスト競争力の確保に向けた現地拠点人材の育成、日本の若手人材の政府系インフラ機関等に対する派遣を通じた、現地におけるネットワーク強化とグローバル人材育成の支援に取り組んでいます。

プノンペン市内に架かるチュルイ・チョンバー橋。通称は「日本橋」。日本のODAで修復した(写真:佐藤浩治/JICA)

プノンペン市内に架かるチュルイ・チョンバー橋。通称は「日本橋」。日本のODAで修復した(写真:佐藤浩治/JICA)

発展するホーチミン市。サイゴン東西ハイウェイとトンネルを眼下に望む(写真:永武ひかる/JICA)

発展するホーチミン市。サイゴン東西ハイウェイとトンネルを眼下に望む(写真:永武ひかる/JICA)

タジキスタンの首都とアフガニスタン国境を結ぶ国道の建設現場(写真:久野真一/JICA)

タジキスタンの首都とアフガニスタン国境を結ぶ国道の建設現場(写真:久野真一/JICA)

国道の改修工事。橋梁工事の現場で進捗状況をチェックする日本とガーナの技術者(写真:飯塚明夫/JICA)

国道の改修工事。橋梁工事の現場で進捗状況をチェックする日本とガーナの技術者(写真:飯塚明夫/JICA)

用語解説
経済回廊
道路や橋といったハードインフラ整備に加え、通関手続きの簡素化等のソフトインフラも整備し、開発の恩恵が回廊沿いの産業発展や人々の生活改善にも及ぶように計画されたプロジェクト群を意味する。このように物流インフラを総合的に整備し、地域間の輸送量を増やすことで、経済の活性化を目指す。具体的な例では、メコンの各地域を結ぶ、ミャンマーからタイを経由し、ラオス、ベトナムを結ぶルートの東西経済回廊、タイ・バンコクからカンボジアを経てベトナム・ホーチミンに至る南部経済回廊などがある。
ODAを活用した官民連携(PPP: Public-Private Partnership)
官によるODA事業と民による投資事業などが連携して行う新しい官民協力の方法。民間企業の意見をODAの案件形成の段階から取り入れて、たとえば、基礎インフラはODAで整備し、投資や運営・維持管理は民間で行うといったように、官民で役割分担し、民間の技術や知識・経験、資金を活用し、開発効率の向上とともにより効率的・効果的な事業の実施を目指す。
PPPの分野事例:上下水道、空港建設、高速道路、鉄道など。
JICA海外投融資
JICAが行う有償資金協力で、日本の民間企業が途上国で実施する開発事業に対し、必要な資金を出資・融資するもの。民間企業の開発途上国での事業は、雇用を創出し経済の活性化につながるが、様々なリスクがあり高い収益が望めないことも多いため、民間の金融機関から十分な資金が得られないことがある。海外投融資は、そのような事業に出資・融資することにより、開発途上地域の開発を支援するもの。支援対象分野は(1)MDGs・貧困削減、(2)インフラ・成長加速化、(3)気候変動対策。円借款は途上国政府に行う経済協力であるのに対して、海外投融資は、日本の民間企業が途上国の政府以外の民間企業と行う活動に対し支援を行うことを通じて開発に貢献するもの。

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