第4節 インフラ開発を通じた成長の有用性

1. インフラの開発がなぜ途上国の経済成長にとって有益か

貧困削減のためには、地域の経済活動を活性化させ、安定的な雇用を生み出すことが有効な手段となります。経済活動活性化の方策としては、域外からの投資を呼び込むこと、および域内の貿易を活性化させることが考えられます。こうした方策の実現を加速させるために必要となるのが、原材料・製品の輸送網や操業に必要な電力供給など、経済活動を支えるインフラ(経済社会基盤)の整備です。

新成長戦略においては「パッケージ型インフラ海外展開」を国家戦略プロジェクトとして掲げ、その取組を強化していますが、これは日本の復興と成長とともに、開発途上国における経済成長と貧困削減に大きく役立つものです。

2. 域外からの投資促進による経済振興

開発途上国への投資を促進することにより、新たな産業の創出、技術移転、雇用促進など多様な効果がもたらされます。企業が活動を行うためには、ソフト・ハード面で様々な要素が必要ですが、中でも重要な要素の一つが、経済活動を支えるインフラの整備です。

日本企業の投資先として期待が高まる地域において、日本政府は、道路・橋梁(きょうりょう)・鉄道・港湾・空港などの輸送網の整備に向けた支援を実施しているほか、情報通信技術、再生可能エネルギーやスマートグリッド(次世代送電網)など、日本が持つすぐれた技術も活用して、電力の安定確保に向けた支援などを進めています。

カンボジア「国道1号線改修計画」この事業により道幅が広げられて渋滞が解消された(写真提供:佐藤浩治/JICA)

カンボジア「国道1号線改修計画」この事業により道幅が広げられて渋滞が解消された(写真提供:佐藤浩治/JICA)

3. 地域の経済統合推進による域内貿易活性化

ある地域同士が貿易を行う場合、地理的な距離に比例した物流コストが発生します。一般的には、距離が離れるほど貿易量は低減しますが、輸送インフラを整備することによって、輸送日数の短縮・輸送量の増加を図ることができ、輸送コストを低減させ、貿易を盛んにすることが可能です。物理的に離れた経済圏同士を輸送インフラで連結することで経済圏を新たに統合することができ、その域内における貿易の活性化が期待できます。また、こうした経済統合は、域内の格差是正にも有効です。

日本は、世界各地で経済回廊(用語解説参照)などの広域インフラ整備の支援を行っており、域内貿易活性化を通じた開発途上国の経済成長実現に取り組んでいます。2010年度においても、日・ASEAN首脳会議で、「ASEAN連結性に関するマスタープラン」(図版参照)実施に貢献する用意があると表明したほか、第4回アフリカ開発会議(TICAD(テイカッド) IV)フォローアップにおいても、アフリカの成長加速化のためのインフラ整備を掲げるなど、引き続き支援に取り組んでいくことを表明しています。

4. 開発途上国でのインフラ整備を推進するための諸制度

開発途上国でのインフラ整備を支援するために、日本は従来よりODAを様々な形で活用してきました。新成長戦略においては「パッケージ型インフラ海外展開」を国家戦略プロジェクトとして掲げており、開発途上国でのインフラ整備を支援するための諸制度についても、これを発展させ、有効活用するための検討がなされています。

JICAでは、民間企業の知識・経験、資金、技術等を活用するとともに、民間企業の海外展開を後押しするため、官民連携(PPP)インフラの事業化調査の提案を民間より公募し、提案した企業に調査を委託する制度を2010年度より開始しました。また、途上国の開発に寄与する民間事業へ直接の出資・融資を行うJICA海外投融資制度についても再開し、試験的に行う案件への出資・融資に向けた準備を進めています。

さらに、2011年8月には、パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合および外務省における「ODAのあり方に関する検討」(注20)での議論を受け、中進国および中進国を超える所得水準の開発途上国に対し、具体的なパッケージ型インフラ案件の受注や資源獲得等のために直接的に有効であることが確認できる場合には、案件によっては、戦略的かつ例外的に円借款を活用していくことが決定されました。

こうした様々な制度を活用し、開発途上国でのインフラ整備を引き続き支援していきます。

用語解説

新成長戦略

日本経済を成長させるための政策。7つの戦略分野<1>環境・エネルギー、<2>健康(医療・介護)、<3>アジア経済戦略、<4>観光立国・地域活性化、<5>科学・技術・情報通信、<6>雇用・人材、<7>金融、と21の国家戦略プロジェクトを定めた。

パッケージ型インフラ海外展開

「新成長戦略」にて、「パッケージ型インフラ海外展開」として官民連携によるインフラ事業展開を推進している。アジアを中心とするインフラ需要に対して、民間企業の取組を支援し、日本企業が電力、鉄道、水、道路事業などの海外でのインフラ整備をめぐり、施設建設などのハードインフラだけでなく、その事業運営に必要な知識・経験、技術の移転、管理運営に関する人材育成などのソフトインフラ整備まで、パッケージ型に支援する考え方。

JICA海外投融資

JICAが行う有償資金協力で、日本の民間企業が途上国で実施する開発事業に対し、必要な資金を出資・融資するもの。民間企業の開発途上国での事業は、雇用を創出し経済の活性化につながるが、様々なリスクがあり高い収益が望めないことも多いため、民間の金融機関から十分な資金が得られないことがある。「海外投融資」は、そのような事業に出資・融資することにより、開発途上地域の開発を支援するもの。支援対象分野は<1>MDGs・貧困削減、<2>インフラ・成長加速化、<3>気候変動対策。円借款は途上国政府に行う経済協力に対して、海外投融資は、日本の民間企業が途上国の政府以外の民間企業と行う活動に対し支援を行うことを通じて開発に貢献するもの。


注20 : 「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」 2010年6月29日付: http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/kaikaku/arikata.html


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