第2節 途上国支援を通じた日本経済復興
訪問先のベトナムでグエン・タン・ズン首相と会談する山口壯外務副大臣
東日本大震災からいち早く立ち直り復興していくためには、「復興基本方針」にもあるとおり国際社会とも協力しながら、官民一体となった「開かれた復興」を実現することがきわめて重要です。「平成23年度国際協力重点方針」(2011年6月発表)においては、最優先課題として被災地の復興と防災対応への直接的な貢献を行うとともに、日本再生・復興を支える力強い経済成長への貢献のために途上国支援を活用することが挙げられています。
たとえば、日本の民間企業によるインフラの海外展開をODAを通じて支援する際には、災害に強い日本のインフラ技術を、ODAプロジェクトに積極的に活用していきます。具体的には、日本の民間企業の海外進出の前提となるビジネス環境の整備(空港、港湾、道路、情報通信網)等において、主に円借款による整備を行っていきますが、加えて、周辺インフラの整備やモデルケースとしてのインフラ支援では、無償資金協力も活用します。その際には、耐震性をはじめとする日本の基準や制度の優位性が認められ、そうした基準や制度が途上国においても受け入れられるよう、技術協力による法制度整備支援や人材育成を通じた環境整備も積極的に推進していきます。
また、震災後のエネルギー政策においては、再生可能エネルギーや省エネルギーの比重が高まることを踏まえ、日本のすぐれた省エネルギー・環境技術の普及をODAを通じ支援していきます。これは、気候変動対策の推進およびグリーン成長の実現に向けた貢献の一環です。こうした技術の海外展開は、企業にとっても大きなビジネスチャンスとなります。
さらに、日本再生・復興を支えるためにも日本企業の途上国での活動の環境整備を行うとともに、日本企業が多数活動するASEAN(アセアン)地域の連結性強化(注7)を支援します(注8)。途上国の持続的な経済成長のためにも、貿易・投資などの民間活動の活性化は重要です。途上国のハード、ソフト両面のインフラ整備に加え、貿易・投資に関する諸制度の整備や人材育成支援、知的財産保護や競争政策などの分野における政府の機構制度の整備および能力向上、都市環境の悪化や感染症対策等、成長への障害を克服するための支援などに取り組みます。
最後に、今後の復興に必要となる資源・エネルギーの需要増も見込み、資源・エネルギー、食料の安全供給確保、供給源の多角化を推進するため、当該国への援助の基本方針を踏まえながら、ODAを積極的に活用します。すなわち、資源や食料の輸出国およびその周辺地域の安定的発展を図るとともに、そうした諸国と総合的かつ戦略的な関係を構築します。また、日本のシーレーン(海上交通路)の安全確保のため、沿岸国の安定的発展と能力強化を支援します。さらに、環境に適切に配慮しつつ、途上国とのエネルギー供給のための協力を推進していきます。
このような方針の下、2011年度から支援パッケージの策定調査、貿易・投資環境整備および法制度整備支援、省エネルギー・環境技術の普及促進などの事業を実施しています。支援パッケージの策定調査においては、日本のインフラ技術(上下水道、電力、高速道路・鉄道、情報通信等)を海外に展開するに当たり、計画策定から実施までの総合的かつ戦略的な事業実施の機能を強化するための支援パッケージを策定し、一部については試験的な事業の実証を行っています。
また、貿易・投資環境整備および法制度整備支援においては、アジアをはじめとする開発途上国において、企業活動が円滑に行われるための制度を整備し、民間企業に対し良好なビジネス環境を提供できるようにするために、民事関連法の整備、投資関連法令、民事紛争解決の透明性向上、通関手続のレベル向上、知的財産権保護などの整備に係る支援を行っています。
省エネルギー・環境技術の普及促進においては、公共部門・産業部門等における省エネ戦略や基本計画策定、省エネの導入や普及の促進に向けた政策策定支援、実施体制構築・人材育成等を行っています。
こうした取組を通じて、今後も途上国支援を実施し、同時に日本の経済復興にも貢献していきます。
注7 : ASEANの連結性強化とは、運輸、情報通信、エネルギー網などの「物理的連結性」、貿易、投資、サービスの自由化・円滑化などの「制度的連結性」、観光・教育・文化における「人と人との連結性」の3つからなる(図版参照)
注8 : 支援の資金手当はODAに限らず、国際協力銀行(JBIC)等も活用し、民間資金を動員する仕組みも考えていく必要がある
ASEAN連結性マスタープラン
ベトナム「カイメップ・チーバイ国際港開発計画」カイメップ港の建設現場(写真提供:佐藤浩治/JICA)
日本のASEAN連結性支援のイメージ(ハードインフラ)
カンボジア「シハヌークビル港経済特別区開発計画」カンボジアで唯一外洋に面した大水深を持つ国際港湾
ベトナム「サイゴン東西ハイウェイ建設計画」サイゴン川渡河トンネル料金所にて(ホーチミン市)(写真提供:佐藤浩治/JICA)
用語解説
*経済回廊
道路や橋といったハードインフラ整備に加え、通関手続の簡素化等のソフトインフラも整備し、開発の恩恵が回廊沿いの産業発展や人々の生活改善にも及ぶように計画されたプロジェクト群を意味する。このように物流インフラを総合的に整備し、地域間の輸送量を増やすことで、経済の活性化を目指す。具体的な例では、メコンの各地域を結ぶ、ミャンマーからタイを経由し、ラオス、ベトナムを結ぶルートの東西経済回廊、タイ・バンコクからカンボジアを経てベトナム・ホーチミンに至る南部経済回廊などがある。