第3章 復興外交とODA
「中米広域防災能力向上プロジェクト“BOSAI”」エルサルバドルでコミュニティ防災マップを住民と市職員、青年海外協力隊員が一緒につくる(写真提供:JICA)
第1節 被災地復興と防災対策の世界との共有
これまでどおり、または、これまで以上に国際社会の平和と安定に貢献していくためには、既に表明した国際的な約束を誠実に実施していくことはもとより、今回の震災を経て蓄積された経験や知識に基づく教訓を世界と共有していくことが重要です。また、東北の被災地の復旧復興に当たり、海外の知識や経験や活力を動員することも求められています。こういった施策を進めていくに当たって、ODAは大きな役割を果たすことが期待されます。
2011年6月25日に公表された東日本大震災復興構想会議の提言「復興への提言~悲惨のなかの希望~」は、「我が国は、国際社会との絆を強化し、内向きでない、世界に開かれた復興を目指さなければならない」として、「開かれた復興」を復興の4つの柱の一つに据えています。その上で、「今回の教訓を国際公共財として海外と共有することが必要である。こうして、防災・『減災』の分野で国際社会に積極的に貢献していくことは、我が国が今後果たすべき責務である。復旧・復興過程での教訓を活かして、アジアをはじめとする途上国の人材を育成するなど、人の絆を大切にした国際協力を積極的に推進すべきである。」としています。
この提言も踏まえ、6月27日に発表した平成23年度国際協力重点方針でも示したとおり、外務省は、JICAとも協力し、人の絆を大切にした国際協力を積極的に推進していく方針です。具体的には、7月21日に発表した「ASEAN防災ネットワーク構築構想」に見られるように、今回の震災についての日本の経験と教訓を共有するため、行政経験の共有に加え、地震や津波を始めとする防災対策や緊急援助隊の活動を含む災害対応の知識・経験を伝えるための支援を拡充し、途上国の人材を育成していきます。また、津波防災に係る学術研究の国際的共有・発信の分野でも貢献していく方針です(注4)。
日本は、グローバルな防災協力を引き続き主導していくためにも第3回国連防災世界会議(2015年開催予定)の招致を目指しています。また、同会議の準備を兼ねてハイレベル国際会議を開催し、各地で頻発する大規模災害に関する経験と教訓を共有していきます。
また、途上国側の要望を踏まえながら、被災地の復興にも役立つ形で、ODAによる途上国支援に被災地産品を積極的に調達していきます。また、外国人研修員の被災地の視察を積極的に進めて正確な情報発信につなげ、風評対策の一環とします。また、現地の状況を十分に考慮しつつ、被災地への外国人研修員の受入れを推進していきます。これらにより、被災地産業を支援し、被災地経済への貢献を進める方針です。
さらに、復旧復興過程に国際協力関係者の知識や経験を活かしていくことも求められています。外務省およびJICAは、震災発生直後から、国連災害評価調整(UNDAC)(注5)チームや国連人道問題調整部(UNOCHA)(注6)の活動を支援しました。また、青年海外協力隊経験者や多くの国際協力NGOが、途上国援助で培った知識・経験を活用して、被災地における避難所運営支援、被災者支援等の活動を行ってきました。今後とも、紛争・災害救援や復興支援に知識・経験を有する日本の国際協力NGOや青年海外協力隊経験者、開発コンサルタントの知識・経験が震災復興に十分活かされるよう協力していきます。
こうした施策の展開により、官民一体となった開かれた復興に、ODAを有効に活用していく考えです。
青年海外協力隊事業参加者に対する外務大臣感謝状の授与式で帰国隊員と懇談する加藤敏幸外務大臣政務官
福岡県の消防署と共同で消防訓練に取り組む各国の研修員たち(写真提供:今村健志朗/JICA)
注4 : JICAは、東北大学災害制御研究センターと連携し、プロジェクト研究「地震・津波に対する効果的アプローチの検討」を実施。地震・津波災害の分析や緊急対応、防災計画の見直し等を把握し、大震災の経験・教訓をもとにJICAの課題別指針「防災」の再検討を行っている
注5 : 国連災害評価調整 UNDAC:United Nations Disaster Assessment and Coordination
注6 : 国連人道問題調整部 UNOCHA:United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs