第2節 国際社会の一員としての責任の具体化

現在の国際社会が直面する差し迫った重要課題に対しても、日本は積極的な貢献を行うことが求められています。具体的には、中東・北アフリカ地域の安定的な体制移行および国内諸改革に向けた自助努力支援、国際機関とも連携した紛争・災害時の緊急・人道支援、開発途上国の脆弱性に配慮した平和構築プロセスに対する継ぎ目のない支援など、国際社会への積極的貢献を今後も引き続き実施していきます。

チュニジアにおける政変後初となる制憲国民議会選挙で、選挙監視を行う浜田和幸外務大臣政務官

チュニジアにおける政変後初となる制憲国民議会選挙で、選挙監視を行う浜田和幸外務大臣政務官

日本のエネルギー安全保障にとって中東・北アフリカ地域はきわめて重要な位置を占めています。同地域は、従来から中東和平やイランの核問題、貧困・テロ対策等の諸課題を抱えていますが、2010年12月以降、チュニジアを発端に域内各国・地域で市民による大規模なデモが発生しました。特に、エジプトやチュニジアにおいては、大規模デモの結果、長期政権が打倒され、民主的な政治プロセスの糸口をひらくなど、中東・北アフリカ地域はまさに歴史的な変革期を迎えています。しかし、これら中東・北アフリカ諸国における改革と体制移行の動きはまだ始まったばかりです。今後も若年層を中心とする民衆の性急な要求を受け、「政治体制の民主化」のみならず、多くの経済・社会的課題(高い失業率、食料価格の上昇、貧富の格差拡大等)を克服する必要があり、域内各国にとっては、これからが正念場であるといえます。そうした地域の平和と安定を確保し、人間の安全保障(図版参照)を実現する上でも、国内諸改革や体制移行を安定的に実現させることはきわめて重要であり、そのために国際社会による一層の支援が必要とされています。こうした観点から、2011年5月に開催されたG8ドーヴィル・サミット(フランス)において、各国首脳は、同地域で起こっている変革の動きを「アラブの春」と名付けた上で、これを世界における最優先課題の一つとして扱い、改めて支援の必要性を確認しました。なお、同サミットにおいては、菅総理大臣より、日本としても、改革の動きに対して、国際社会と連携して対応していくつもりであり、また、アジアの成長と安定に貢献してきた経験などを踏まえつつ、官民の連携も活用し、<1>公正な政治・行政運営、<2>人づくり、<3>雇用創出・産業育成の3本柱および<4>貿易・投資促進を含む経済外交、<5>交流・対話を中心として、この地域の安定的な体制移行および国内諸改革に向けた各国の自助努力を積極的に支援していく方針である旨を表明しました。国際社会の主要な一員として、日本はこのような国際社会に対する約束を今後も確実に実施し、上述の支援内容を早急に具体化させていくことが求められています。

緊急・人道支援については、外交政策の柱の一つである「人間の安全保障」(人間の生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、人々の豊かな可能性を実現するために、人間中心の視点を重視する取組を統合し強化しようとする考え方)を確保するための取組の一つとして、これまでも積極的に実施してきています。特に自然災害に際しては、被災者のニーズに応じた人道支援を迅速かつ効果的に実施することが最も重要です。そのため、人命救助のための国際緊急援助隊の派遣や緊急援助物資の供与、さらには国際機関を通じた支援を組み合わせて効果的な緊急援助を機動的に実施します。

たとえば、2011年2月にニュージーランドのクライストチャーチで発生した地震は、甚大な被害をもたらし、日本人を含め多くの人々が犠牲となりました。日本も地震発生直後に国際緊急援助隊救助チームを派遣するなど、懸命の捜索・救助を行いました。また、ハイチ地震やパキスタン洪水の際の国際緊急援助隊医療チームや自衛隊部隊の派遣など、これまでの日本の貢献は各国で高く評価されています。

ニュージーランドで捜索活動を行う日本の国際緊急援助隊救助チーム(写真提供:JICA)

ニュージーランドで捜索活動を行う日本の国際緊急援助隊救助チーム(写真提供:JICA)

また、アフリカなどの脆弱国における紛争などによって発生した難民や国内避難民、親を失ったり傷を受けた子どもたち、深刻な食糧不足に直面している人々などに対しては、緊急支援のみならず、早期復旧に向けた支援や中長期的な社会の安定と発展に向けた開発支援を切れ目なく進め、再び人道支援を必要とする状況を防ぐよう努力します。

日本が南スーダンで技術協力プロジェクトとして実施している、都市水道公社水道事業管理能力プロジェクトの現場を視察する山根隆治外務副大臣

日本が南スーダンで技術協力プロジェクトとして実施している、都市水道公社水道事業管理能力プロジェクトの現場を視察する山根隆治外務副大臣

さらに、世界で頻発する災害による被害を軽減するために、国際的な防災協力は重要です。東日本大震災の教訓を国際社会と共有し、防災の取組を一層進展させるため、国際会議やセミナーを開催、防災システム構築・運用のパッケージでの提供など、この分野での国際協力を強化します。

人道支援が一方的に行われるものではなく、相互の助け合いによって行われることを再認識し、日本の持つ能力を活用しながら、これからも積極的に緊急・人道支援に取り組んでいきます。

ハイチ地震災害で被災した後、治療を終え笑顔の戻った少女と日本の救援隊員(写真提供:JICA)

ハイチ地震災害で被災した後、治療を終え笑顔の戻った少女と日本の救援隊員(写真提供:JICA)

アフリカの角地域での干ばつ被害救援のため、日本はUNHCRを通じて緊急援助物資を供与した。JICAケニア事務所長からUNHCR側にポリタンクが引き渡される(写真提供:JICA)

アフリカの角地域での干ばつ被害救援のため、日本はUNHCRを通じて緊急援助物資を供与した。JICAケニア事務所長からUNHCR側にポリタンクが引き渡される(写真提供:JICA)

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