第5節 環境・気候変動分野への協力と途上国で活かされる日本の技術
気候変動は、干ばつや洪水などの異常気象や温暖化による海面上昇など生活環境に様々な影響を及ぼします。これらに効果的に対処するためには、資金や技術、知識、インフラ、管理能力などの経済社会環境を整備する必要がありますが(注21)、特に開発途上国では、そのような資金や技術、知識が不足しているため、気候変動への取組が遅れがちです。このため、たとえば、自然災害が起きたときに対応が不十分だったり、遅れたりすることにより被害が拡大してしまう場合があります。2010年、日本はこうした開発途上国の自然災害に対処する能力の向上のため、災害対策用の資機材の調達資金を供与する無償資金協力を、アジア、アフリカを中心とする25か国において実施しました。2011年にカンボジアで集中豪雨などが発生した際には、この協力により供与された日本製の重機が洪水で決壊した堤防などの修復作業で活躍し、カンボジア政府から感謝されました。
また、気候変動に伴い、地域によっては降水量の減少や干ばつの発生などにより水不足に陥りやすくなることが懸念されており、安全な水へのアクセスの確保も課題になっています。2010年には、砂漠地域にあり水不足の著しいチュニジア南部の都市で、安定した水の供給を確保するため、日本の技術を用いた、塩分濃度の高い地下水を淡水化する施設の調達資金を供与する無償資金協力を実施しました。
気候変動の原因となる温室効果ガスは、先進国のみから排出されているものではありません。世界の排出量の半分以上は、京都議定書において、排出削減義務を負わない開発途上国から排出されています。世界全体での排出削減を達成するためには、こうした開発途上国から排出される温室効果ガスの削減にも努める必要があります。このため、先進国には、排出削減を進めていく能力や資金が不足している開発途上国の取組を積極的に支援していくことが求められています。
2010年、日本は、大規模な干ばつのために水力発電による電力供給が減少し、電力不足が深刻化しているケニアにおいて、地熱発電所を建設する円借款を供与しました。この協力では、日本のすぐれた地熱発電用の蒸気タービンを用いることで、ケニアの電力供給を安定させるばかりでなく、同規模の火力発電を用いた場合に比べて温室効果ガスの排出を削減することが期待されています。
多くの開発途上国では、気候変動問題のみならず、急速な経済成長や都市化による大気汚染、下水道が十分に整備されていないことによる水質汚濁など、様々な環境問題に直面しています。2009年、日本は、交通渋滞とそれに伴う大気汚染が深刻なインドネシアのジャカルタ首都圏において、都市高速鉄道システムを整備する円借款を供与しました。また、同年には、十分に処理されていない下水の海への流出が沿岸部の水質汚濁の原因となっているパプアニューギニアの首都ポートモレスビー市において、下水道施設を整備する円借款を供与しました。
開発途上国におけるこうした環境・気候変動分野の協力には、日本の企業が参加し、日本のすぐれた環境関連技術やインフラ関連技術が応用されているものがたくさんあります。
日本としては、これらの取組を政府・民間ともによく連携しながら行うことにより、日本のすぐれた技術がますます多くの開発途上国で活かされ、また、開発途上国の環境・気候変動問題への取組の助けになることを期待して、今後も支援を実施していきます。
ブラジル「ビリングス湖流域環境改善計画」では、下水道の整備、湖周辺住民の生活環境の向上、環境保全を目指す(写真提供:久野真一/JICA)
注21 : ここで述べられているように、気候変動やそれに伴う気温・海水面上昇などに対して、対処療法的に、たとえば、護岸工事や土壌の栄養改善、伝染病予防などを行うことを「適応」と呼ぶ。一方で、時間はかかるが根本的な解決を図るため、エネルギーの効率的な利用や省エネ、二酸化炭素の回収・蓄積、吸収源の増加などを行うことを「緩和」という