6. 中南米地域

中南米地域は5.7億人の人口を擁し、域内総生産は4.2兆ドルの大きな市場となっています。また、民主主義が定着し、安定的成長を続けてきたほか、鉄鉱、銅鉱、銀鉱、レアメタル、原油、天然ガス、バイオ燃料などの鉱物・エネルギー資源や食料資源の供給地であり、国際社会での存在感を高めつつあります。平均所得水準はODA対象国の中では比較的高い一方で、国内での貧富の格差が著しく、貧困が残存していることも、この地域の特徴です。また、アマゾンの熱帯雨林をはじめとする豊かな自然が存在することから、環境・気候変動問題での取組も重要となっています。


< 日本の取組 >

日本は中南米諸国と伝統的に友好的な関係を築いており、ODAを通じて、これらの国々の持続的成長への基盤づくり、貧困削減・格差是正のための支援、平和の定着、南南協力などの支援を行っています。中南米地域の持続的成長への支援としては、インフラ整備、中小企業育成などを行っています。また、この地域の歴史的な課題となっている貧困と所得格差の改善のため、保健医療、教育、地域開発などの社会開発分野での支援も実施しています。さらに、西半球の最貧国であるハイチや反政府勢力との和平が課題となっているコロンビアの平和の定着への支援も行っています。

より効果的・効率的な援助政策を実施するため、中南米地域に共通した開発課題については、中米統合機構(SICA注62))およびカリブ共同体(CARICOM注63))といった地域共同体とも協力しつつ、広域案件の形成を進めています。また、長年の日本の経済協力の実績が実を結び、第三国への支援が可能な段階に至っているチリ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコの4か国と提携し、中南米、アフリカ諸国などを対象として、第三国研修や第三国専門家派遣などを実施しています。特に、ブラジルと協働して、モザンビークでの農業開発協力事業を進めています。

中南米地域では、アマゾンの森林減少・劣化のほか、オゾンホールの拡大、気候変動によるアンデス氷河の減退やハリケーンなどの自然災害の多発といった環境問題も深刻化しつつあります。これらに歯止めをかけ、また影響を緩和するため、自然環境保全、防災などの面で支援を実施しています。

日本は官民連携で地上デジタル放送日本方式(ISDB-T方式)の普及に取り組んでいます。特に中南米においては、2006年にブラジルが採用し、その後ブラジルとの協力により2009年にペルー、アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、2010年にエクアドル、コスタリカ、パラグアイ、ボリビアおよびウルグアイが採用を決定しており、日本方式が広く普及してきています。地上デジタル放送日本方式の普及により、これらの地域の放送メディアの整備が推進されるとともに、日本方式の普及で日本企業の海外進出機会の拡大も期待されます。日本は採用国に対して、円滑な導入に向けた技術移転、人材育成などを行っています。

また、2010年1月に発生した地震により多大な被害を受けたハイチに対し、日本は地震発生直後から国際緊急援助隊医療チームおよび自衛隊部隊の派遣、国際機関を通じた医療・衛生分野での支援、食料・水・シェルターの供給、日本のNGOを通じた被災者支援を行っています。また、中・長期的な復興支援に向けて、日本は震災国としての経験と知見を活かし、ハイチの国家再建のために、教育・人材育成、保健医療、食料・農業の分野を中心に、支援を行っています。

ハイチに対する緊急支援については、「ハイチ大地震」も参照してください

さらに、2010年2月に発生した地震による被害を受けたチリに対し、発電機やテントなどの緊急援助物資の供与および、医療機材の供与や仮設病院設置などの緊急無償資金協力を行っています。

エコーにより心機能を検査する臨床検査技師(写真提供 : JICA)

エコーにより心機能を検査する臨床検査技師(写真提供 : JICA)


注62 : SICA:Sistema de la Integración Centroamericana

注63 : CARICOM:Caribbean Community

図表III-16 中南米地域における日本の援助実績(地図)

図表III-16 中南米地域における日本の援助実績(表)

●ニカラグア「サンタフェ橋建設計画」

地域の経済統合に取り組む中米地域において、そのほぼ中央に位置するニカラグアは、同地域のヒトやモノの移動の要路となっています。しかし、同国内の道路網の整備はいまだに不十分であり、南隣のコスタリカにつながる幹線道路は、太平洋側のルートに過度に依存した状況にあります。そこで、日本は、27億5,300万円を限度とする無償資金協力を通じて、カリブ海側のルートの整備を進めるために、コスタリカとの国境付近でサンタフェ橋の建設を進めています。日本はこれまでもニカラグアにおいて橋の建設を支援してきており、中米全体の経済振興や住民生活の向上に大きな役割を果たしているだけでなく、1998年に大きな被害をもたらしたハリケーン・ミッチでも損傷を受けなかった安全性の高さなどから、広く市民から高い評価を受けています。


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