7. 大洋州地域
大洋州地域の島嶼国・地域は、日本にとって太平洋を共有する隣人であるとともに、歴史的に深いつながりがあります。さらに、これらの国・地域は広大な排他的経済水域(EEZ(注64))を擁し、日本にとって海上輸送の要衝であるとともに、遠洋漁業に重要な漁場を提供しています。大洋州地域の平和と繁栄は日本にとってきわめて重要です。
一方、大洋州地域には比較的新しい独立国が多く、社会・経済的に自立した国家の構築が急務です。加えて小規模経済、第一次産業依存型経済、領土の地理的散在、国際市場へのアクセス困難、自然災害への脆弱性、国土喪失の危機など島嶼国・地域特有の共通問題を有しています。さらにフィジーにおける政変など民主化に関する問題も抱えています。
このような事情を踏まえ、日本は大洋州諸国・地域の良きパートナーとして、各国・地域の事情を考慮した援助を実施しています。
太平洋・島サミット中間閣僚会合にて議長を務める前原誠司外務大臣
< 日本の取組 >
大洋州における政治的安定と自立的経済発展のためには、社会・経済的な脆弱性の克服や地域協力が不可欠です。日本は、大洋州諸国・地域の首脳で構成される地域協力の枠組みである太平洋諸島フォーラム(PIF(注65))との協力を進めており、1997年以降、3年ごとに日本とPIF加盟諸国との首脳会議である太平洋・島サミットを開催しています。
2009年5月に北海道トマムにて開催された第5回太平洋・島サミットでは、日本は2012年に予定されている次回サミット開催までに、総額500億円規模の支援を行うことを表明しました。この支援の3つの柱の1つである環境・気候変動の分野では、日本と太平洋島嶼国・地域が協力する「太平洋環境共同体」構想を提唱しました。また、人間の安全保障の視点からは、太平洋島嶼国・地域の脆弱性を克服するための支援を行っていきます。さらに、人的交流の強化のため、2009年から3年間で1,000人を超える日本と島嶼国・地域間の青少年交流を含む「キズナ・プラン」を実施していきます。
2009年8月に、第40回PIF 総会がオーストラリアのケアンズで行われた際に、PIF加盟国・地域の開発のための援助協調を促進することを目的とするケアンズ・コンパクトが採択されました。日本もケアンズ・コンパクトをはじめ、大洋州地域における効果的かつ効率的な開発を実現するための援助協調の促進に貢献しています。
太平洋島嶼国・地域は教育、環境、保健分野などにおいて共通の開発課題を抱えています。これらの国々の持続的な発展のため、日本は、各国への協力のみならず、太平洋島嶼国・地域全体への広域的な利益を勘案した地域協力を実施しています。たとえば、フィジーにある南太平洋大学(USP(注66))に、情報通信技術に関する研究などを行うセンターの建設および関連機材の無償供与を行っています。また、USPへの遠隔教育ネットワーク施設の整備支援を通じて、島嶼国・地域の人々に広く高等教育を受ける機会を提供しています。さらに、サモアにある地域国際機関の南太平洋地域環境計画(SPREP(注67))への専門家派遣や廃棄物対策研修を行い、廃棄物対策マスタープランの作成を支援することで、大洋州地域の環境問題解決に貢献しています。
感染症対策でも日本は広域的な取組を行っています。たとえば、大洋州地域の予防接種事業強化のため、ワクチン供与、低温流通体系の保守、医療廃棄物の安全廃棄など、予防接種拡大計画の達成に資する協力をWHOやUNICEFなどと実施し、地域のはしかやB型肝炎などに対する予防接種率の向上に向けた支援を行っています。
国際機関との協力では、「ADBとの円借款協調融資促進枠組(ACFA(注68))」の下、2007年12月にサモアに対して高効率の発電所の建設や改修、電線の地中化による災害対策、効率性の高い送配電線の整備などを対象とした円借款の供与を決定しました。
注64 : EEZ:Exclusive Economic Zone
注65 : PIF:Pacific Islands Forum
注66 : USP:University of the South Pacific
注67 : SPREP:South Pacific Regional Environment Programme
注68 : ACFA:Accelerated Co-Financing scheme with ADB
●パラオ「太陽光を活用したクリーンエネルギー導入計画」
パラオは主要電源のほとんどをディーゼル発電に頼っており、その燃料(原油)の供給をすべて輸入でまかなっていることから、国際的な原油価格の変動に大きな影響を受けています。また、近年の原油消費量の増加に伴い、二酸化炭素の排出量が増加しています。このため、ディーゼル発電への依存の低減が緊急の課題となっています。
日本は、4.8億円規模の無償資金協力を通じて、太陽光発電関連機材の供与を行い、ディーゼル発電の一部を再生可能エネルギーに代替する取組を行っています。これにより、ディーゼル発電用燃料の消費量が低減し、二酸化炭素の排出量が削減されるとともに、輸入燃料への依存度が軽減され、国家としての自立性が高まることが期待されています。