第3節 地域別の取組
1. 東アジア地域
東アジア地域には、韓国やシンガポールのように高い経済成長を遂げ既に開発途上国から援助国へ移行した国、カンボジアやラオスに代表される後発開発途上国(LDC(注55))、中国のように著しい経済成長を成し遂げつつも国内格差を抱えている国、そしてベトナムのように中央計画経済体制から市場経済体制への移行の途上にある国など様々な国が存在します。
これら諸国は、日本と政治・経済・文化などあらゆる面において緊密な関係にあり、同地域の発展や安定は、日本の安全と繁栄に必要不可欠です。
日メコン交流年に当たる2009年11月には、初めての日本・メコン地域諸国首脳会議が東京で開催され、鳩山総理大臣は、メコン地域の更なる繁栄のために、今後3年間で5,000億円以上のODAによる支援を行うことを表明しました。
●メコン地域における日本の取組については、第I部第1章第1節も参照してください。
日本は、東アジア諸国の多様な経済社会状況や、援助需要の変化などを踏まえつつ、援助活動を行っています。
注54 : ( )内の値は支出総額ベース。
注55 : LDC:Least Developed Countries
< 日本の取組 >
日本は、インフラ整備、制度および人づくり支援、貿易の振興や民間投資の活性化など、ODAと貿易・投資を連携させた経済協力を進めることで、同地域の目覚ましい経済成長に貢献してきました。現在は、基本的な価値の共有に基づいた開かれた域内協力・統合をより深めていくこと、相互理解を推進し地域の安定を確保していくことを目標としています。そのために、テロ・海賊、自然災害、環境・気候変動、感染症などの国境を越える問題に積極的に対応しており、また、大規模な青少年交流、文化交流、日本語・日本型教育などを通じた相互理解促進に努めています。
アジアを「開かれた成長センター」とし、現下の金融・経済危機へ対応するには、日本と地域各国の双方の経済的繁栄を確保することが重要です。そのため日本は、同地域の成長力強化および内需拡大のため支援を行っています。さらに2009年4月、日本は「アジア経済倍増へ向けた成長構想」を発表しました。そこで日本は最大2兆円規模のODAによる支援を表明しました。この取組を通じて、内需拡大のための機動的な資金供給やセーフティーネットの整備など危機の影響を受けやすい分野や人々への支援、インフラ整備、低炭素社会の構築、人材育成・人材交流の促進などを支援しています。
● 東南アジアへの支援
2007年4月から、<1>地域経済の統合と連携の促進、<2>日本とメコン地域との貿易・投資の拡大、<3>基本的価値の共有と地域共通の課題への取組を3つの柱とする「日本・メコン地域パートナーシップ・プログラム」を実施し、CLV(カンボジア、ラオス、ベトナム)諸国および地域全体へのODA拡充を図っています。また、日・ASEAN包括的経済連携促進のため総額5,200万ドルを日・ASEAN統合基金(JAIF(注56))へ拠出し、そのうち約2,000万ドルは「開発の三角地帯」と呼ばれるCLV諸国への支援としています。さらに2008年1月に東京で開かれた日・メコン外相会議では、東西経済回廊などの物流効率化のため約2,000万ドルの支援を行うことを発表しました。
そして2009年11月には、初めての日本・メコン地域諸国首脳会議が開催され、<1>総合的なメコン地域の発展、<2>環境・気候変動(「緑あふれるメコン(グリーン・メコン)に向けた10年」イニシアティブの開始)および脆弱性克服への対応、<3>協力・交流の拡大の3本柱での取組を強化し「共通の繁栄する未来のためのパートナーシップ」を確立するとの認識が共有されました。日本はメコン地域を重点地域とし、メコン地域全体およびカンボジア、ラオス、ベトナム(CLV諸国)の各国へのODAを拡充するとの政策を継続しています。日本はメコン地域の更なる繁栄のために、今後3年間で5,000億円以上のODAによる支援を行うことを表明しました。
一方、日本とインドネシア、ブルネイ、フィリピン、さらにはASEAN全体との経済連携協定(EPA)が2008年に発効しました。さらに、ベトナムとの協定も2009年10月に発効に至り、日本は、貿易・投資の拡大を図るとともに、知的財産制度や競争政策などの各種経済制度の調和などを含む幅広い経済関係の強化に向けた取組を行っています。このような取組を進めることで、民主主義、法の支配、市場経済といったASEANの基本的価値の共有を推し進め、貧困の削減を図り、ASEAN域内の格差を是正することにより、域内統合を支援しています。
また、2008年8月、インドネシアの気候変動対策を支援するため、気候変動対策プログラム・ローンを供与しました。さらに、インドネシアに対して、投資環境の整備やエネルギー支援協力、災害対策、マラッカ・シンガポール海峡における海上安全対策、港湾の保安体制の強化などの支援を行っています。
日本は、アジア地域において様々な地域協力に取り組んでいるアジア開発銀行(ADB)との連携を強化しています。たとえば、アジアの開発途上国における取組を支援するため、投資や省エネなどの促進を目的に「アジアの持続的成長のための日本の貢献策(ESDA(注57))」として、ADBと国際協力銀行(JBIC(注58))との連携強化を進める「ADBとの円借款協調融資促進枠組(ACFA(注59))」、「投資環境整備基金(ICFF(注60))」および「アジアクリーンエネルギー基金(ACEF(注61))」を創設しました。
注56 : JAIF:Japan-ASEAN Integration Fund
注57 : ESDA:Enhanced Sustainable Development for Asia
注58 : この取組は、2008年10月以降、国際協力銀行(JBIC)海外経済協力業務から国際協力機構(新JICA)有償資金協力業務へ承継された。
注59 : ACFA:Accelerated Co-Financing scheme with ADB
注60 : ICFF:Investment Climate Facilitation Fund
注61 : ACEF:Asian Clean Energy Fund
● 中国との関係
日本の対中国ODAは、1979年以来中国沿海部のインフラ整備、環境対策、保健医療などの基礎生活分野の改善や人材育成など中国経済の安定的発展に貢献し、中国の改革・開放政策を維持・促進させる上で大きな役割を果たしてきました。これらの協力の大部分は円借款の形で中国に供与されました。このような対中国ODAは、日中経済関係の発展を支えるとともに、日中関係の主要な柱の一つとして重層的な関係を下支えしてきたと評価し得るものであり、中国側も、首脳レベルを含め、様々な機会に謝意を表明してきました。近年の中国での著しい経済発展を踏まえ、日本からの円借款は、2008年の北京オリンピック前までに新規供与を円満終了するとの両国の認識に基づき、2007年12月に交換公文に署名した6案件をもって、新規供与は終了しました。
一方、環境問題や感染症をはじめとする日本にも直接影響が及び得る地球規模の問題など、日中両国民が直面する共通課題が数多く存在します。2008年5月の胡錦濤中国国家主席訪日の際には、「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」において、エネルギー、環境分野における協力を特に重点的に行っていくことを確認し、気候変動に関する共同声明を発表しました。また、日中関係の健全な発展を促進するという観点からは、両国民間の相互理解の増進も重要な課題となっています。このような状況を踏まえ、無償資金協力の対象は現在、<1>環境、感染症など両国民が直面する共通の課題の解決に資する分野、<2>日中両国の相互理解、交流の増進に資する分野に絞りつつ実施しています。また、技術協力は、これらに加えて、市場経済化や国際ルールの遵守、良い統治の促進、省エネを目的とした案件を中心に実施しており、人的交流を通じ、日本の価値観、文化を中国に伝えるための重要な手段となっています。対中経済協力については、今後とも日中関係全体や中国を巡る情勢を踏まえつつ、日本自身の国益に合致する形で、総合的・戦略的な観点から適切に判断した上で実施していきます。
ジャカルタ都市高速鉄道計画(インドネシア)
インドネシアでは、堅調な国内消費や民間投資に支えられて、2008年前半には経済成長率が6.3%超となりました。しかし、2008年後半の金融・経済危機の影響から成長が減速しています。そのため、確実な財政政策の実施と併せ、投資環境改善のための経済インフラ整備を通じた、持続的な経済成長の維持と雇用機会の創出が重要な課題となっています。日本は、ジャカルタ首都圏で深刻化している交通渋滞を改善するため、約481億円規模の円借款を通じて都市高速鉄道システムの建設を進めています。鉄道完成後は、ジャカルタ中心部から南部に至るまでの所要時間が現在の2時間から30分程度にまで短縮される見込みで、旅客輸送力の増強および投資環境の改善が期待されています。