2. 南アジア地域

実績

日本の南アジア地域に対する2007年の二国間政府開発援助は、約2億6,166万ドルで、二国間援助全体に占める割合は約4.5%です。

南アジア地域の特徴

南アジア地域は世界最大の民主主義国家であるインドをはじめ、高い経済成長や大きな経済的潜在力を持つ国があり、国際社会における存在感を強めています。地理的にはアジアと中東を結ぶ海上交通路に位置し、日本にとって戦略的に重要であるほか、地球環境問題への対応という観点からも重要な地域です。また、インド・パキスタンにおける大量破壊兵器などの問題や「テロとの闘い」の前線という役割からも、日本を含む国際社会にとって関心の高い地域です。

しかしながら、南アジア地域においては、安定した経済・社会発展に不可欠なインフラ欠如が深刻であり、高い成長を続けているインドにおいても、道路、鉄道、港湾などの基礎インフラ整備が必要となっています。また、14億人近い人口を擁するこの地域は、5億人以上が貧困層という世界でも貧しい地域の一つです。バングラデシュ、ネパール、ブータンといった後発開発途上国(LDC注165))をはじめ、経済成長が著しいインドでも人口の約3割は貧困層といわれています。

南アジア諸国には、宗教・民族の多様性に起因する社会問題や政治問題があります。基礎インフラの整備や貧困削減に加えて、増加する人口、初等教育における未就学率の高さ、水・衛生施設や保健システムの未整備、不十分な母子保健、感染症対策、法の支配の未確立といった取り組むべき問題が依然多く残されているのが現状で、ミレニアム開発目標(MDGs)達成を目指す上でもアフリカに次いで最も重要な地域です(注166)。

日本の取組

南アジアの有する経済的潜在力を活かし、また拡大しつつある貧富の格差を緩和するためのバランスのとれた経済成長を可能とするため、日本は、南アジア諸国に対して、社会経済インフラの整備を支援していくことが重要であると認識しています。特にインドとの間では、基本的価値観を共有する「戦略的グローバル・パートナーシップ」に基づいて、政治・安全保障、経済連携(注167)、人物交流など、幅広い分野で協力を進め、日本の知見の伝播を図ることとしています。これに加え、日・インド経済関係強化を通じた経済成長の促進を図るとともに、急速な経済成長に追いついていないインフラを整備し、貧困削減や社会セクターの開発を進めていきます。インドは、2003年度から5年連続で、円借款の最大供与国となっており、貿易投資環境の整備に資する電力や運輸などの経済インフラの整備や上下水道などの社会インフラの整備への支援を行っています。さらに、今後の経済成長に伴って、温室効果ガス排出量の増加が見込まれるインド、地球温暖化の影響を大きく受けると考えられるバングラデシュなどとの間で、環境・気候変動・エネルギー問題に関しても、より協力を深めていくこととしています。

ブータンに対しては、無償資金協力および技術協力により、農業、保健・医療、教育などの基礎生活分野に重点を置いた協力を行っています。また、日本は、地方電化のための配電網整備の支援のため、この国に対する初めての円借款供与のための交換公文の署名を2007年4月に行いました。

バングラデシュでは、2007年度の間に大洪水の発生とサイクロン「シドル」の直撃により、2,000万人以上が被災したといわれています。日本は、緊急援助物資の供与や国際機関を通じた総額約4億7,000万円の緊急無償資金協力を実施しました。また、その後、切れ目のない支援として、2008年度に入ってからも、バングラデシュ政府に対し、被災地域における多目的サイクロンシェルター建設のための9億5,800万円の防災・災害復興対策無償資金協力の供与(注168)を決定するとともに、インフラ復旧事業のための円借款供与やADBとの協調融資を行いました。2006年にマオイストとの包括的和平合意が成立したネパールでは、2007年に暫定政権が発足しました。2008年度の動きとしては、2008年4月、制憲議会選挙が行われており、国民の制憲議会に対する期待も高まっています。日本は、この民主化に対する動きや和平プロセスの進展を促進させる観点から、地方の貧困削減、インフラ整備を重視した支援を実施しています。

スリランカでは、2008年3月の東部州の地方選挙の実施など、民族問題の政治的解決に向けたプロセスに進展が見られています。日本としては、地域や民族バランスにも配慮しつつ、紛争により疲弊した地域住民に対する「平和の配当」の観点から、社会経済開発のための支援を実施しています。

また、パキスタンとの関係では、2008年度の動きとして、2008年5月、高村外務大臣(当時)がパキスタンを訪問し、平和協力国家としてパキスタン新政権の取組を可能な限り支援していくことを表明し、総額約480億円の円借款を供与しました。パキスタン側からは、円借款供与、部族地域における教育・保健などの社会インフラ開発整備など、日本による支援に対する深い謝意とその継続への期待が表明されました。

南アジア地域では、各国で援助協調に向けた取組が進んでおり、特にバングラデシュにおいて、先進的な取組が行われています。日本は、世界銀行、アジア開発銀行、英国国際開発省と共に、2005年3月、対バングラデシュ共通援助戦略を策定し、四者はその下での援助の連携に努めています。また、主要な援助国・機関を中心に、バングラデシュ政府が策定した貧困削減戦略文書実施をより効果的にするため、協調・連携を進めています。

図表III-14 南アジア地域における日本の援助実績