日本は、政府開発援助(ODA)大綱において、貧困の削減、持続的な経済成長への支援、地球規模で広がる課題への取組、平和の構築といった各課題を掲げ、前節で説明した「目的」および「基本方針」に基づいて、重点的に取り組むこととしています。特に、開発途上国自身の自助努力支援、民間経済活動の活性化を通じて持続的な経済成長を図り、貧困の削減を図ることは、日本が援助を実施していく上で重要な課題の一つです。これは東アジアにおける開発の経験にも示されています。本節では、上記各課題に対する最近の日本の取組について説明します。
貧困削減を達成するためには、開発途上国の経済が持続的に成長し、雇用が増加することにより収入が増加し、生活の質も改善されることが不可欠です。日本は、開発途上国の持続的成長に向けた努力を積極的に支援しています。
2006年度のインフラ整備の実績は、運輸分野のインフラに対して、円借款約1,590億円(9か国)、無償資金協力約221億円(30か国)の合わせて約1,811億円の援助を、エネルギー分野のインフラに対して円借款約1,646億円(8か国)、無償資金協力約43億円(6か国)の合わせて約1,689億円の援助を、通信分野のインフラに対して円借款約262億円(4か国)、無償資金協力約9億円(1か国)の合わせて約271億円の援助を行いました。また、運輸分野等における約345億円(2か国)の円借款、および通信分野における約104億円(2か国)の円借款に対して、本邦技術活用条件(STEP (注1))が適用されました。
貧困削減のためには、貧困層に直接影響を与えるような貧困対策や社会開発分野の支援のみならず、経済成長を通じた持続的成長が不可欠です。日本は従来、開発途上国の発展の基盤となる経済社会基盤(インフラ)整備を重視しています。都市と農村地域との交流拡大、災害からの安全確保や海外との貿易・投資を促進するための道路、港湾、飛行場といった運輸、通信等のインフラ整備、教育、保健、安全な水、居住の場の確保、病院や学校等へのアクセス改善のための基礎社会サービスの拡充に資するインフラ整備、そして、農水産物市場や漁港、農道等地域経済の活性化を目指す小規模インフラの整備などは、開発途上国が経済発展する上で非常に重要な役割を果たします。
日本のインフラ整備に関する取組として、2006年度は、例えば、ベトナムへ「ホーチミン市都市鉄道建設計画(ベンタイン-スオイティエン間(1号線))」に対する支援を円借款(STEP)案件として決定しました。ベトナムでは近年の経済発展に伴い、市内道路交通量の増加が著しく、ハノイ市内では慢性的な渋滞が発生し、経済活動を阻害しています。本事業は、ベトナム最大の都市であるホーチミン市において都市鉄道を建設することにより、増加する交通需要への対応を図り、これをもってホーチミン都市圏の交通渋滞および大気汚染の緩和を通じて地域経済の発展および都市環境の改善に寄与するものです。
また、ソロモンの首都ホニアラに対し、無償資金協力を通じて電力の供給改善を行っています(注2)。ホニアラでは、財政難に伴って設備投資が不十分であったため、点検のたびに停電が避けられないことや、1999年から2000年までの民族紛争の期間中には、定期的な維持管理が困難であったことから、発電設備の運転状況の悪化や、送配電設備の著しい老朽化などの問題を抱えていました。発電施設の増設および送配電設備の整備を内容とした支援は、安定した電力供給を可能とするだけでなく、首都機能が維持され、安定した行政サービスの実施が図られることが期待されています。このほか、テレビ、ラジオ等の通信インフラへの支援も行っています。
→[テレビ、ラジオ、印刷メディアへの支援]も参照してください
インフラを開発途上国における適切な開発政策に基づき整備し、持続的に管理・運営するためには、それらに対応しうる人材の育成が不可欠です。技術協力による支援では、国土計画や都市計画の策定、建設した施設を維持管理・運営する技術者の育成、維持管理・運営に必要な機材供与および開発調査など幅広い協力を行っています。
例えば、国内の地域間貨物輸送の約97%が海上交通であるフィリピンにおいて、海陸一貫の輸送ネットワークを構築するための交通システム(RRTS (注3))を整備するため、経路や自動車が自走により乗船できるための港湾施設(Ro-Ro(注4)ターミナル)の配置を検討し、アクセス道路も含めた整備の実行可能性について調査を行っています。
また、ベトナム南部の新規大水深港湾であるカイメップ・チーバイ港の整備と連携して、民間事業者がこれら港湾施設を効率的に運営するための制度導入に対して、技術協力プロジェクトを実施しています。当該港湾は円借款により整備を実施しており、援助手法間の連携の一例といえます。
また、バングラデシュでは、円借款を通じた発電所の建設や送電線の整備、農村電化を通じて電力供給の支援を行い、また、技術協力を通じて専門家の派遣、研修員の受入を行い、経営体質改善や電力設備の維持管理技術の向上のために総合品質管理(TQM (注5))等の支援をしてきています。2006年からは約3年間の計画で、TQMの普及、TQMを通じた運転・維持管理能力の改善を目的とした技術協力プロジェクトを行っています。
近年インフラ整備が貧困削減に果たす役割が注目を浴びており、国際機関や日本を含む援助国によるインフラ研究が活発に行われています。これまで、特に欧州の先進国が教育や保健といった基礎生活分野への支援を重視してきたことに対し、日本が力を入れてきた経済社会基盤分野への支援の重要性が、改めて認識されつつある証左といえます。例えば、OECD-DAC (注6)の下部機構である貧困削減ネットワークで2003年以来進められているインフラ分野の議論では、援助国が実践すべき「活用指針(ガイディング・プリンシプル)」を策定しました。この「活用指針」には、被援助国の開発計画にのっとったインフラ支援計画の立案・実施や、貧困層のインフラ・サービスへのアクセス改善など、貧困削減のためのインフラ支援のための提言がまとめられています。また、日本は2006年5月に東京で「開発経済に関する世界銀行年次会合(ABCDE会合)」(注7)を世界銀行と共同開催しました。この会合では「開発のための新たなインフラを考える」がテーマとされ、インフラ整備と経済成長や貧困問題に関する議論が行われました。日本からは、アジアにおける日本の経験に基づく研究成果を紹介し、各国の専門家によりインフラの開発に果たす役割が検証されました。