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(7)テロ・海賊
(イ)テロ
 テロは、国境を越えて起こり、開発途上国のみならず、先進国を含めた国際社会全体に直接影響を及ぼす重大な地球的規模の問題です。世界各国で頻発しているテロ事件に見られるように、国際テロの脅威は依然として深刻です。また、テロは主体、手口が多様化する傾向にあり、テロ対策は以前にも増して、国際的な協調と強化が必要です。
 日本は、国際的なテロを防止するためには幅広い分野において国際社会が一致団結し、息の長い取組を継続することが重要と考え、国際社会におけるテロ対策への取組に積極的に参加しています。特に、テロリストにテロの手段を与えない、テロリストに安住の地を与えない、テロに対する脆弱性の克服という観点から、出入国管理、交通保安、テロ資金対策などテロ対処能力が必ずしも十分でない開発途上国に対する能力向上支援を重視しています。テロの頻発は、観光、海外直接投資、貿易などを通じて、テロが発生した国の経済活動に重大な影響を与えます。そのため、開発途上国にとって、テロ対策を強化し、テロを未然に防止することは開発の重要な前提条件となります。このような観点から2006年度より日本はテロ対策等治安無償を創設し、開発途上国に対するテロ対策支援を強化することを決定しました。
 特に、日本と政治、経済、社会全般にわたり関係の深い東南アジア地域におけるテロを防止し、安全及び安定を確保することは、日本の繁栄にとっても重要であり、重点的に支援を実施しています。具体的には、出入国管理、航空保安、港湾・海上保安、税関協力、輸出管理、法執行協力、テロ資金対策、CBRN(Chemical, Biological, Radiological, Nuclear:化学、生物、放射性物質、核)テロ対策(注)、テロ防止関連諸条約などの分野において、セミナーの開催、研修員の受入を実施し、2005年度は約350名の研修員の受入を行いました。国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)では、2006年1月から2月にかけてテロとの闘いに関する国際セミナーを実施し、アジアを中心とする開発途上国18か国からの参加を得て、テロに対抗するためには法制度とその運用を強化することが重要であることを提唱しました。
 また、2005年7月には、マレーシア・クアラルンプールの東南アジア地域テロ対策センター(SEARCCT:Southeast Asia Regional Centre for Counter-Terrorism)において「生物テロの事前対処及び危機管理セミナー」を、東南アジア諸国を対象に開催しました。このセミナーは、2002年10月のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の際に、小泉総理大臣(当時)がテロ対策面における危機管理能力向上を目的とした取組を2003年度より5年間実施する旨表明したことを踏まえて、2003年に東京で、2004年にマレーシアで開催されたセミナーに引き続き開催されたものです。
 さらに、2005年5月に、インドネシア国家警察の捜査活動の改善やテロ事件の防止等を目的として捜査活動通信システム、鑑識活動用資機材等の供与を内容とする4億4,900万円の無償資金協力を決定・実施しています。出入国管理の分野では、日本は東南アジア諸国を始めとする、環太平洋諸国等を対象に1987年以来毎年「東南アジア諸国出入国管理セミナー」を開催しています。各諸国の出入国管理機関との相互の交流を深め、協力関係を強めるとともに審査技術の向上を図り、各国の出入国管理行政の的確・円滑な運営に資することを目的としており、2005年は「出入国におけるバイオメトリクス(生体情報認証技術)の積極的な活用」をテーマの一つとして実施しました。バイオメトリクスとは入国審査時に人間の指紋、虹彩などの生体情報を読み取り、あらかじめ登録されているテロリスト等の記録と照合することで、国際テロリスト等の入国を確実に阻止するというものです。日本は同セミナーで参加各国の出入国管理におけるテロ対処能力向上に向け、国際的な連携を図っています。
 日本は、今後もテロ対処能力向上での支援を積極的に行っていく方針です。

東南アジア諸国出入国管理セミナー(写真提供:法務省)
東南アジア諸国出入国管理セミナー(写真提供:法務省)

(ロ)海賊
 日本は、石油や鉱物等のエネルギー資源の輸入の殆どを海上輸送に依存しているため、海上の安全を脅かす海賊行為は、日本自身の平和と安定に直結する問題です。日本は、海賊行為の防止のために、これまで沿岸国の主権を尊重した上で、沿岸国の取締り能力向上を図るとともに、情報共有強化や人材育成等に取り組んでいます。
 特に、石油等の日本のエネルギー資源の大部分が通過する東南アジア地域においては、昨年3月にマラッカ海峡で発生した日本船舶及び船員に対する襲撃に象徴されるような事件が近年発生しており、海上輸送に従事する日本国民の安全及び日本経済活動にとって直接の脅威となっていることから、重点的に支援を行っています。具体的には、2002年7月からフィリピン沿岸警備隊の業務遂行能力の向上を目的として「フィリピン海上保安人材育成プロジェクト」を実施し、海上取締り能力の向上及び人材育成に取り組んでいます。2005年10月には、「東アジア地域海上犯罪取締り研修」を実施し、アジア各国の海上保安機関の職員に対する研修を行いました。マラッカ海峡の沿岸国であるインドネシアやマレーシアに対しても海上取締り能力の向上を目的とした専門家を派遣しています。また、同海峡の安全対策能力の強化のため、2006年6月に、テロ対策等治安無償によりインドネシアに対して3隻の巡視船艇を供与することを決定しました(詳細は、第II部第2章第4節4.を参照してください)。日本は、今後も引き続きこの分野での協力を強化していく方針です(海賊の取締りの詳細については第I部第2章第6節を参照してください)。


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