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2.公平性の確保~女性の自立支援のために~
社会通念や社会システムの多くは、世界的に、男性の視点に基づいて形成されていることから、様々な面で女性が脆弱な立場に置かれています。また、世界の貧困層の約7割が女性であると言われています。開発途上国の持続的な開発を実現していくためには、男女の均等な開発への参加とそこからの双方の受益を図る必要があることから、開発における女性支援及び社会的性差(ジェンダー)への配慮は重要です。
日本は、2003年8月に改定されたODA大綱の基本方針において、「男女共同参画の視点」を取り入れ、開発途上国の女性の地位向上に取り組むことを明確にしました。また、2005年2月に新たに策定されたODA中期政策においては、開発に取り組むにあたって反映すべき理念として「ジェンダーの視点」が規定されました。
こうした状況を踏まえ、日本は、1995年のWID(Women in Development:開発と女性)イニシアティブの策定から10年目を迎える節目の年に、WIDイニシアティブを抜本的に見直した「GAD(Gender and Development:ジェンダーと開発)イニシアティブ」を新たに策定し、2005年3月に開催された第49回国連婦人の地位委員会の場で発表しました。
従来のWIDイニシアティブは、女性の教育、健康、経済・社会活動への参加という3つの重点分野に焦点をあてたものでした。これに対し、GADイニシアティブは、これら3つの重点分野に加え、男女間の不平等な関係や、女性のおかれた不利な経済社会状況、固定的な男女間の性別役割・分業の改善などを含む、あらゆる分野においてジェンダーの視点を反映することを重視して策定されています。また、開発におけるジェンダー主流化(注)を推進するため、政策立案、計画、実施、評価のすべての段階にジェンダーの視点を取り入れるための方策を示しています。さらに、ODA大綱の重点課題である貧困削減、持続的成長、地球的規模問題への取組、平和の構築、それぞれについてのジェンダーとの関連、そして、これらに対する日本の取組のあり方を具体的に例示しています。
例えば、貧困削減に対する日本の主な取組として、政策や事業計画の策定にあたっては、女性も男性と同じように利益を得ることができるように配慮し、女性の意思決定過程への参加を促進するための方策を取っています。
エリトリアでは相次ぐ独立紛争、国境紛争により100万人以上の難民・国内避難民を生み出しました。2000年の紛争終結により難民の帰還プロセスが始まっています。しかしながら、エリトリアへ帰還しても住居や生活手段がなく、エリトリアへの再定住には困難が伴いました。特に、帰還民のなかには紛争中に配偶者を失った女性が多く、そのような女性は世帯主として家族を支えていかなければなりません。
日本は、エリトリアの女性世帯主の比率が高い地域において、NGO(Non-Governmental Organization:非政府組織)を通じて、農地を供与されている女性世帯主を対象とする組合を設立し、農地の有効利用に必要な研修を実施したり、トラクターなどを供与するなどして、女性世帯主の社会的・経済的自立を促すプロジェクトを実施しています。

エリトリアに供与されたトラクター(写真提供:JEN)
また、エチオピアでは教育行政と地域住民の連携、及び地方行政官の計画立案・実施能力の向上を通じて、住民参加型小学校モデルの確立を目的とした住民参加型基礎教育改善プロジェクトを実施しています。このプロジェクトでは、対象地域の選定において、当該地域の教育ニーズだけでなく、初等教育就学率におけるジェンダー格差も選定基準としており、格差の大きい地域から優先的に取り組んでいく方針をとっています。また、新しい学校を設置することによって、通学距離を短くし、児童が学校へ行きやすくするという方策をとっています。これは通学路の未整備から起こる危険だけでなく、強姦・略奪婚・人身売買を目的とした誘拐など、女子が直面する社会文化的なリスクを軽減することも目的としています。さらに、このプロジェクトを学校レベルで主体的に運営していく学校運営委員会では、委員選定において(1)委員選定のための村会議に女性の参加が不可欠であること、(2)選定される委員には男女の代表が平等に選ばれること、という2点を重点的に推進しています。
囲み II-1 開発における女性支援-日本の支援の事例
日本としては、今後とも女性の自立支援を重視し、公平で効果的な経済協力を目指すとともに、開発途上国の女性の地位向上に一層取り組んでいく考えです。