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5.中東
日本の中東に対する2004年の二国間ODAは、約10億3,087万ドルで、二国間ODA全体に占める割合は17.3%です。
中東和平やイラク情勢といった中東における動きは国際的な影響を及ぼし得ることから、中東の安定は世界の平和と繁栄にとって極めて重要です。特に中東は原油の主な供給源として世界経済の安定にとって極めて重要な役割を果たしています。日本は石油資源の9割近くを中東に依存していることから、同地域の不安定は日本経済に直接影響を及ぼします。中東では、2000年9月以降のパレスチナ・イスラエル間の情勢悪化、2001年9月の米国における同時多発テロ後の「テロとの闘い」、2003年のイラクに対する武力行使など、生活・社会基盤の荒廃や治安の悪化が著しい国・地域が存在し、こうした状況が域内全体に相当程度の影響を及ぼしています。これらの国・地域においては、和平の実現や武力行使後の国家再建に向けた国際社会の一致団結した支援が極めて重要となっていることから、日本としても積極的に支援を行っています。また、テロに対する国際社会の包括的な取組に協力する観点からも、中東諸国に対する日本のODAの果たす役割が高まっています。
中東は高所得国である産油国や低所得国のLDCを含んでおり、経済状況は国によって様々です。このような状況の中、LDCへの援助はもとより、産油国においても石油への依存を減らし経済の多角化に向けた国内技術者育成などの人間開発が大きな課題となっており、また、水資源の確保は地域の安定にも影響を与え得る重要課題です。このような認識のもと、日本は、次の諸点を重視しつつ、中東の社会的安定と中東和平に向けた環境づくりのための支援を積極的に行ってきています。
●中東和平プロセス支援のための協力(対パレスチナ支援、周辺アラブ諸国支援など)
●比較的低所得の国における農業、水資源管理などの経済・社会インフラ整備支援
●湾岸諸国における脱石油のための経済多角化に向けた技術者層の育成などの技術協力
●各国のニーズに合致した人材育成支援、環境保全対策への支援など
さらに、米国での同時多発テロ後の中東情勢を受け、ODA大綱の重点課題である平和の構築に対する支援として、日本はアフガニスタン及びイラクへの復興支援を積極的に実施しています(イラク、アフガニスタン、スーダンへの支援については、第II部第2章第2節4.(1)を参照して下さい)。また、2004年6月のG8シーアイランド・サミットでは、中東諸国の改革努力を支援するためのイニシアティブとして「拡大中東・北アフリカ(BMENA:Broader Middle East and North Africa)パートナーシップ構想」が打ち出され、日本からは、中東域内諸国の多くにとって深刻な課題である雇用問題への対応を念頭に置いて職業訓練の重要性を主張し、向こう3年間で約1万人が裨益する職業訓練分野での支援を行うことなどを表明しました。こうした動きに関連して、OECDでは、中東・北アフリカ(MENA)地域の投資とガバナンスを促進するための「MENA-OECDイニシアティブ(注)」を推進しており、日本はその共同議長を務めるほか、資金面の協力も行ってきています。
中東和平支援については、日本は、現在の和平プロセスが開始された1993年以降、2004年度までに約7億6,000万ドルの対パレスチナ支援を実施してきました。2004年11月のアラファト議長の死去を受け、2005年1月の選挙でアッバース大統領が選出されました。同大統領による和平努力を支援すべく、2005年1月に町村外務大臣がパレスチナ自治区及びイスラエルを訪問した際、日本は、人道支援、改革支援、信頼醸成支援のこれまでの3重点分野に加え、パレスチナ経済自立化支援を行っていくことを表明しました。この方針のもと、日本は2005年2月、6,000万ドルの追加支援を決定しました。このうち3,000万ドルはUNDPやUNRWAの雇用創出などの事業に当てられ、残り3,000万ドルは前年9月の1,000万ドルに引き続き世界銀行の信託基金に拠出され、パレスチナ暫定自治政府に対する財政支援として活用されています。さらに、同年5月にアッバース大統領が訪日した際は、イスラエルのガザ地区などからの撤退に関連する緊急支援を含め、当面総額1億ドル程度のパレスチナ支援を実施することを表明しました。
2004年度は、エジプト、トルコ及びアルジェリアに対して円借款による協力を実施しています。エジプトに対しては、アレキサンドリア近郊における「ボルグ・エル・アラブ空港近代化計画」、トルコに対しては、「ボスポラス海峡横断地下鉄整備計画(II)」、アルジェリアに対しては、「教育セクター震災復興計画」への資金供与を実施しました。無償資金協力では、エジプトの「ギザ市ピラミッド北部地区上水道整備計画」、ヨルダンの「工業部門品質向上・競争力強化計画」、シリアの「ダマスカス市新規水源開発計画」、モロッコの「道路保守建設機械訓練所機材整備計画」などへの資金供与を実施しました。技術協力では、イランの「職業訓練視聴覚機材向上計画」、チュニジアの「電気電子技術者育成計画」、ヨルダンの「ITビジネスインキュベーター計画」など、職業訓練の分野を中心として技術協力プロジェクトが実施されています。
図表II-30 中東における日本の援助実績
