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(5)貿易・投資の円滑化
持続的な経済成長のためには、民間セクターの主導的な役割が鍵となることから、貿易・投資を含む民間セクターの活動を促進することが重要です。しかし、投資環境整備のために開発途上国政府が実行しなければならない政策措置は膨大で、多くの貧しい国にとっては自力での対処が困難です。そのため、他国あるいは様々な国際的枠組みによる支援が必要となります。日本はODA、OOF(Other Official Flows:ODA以外の政府資金)などを活用して、こうした開発途上国の投資環境整備のためのインフラ整備、制度構築、人材育成などの支援を行っています。
例えば、日本企業の多くが進出しているインドのデリー首都圏は、慢性的に電力需給が逼迫しています。このため、2004年度、デリー首都圏を含むインド中央部及び北東部への安定的な電力を供給するための「北カランプラ超臨界火力発電所建設計画(第1期)」を円借款により実施しました。
また、インドネシアのタンジュンプリオク港へのアクセス改善を行う同港アクセス道路事業に対し、円借款の供与を決定したほか、開発調査を通じて貿易手続円滑化に向けた提言を実施しました。このほか、インドネシア政府の投資環境改善への取組を一層促進するため、開発政策借款を供与しました。また、ベトナムの競争力強化のための投資環境整備を目的とする日越共同イニシアティブの最終報告書において掲げられた具体的な行動計画を実施するため、投資環境改善に向けた改革課題を組み込んだ貧困削減支援借款により、ベトナムの投資環境改善を支援しています(第II部第2章第2節2.(2)も参照して下さい)。

インドネシアのタンジュンプリオク港。港へのアクセスが改善されると投資環境の改善にもつながる。(写真提供:JBIC)
開発途上国への民間投資を促進する上で、官民のパートナーシップ(PPP:Public Private Partnership)を強化することは重要です。このような観点から、開発途上国の対内投資促進の努力を側面から支援するため、日本はODAによる取組に加えて、民間企業の対外投資のリスクを軽減する投資金融や投資保証・保険などの公的資金を提供することにより、日本から開発途上国への投資を後押ししています。そのような取組の例として、JBICの投資金融、保証、アンタイド・ローン及び日本貿易保険(NEXI:Nippon Export and Investment Insurance)の海外投資保険、海外事業資金貸付保険などが挙げられます。
開発途上国の開発のために貿易促進は重要な意義を有します。多角的貿易体制の維持・強化のための国際機関として、世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)があります。2005年3月末現在、WTOの加盟国は148か国ですが、その約4分の3が開発途上国であり、LDC 32か国が含まれています。そのため、貿易量や国民総所得(GNI:Gross National Income)などは加盟国間で大きく異なっており、WTO協定という一つのルールに基づいて貿易をし、更なる貿易自由化交渉を行うためには、様々な協調が必要です。
2001年、第4回閣僚会議(於・ドーハ)において立ち上がったドーハ開発アジェンダ(DDA:Doha Development Agenda)は、開発途上国の多角的貿易体制参画を通じた貧困削減・持続的成長を重視しています。当初、DDAは2004年12月の交渉妥結を目指していましたが、2003年9月の第5回閣僚会議(於・カンクン)では、開発途上国と先進国の間の対立構造が解けないまま合意が得られませんでした。その後、DDA交渉は一時期停滞していましたが、2004年7月に今後の交渉の基礎となる枠組み合意を採択して軌道に戻り、2005年12月に第6回閣僚会議(於・香港)でのモダリティ(関税削減などに関する各国共通のルール)の確立、そして2006年の交渉妥結を目指しています。
開発途上国、特にLDCはWTO協定で定められた義務を履行する上での様々な困難に直面しています。これを踏まえ、WTOの各協定には開発途上国配慮(S&D:Special and Differential Treatment)条項があり、協定上の義務の軽減や免除を認めています。また、WTOは開発途上国の協定履行・交渉参加能力向上のために技術協力計画を策定し、WTOの各分野に関する地域セミナーや専門家派遣などを実施しています。日本はDDA開始以降、技術協力計画実施のための基金であるドーハ開発アジェンダ・グローバル・トラスト・ファンドに約2億6,000万円を拠出してきました。この他、二国間の取組では、WTO協定関連をはじめ、検疫措置への適応や中小企業支援など貿易拡大の前提となる分野で年間約1,000件の貿易関連技術支援/キャパシティ・ビルディング(TRTA/CB:Trade Related Technical Assistance /Capacity Building)(注1)を実施しています。

WTO一般理事会に出席中の福島外務政務官(写真右手前)。
開発途上国の市場アクセスの改善に関しては、特に開発途上国の産品の輸入時において一般の関税率よりも低い税率を適用する一般特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)による開発途上国の輸出能力・競争力の向上が、国際的に重視されています。とりわけLDCに対する無税無枠の市場アクセスの推進は、WTOにおける貿易交渉のみならず、MDGsやLDC行動計画(Programme of Action for the Least Developed Countries for the Decade 2001-2010)をはじめ、国連の場においても取り上げられています。
日本は、1970年の国連貿易開発会議(UNCTAD:United Nations Conference on Trade and Development)における国際合意に基づき、1971年からGSPの拡充に努めてきました。DDA開始以降の取組として、2003年4月より、LDC以外の開発途上国に対しては約120品目の特恵対象品目の拡大、LDCに対しては、農水産品約200品目を無税無枠措置の対象品目に追加しました。この結果、LDC産品の輸入に関しては、金額ベースで約93%(注2)が無税無枠化されることとなりました。
特に、全世界のLDC50か国のうちおよそ6割を占めるアフリカのLDCに限ってみると、2003年度における日本の輸入実績(注3)において、無税無枠対象品目の輸入額が約99%(注4)を占める結果となっており、これら諸国の市場アクセスの確保に貢献しています。さらに、2005年4月のアジア・アフリカ首脳会議及び7月のG8グレンイーグルズ・サミットにおいて、小泉総理大臣はLDCの自立を支援するため、LDC産品に対するさらなる市場アクセスの拡大に努めることを表明しました。
さらに、近年、各国間で進んでいる経済連携には、貿易・投資の自由化に加え、経済制度の調和を進めることにより、人、モノ、カネ、情報の国境を越えた流れを円滑化し、関係国全体の成長に資するという重要な意義があります。そこで、新ODA中期政策では、日本が経済連携を推進している東アジア地域をはじめとする各国・地域に対し、その効果を一層引き出すために、ODAを戦略的に活用し、貿易・投資環境や経済基盤の整備を支援していくこととしています。
具体的には、貿易・投資に関連する諸制度の整備や人材育成支援、知的財産保護や競争政策などの分野における国内法制度構築支援、税関、入国管理関連の執行改善・能力強化支援、IT、科学技術、中小企業、エネルギー、農業、観光といった分野の支援など、様々な分野における協力を行っています。
日本は今後も、二国間支援や国際機関との協力を通じ、ODA政策と貿易政策の一貫性を確保し、貿易と開発の総合的な観点から開発途上国の多角的貿易体制への参画及び経済連携の強化を通じた貧困削減・持続的成長に積極的に協力していきます。