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(2)政策立案、制度整備

 インフラの整備に加え、マクロ経済の安定化、金融セクター改革・国営企業改革・公共財政管理適正化などの経済構造改革、貿易や投資に関する政策・制度の構築、情報通信社会に関する政策・制度整備といったソフト分野の支援は、民間セクターが牽引する持続的な成長を促進する上で不可欠です。
 新ODA中期政策では、政策立案・制度整備のための具体的取組として、マクロ経済の安定化及び貿易・投資促進のための制度整備に関する支援を掲げています。マクロ経済の安定化に関しては、適切かつ持続可能な財政・金融政策、公的債務管理、経済政策の立案・実施に向けた支援を行うとともに、貿易・投資の拡大を見据えた産業政策や地方分権化を受けた地方振興策などの立案に向けた支援を重視しています。また、貿易・投資促進のための制度整備に関しては、各国の経済状況に配慮しつつ、政府調達、基準・認証制度、知的財産権保護制度、物流網構築やその運用に向けた支援を含め、国際経済ルールにのっとった制度整備を支援していく方針です。
 日本はこうした方針のもと、諸制度を整備するため研修員の受入や専門家派遣、実証事業や開発調査などを活用した支援を行っています。
 例えば、中国では、日本企業の進出と現地における経済活動に係る制度の改善・適正化を通じて、適正な競争条件が確保されるように、経済関連法の整備を支援する技術協力プロジェクトを2004年11月から開始し、現地日系企業のニーズ把握を行うとともに公司(企業)法の改正、独占禁止法の制定、市場流通関連法の立法研究などを実施しています。またタイでは、公害防止管理者制度、省エネ制度の導入・普及を進めており、大気、水質分野の公害防止管理者試験が2004年より開始されるなどの成果が現れてきています。
 近年では、日本の貿易・投資、経済・法律など様々な分野の専門家が、政策立案を担当する開発途上国政府関係者との対話を積み重ねることで相互に信頼関係を築きながら、開発途上国の長期的な開発戦略についてその国の実状を十分に踏まえた提言を行うという政策支援型のプロジェクトを進めています。
 例えば、インドネシアに対しては、世界銀行との協調融資により、インドネシアのマクロ経済の安定化、投資環境整備、公的財務管理の強化と説明責任、透明性の向上を目的とする開発政策借款(DPL:Development Policy Lendin、世界銀行との協調融資:日本1億ドル、世界銀行3億ドル)を供与しています。また、ベトナムに対しては、貧困削減支援借款(PRSC:Poverty Reduction Support Credit、世界銀行との協調融資:日本25億円、世界銀行1億ドル)により、金融セクター改革、国営企業改革、公共財政管理の適正化、投資環境整備などのベトナムの諸改革の推進を支援してきており、これにより、市場経済化の促進、持続的な開発の進展、ガバナンスの改善などを図っています。

■ガバナンス強化への支援
 開発途上国における民主主義の基盤強化は、統治と開発への国民の参加及び人権の擁護と促進につながり、中長期的な安定と開発の促進にとって、極めて重要な要素であることから、日本は平和、民主化、人権保障のための努力を積極的に行っている開発途上国を重点的に支援することとしています。

指紋自動識別システムの引き渡し式でのデモンストレーションの様子(フィリピン:「指紋自動識別システム整備計画」)(写真提供:保安電子通信技術協会)
指紋自動識別システムの引き渡し式でのデモンストレーションの様子(フィリピン:「指紋自動識別システム整備計画」)(写真提供:保安電子通信技術協会)

 日本は、1996年のG7リヨン・サミットの際に「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD:Partnership for Democratic Development)」を発表し、パートナーシップ、オーナーシップ、開発途上国との協議・同意の3つを原則としつつ、法制度、行政制度、公務員制度、警察制度などの各種制度づくり支援、選挙支援、市民社会の強化、女性の地位向上支援などの取組を強化する方針を明らかにしました。
 ODA大綱では、人づくり、法・制度構築などが開発途上国の発展の基礎となることを明らかにしており、新ODA中期政策でも、汚職の撲滅、法・制度の改革、行政の効率化・透明化、地方政府の行政能力の向上は、民主的で公正な社会の実現のためにも、また、投資環境の改善のためにも重要であることから、ガバナンス分野で政府の能力向上を支援することとしています。
 日本は、開発途上国の民主化や市場経済化の進展状況に応じた多種多様な援助需要に適切に対応するため、関係省庁や国内関係機関との連携により国内支援体制を構築しつつ、研修員受入、専門家派遣、開発調査、施設整備、機材供与、NGOへの支援など様々な援助形態を通じた多角的な支援を展開しています。
 例えば、市場経済化・対外開放政策に取り組む中で各種法制度の整備が課題となっているベトナム、カンボジア、ラオスやウズベキスタンなどのNIS(New Independent States)諸国に対し、2004年度は、民法、民事訴訟法などの法案起草・改正、立法化への支援及び法曹人材の育成のための法整備支援を実施しています。法案起草・改正においては、開発途上国の社会の実態に配慮した法律作りを目指し、派遣された専門家などが取り組んでおり、具体的な成果を上げつつあります。特にベトナムにおいては、民法、民事訴訟法、破産法などの起草に関して支援を行い、民事訴訟法及び破産法は2004年6月に、改正民法は2005年6月にベトナム国会において成立をみています。法曹人材の育成では、法令の適用と公正な司法の運営に携わる人材の育成を支援するため、ベトナムの国家司法学院やカンボジアの司法官職養成校などを対象に、日本の法曹養成に関する知識経験に基づいて、相手国の実情に合った制度を構築するよう協力を行っています。
 また、警察機関の能力向上に関する支援においては、制度づくりや行政能力向上への支援などの人材育成に重点を置きつつ、施設整備や機材供与を組み合わせた支援を実施しています。インドネシアでは、2000年に国家警察が国軍から分離・独立し、市民警察としての定着を目指して組織の民主化が促進されています。こうした動きを支援するために、日本は2001年から「インドネシア国家警察改革支援プログラム」として専門家の派遣や研修員の受入を行っています。また、2004年度は、インドネシアに対して無償資金協力により、「市民警察化支援計画」として、市民サービスの向上に資する無線通信システム、現場鑑識、薬物対策機材の支援を実施しています。さらに、日本の技術協力により独自の交番制度を確立したシンガポールと共同で、それぞれの交番制度の経験を広くアジア各国に広げるために、アジア諸国の警察官を日本及びシンガポールに招へいし交番制度を学ぶ第三国研修を実施しています。また、海上における治安の維持及び安全の確保のために様々な取組を行っている東南アジア諸国に対して、制度づくり、人材育成を中心に支援しています。フィリピンでは、1998年に海上保安機関が海軍から独立し、日本はこれを支援するために政策的アドバイスを行う専門家の派遣や、研修教育プログラムの策定などの技術指導を行う「海上保安人材育成プロジェクト」を実施しているほか、インドネシアやマレーシアにも専門家を派遣し、海上保安機関の設立を支援しています。

ヘリコプターを用いた海難救助訓練の様子。(フィリピン:「海上保安人材育成プロジェクト」)(写真提供:海上保安庁)
ヘリコプターを用いた海難救助訓練の様子。(フィリピン:「海上保安人材育成プロジェクト」)(写真提供:海上保安庁)

 ソビエト連邦からの独立後、民主化、市場経済化に向けた国づくりに取り組んでいるアゼルバイジャンやグルジアについては、公正かつ適正な選挙管理・監視への支援を目的として、2004年10月、日本はコーカサス地域の選挙管理委員会の若手職員を招へいし、「コーカサス民主化促進・青年招へい計画」を実施しました。

column II-7 地方の声を行政に反映させるために


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