前頁前頁  次頁次頁


column II-7 地方の声を行政に反映させるために



 ヒマラヤ山脈東部の険しい山中に位置するブータン王国は、最初の国会が開催された1953年にはまだ自動車が通れるような道路もなく、インフラはほとんど整備されていませんでした。それから50年余りを経た現在、首都ティンプーの街は車で溢れ、携帯電話で会話する人々の姿が見られるまでに近代化が進んでいます。しかしながら、こうした首都の目覚ましい発展の裏で、地方から都市へ人々が大量に移動し、地方と都市の間で経済格差が拡がるという問題が生じています。そこでブータン政府は、均衡のとれた経済発展を目指すため、地方への権限移譲を通じて、地方政府の行政能力の向上を図り地方を活性化させる地方分権化を進めています。
 この地方分権化への取組は、1981年に地域開発の立案・実施の権限が中央政府から地方自治体に移譲されてスタートしました。1990年代後半からは、日本を含むドナー国や国際機関、欧州諸国の援助団体などが地方自治体の制度面を強化するための様々な協力を行ってきたこともあり、2002年には初の地方選挙が実施され、2005年3月に発表されたブータン憲法草案には、初めて地方自治に関連する条文が盛り込まれるまでに至っています。こうして制度的な枠組みは確立されたものの、ブータンの地方政府はまだ十分にその制度を運用するに至っていません。そこで、同国の国情に適応するように制度を改良するとともに、制度を効果的に運用できるように、受け皿となる地方自治体の能力を強化することが急務となっています。
 そこで、地方行政支援のために、ブータン政府が協力を要請するパートナーとして白羽の矢を立てたのが日本です。日本は、1964年のブータンに対するODAの開始以降、農村開発などに力を入れて着実に成果を上げてきました。ブータン政府のオーナーシップを尊重しつつ、きちんと結果を出してきた日本の援助が、ブータン政府より高い評価を得て、地方自治体の能力強化を進める際に、是非日本から支援を受けたいとの強い希望が同国政府から出されたのでした。
 日本は人材育成のための研修などを通じた地方自治体の能力強化を支援してきており、2004年には、ブータン地方自治のキーパーソンである内務省の関係者や県知事を日本に招へいして、新潟県長岡市や岐阜県白川村などを見学してもらいました。日本の地方自治体の人々と意気込みを語り合ったブータン側の参加者の一人は、「日本の地方政府は、地域住民に対してきめの細かな公共サービスを行っており、とても参考になった」と語っています。
 こうした日本の支援においては、農業における機械化の促進や道路・橋の整備などの経済基盤整備の援助とは一味違った、人と人とのつながりを活かしたソフト面での貢献が期待されています。

村長選挙の開票風景(写真提供:JICA)
村長選挙の開票風景 (写真提供:JICA)

県開発委員会の議会の様子(写真提供:JICA)
県開発委員会の議会の様子 (写真提供:JICA)


前頁前頁  次頁次頁