前頁前頁  次頁次頁


本編 > 第II部 > 第2章 > 第3節 > 1.貧困削減 > (3)水と衛生

(3)水と衛生
 世界保健機構(WHO:World Health Organization)が作成した「世界の水供給と衛生に関する評価報告書2000」によれば、上水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は世界全体で約11億人おり、そのうち、アジアが約7億人、アフリカが約3億人となっています。また、全世界で約24億人が下水道などの基本的な衛生施設を利用できない状況にあり、うちアジアが約19億人、アフリカが約3億人となっています。
 このような状況を反映し、水と衛生の問題は、近年、開発に関する国際会議における重要なテーマとして多く取り上げられています。例えば、2002年9月のWSSDで採択された「ヨハネスブルグ実施計画」においては、水と衛生分野に関し、MDGsの1つである「安全な飲料水」に加え、衛生分野について「基本的な衛生施設を利用することができない人の割合を2015年までに半減する」などの目標が新たに盛り込まれました。また、2003年3月の第3回世界水フォーラムの閣僚宣言の採択、及び各国・国際機関の自発的な行動計画をまとめた「水行動集(PWA:Portfolio of Water Actions)」の発表、同年6月のG8エビアン・サミットにおける「水に関するG8行動計画」の策定などを経て、2004年4月にはニューヨークにおいて水、衛生及び人間居住をテーマに国連持続可能な開発委員会(CSD:UN Commision on Sustainable Development)第12会期が開催されたほか、同年7月には橋本元総理が議長を務める国連「水と衛生に関する諮問委員会」の第1回会合が開催されました。

図表II-16 水と衛生分野の目的別供与実績

図表II-16 水と衛生分野の目的別供与実績

図表II-17 水と衛生分野の地域別供与実績

図表II-17 水と衛生分野の地域別供与実績


 日本の水と衛生の分野での協力は、MDGsやヨハネスブルグ実施計画において目標が定められている飲料水と衛生分野を重点として実施しており、その援助量は世界的に見て高い水準にあります。OECD-DACの統計によると、1999年から2001年の3年間における全世界(援助国及び国際機関)の飲料水と衛生分野での年平均ODA実績(約30億ドル)のうち、日本は3分の1に相当する年間約10億ドルを担う世界最大の援助国となっています。
 こうした状況、実績を踏まえ、2003年3月に京都で開催された第3回世界水フォーラム閣僚級国際会議において、日本は包括的な貢献策として「日本水協力イニシアティブ」を発表し、2003年度はその着実な実施を図りました。以下に、本イニシアティブの取組状況の概要を紹介します。
 本イニシアティブで示されている通り、日本は、水を巡る問題は多面的であるとの認識の下、水と衛生分野において、飲料水・衛生のみならず、灌漑、エネルギー、洪水対策、植林なども目的として、包括的な協力を行っており、2003年度の実績では、無償、有償資金協力(円借款)を合わせて、2,144億円の協力を行いました。
 目的別でみると、飲料水・衛生分野への貢献が最も多く、43%を占めており、ついで、水力発電36%、植林10%の順となっています。また地域別では、無償資金協力では、アジアが48%で最も多く、ついでアフリカが18%、中南米が16%と多く、有償資金協力(円借款)では、アジアが75%、ついで中南米が11%を占めています。資金形態別では、無償資金協力のうち、59%が飲料水・衛生分野に向けられており、残りは灌漑、防災、水力発電などが実施されています。有償資金協力(円借款)では、飲料水・衛生分野が41%、水力発電が38%などとなっています。
 本イニシアティブにおいて、今後、特に積極的に取り組むとした3つの点については以下の通りです。

[1]水資源無償資金協力の創設
 2003年度予算において一般無償資金協力の中に新たに「水資源無償資金協力」を創設し、上下水道、井戸などの飲料水及び衛生分野に対し、31件140億9,000万円の無償資金協力を実施しました。例えば、サハラ砂漠のほぼ中央部に位置するマリにおいては、安全で良質な飲料水を利用できる人口は全体の65%に過ぎず、さらに、都市部での87%に比べ、村落部では57%と極めて低く、都市部と村落部の格差が非常に大きい状況にあります。また、村落部の住民は汚染された川や泉など非衛生的な水源から飲料水を利用しているため、ギニア・ワームなどの寄生虫、下痢などの水に関連する感染症の危険にさらされています。さらに、村落部の女性、子供は飲料水を求めて住居から離れた水源まで水汲みをする生活を強いられており、過酷な労働となるばかりでなく、修学や就職の機会を奪って構造的な貧困をもたらしています。2003年度に実施が決定された「カイ・セグー・モプチ地域給水計画(1/2期)」では、日本の無償資金協力により、特に安全な飲料水の給水率の低いカイ(55%)、セグー(60%)、モプチ(45%)3州の村落部において安全かつ安定した良質な飲料水を確保するため、233村落において人力ポンプ付き深井戸の建設及び各州それぞれ1基ずつの小規模給水施設の建設を行うことが予定されています。これにより、およそ15万人の住民の給水率の向上、水に関連する感染症の発生やそれによる乳幼児死亡率の低減を図ることが期待されます。

columnII-4 マケドニア旧ユーゴスラビア共和国における水資源開発

[2]譲許的な条件での円借款供与
 2003年度には植林及び衛生プロジェクト計5件約527億円に対して、通常より低金利の円借款を供与しました。例えば、ブラジルの「サンパウロ州沿岸部衛生改善計画」では、経済の中心として発展を続けるサンパウロ州の住民の劣悪な生活環境改善及び海洋汚染の防止を目的とした下水道整備について、通常環境金利2.5%に比べて緩やかな条件の特別環境金利1.8%を適用し、ブラジルの沿岸部における水質改善の促進に貢献しました。

[3]上下水道分野における人材育成の促進
 日本水協力イニシアティブの主な取組の一つとして2003年度から5年間で上下水道分野において約1,000人の人材育成を実施することとしていますが、これについては、2003年度だけで、47人の専門家を、17か国に派遣したほか、45か国の約600人の研修員に研修を実施するなど、既に目標の大部分を達成しました。
 国際的なパートナーシップの構築・強化については、日本は、日米水協力イニシアティブ「きれいな水を人々へ」*1の下で米国との連携を進めています。この関連で、日本の有償資金協力(円借款)とUSAIDの援助スキームを組み合わせた協力について、フィリピンなど3か国において、JBICとUSAIDが共同で案件形成を行うべく検討が進められており、2004年4月には、この連携の進捗状況をモニタリングするための会合が東京で開催され、今後の連携の方向性が確認されました。


前頁前頁  次頁次頁