columnII-4 マケドニア旧ユーゴスラビア共和国における水資源開発
1991年に独立を果たしたマケドニア旧ユーゴスラビア共和国。独立後の国づくりを進める同国の開発のキーワードは安全で安定的な水の供給です。
内陸国である同国は年間を通して降雨量の少ない地理的条件下にあります。とりわけ、東部は年間降雨量が500mm程度に過ぎず、これは日本の年間平均降雨量の約4分の1の水準です。そのため、水需要の多い夏季はしばしば深刻な水不足に見舞われ、住民は慢性的な断水を強いられています。現在水源として使われている地下水の枯渇が懸念されている一方で、旧ユーゴスラビア時代に操業していた工場での不十分な環境対策に起因する地下水汚染による地域住民の健康への影響も心配されています。また、市場経済化を進める同国にとって、新規産業の育成や農業開発の促進が非常に重要な課題ですが、水不足が経済社会開発の大きなボトルネックの一つとなっています。
このような状況を改善するため、日本は1999年度開発調査において、同国全土を対象に「水資源総合開発・管理計画調査」を実施しました。そして同調査結果を受けて、2003年度には同国向け初の円借款として「ズレトヴィッツァ水利用改善計画」に対する約97億円の支援を決定され、2003年10月のトライコフスキー大統領訪日の際に交換公文の署名が行われました。この事業は、同国東部を流れるズレトヴィッツァ川において、多目的ダム及び取水・導水設備を併せて建設する総合的な水資源開発事業です。地域住民への安全な飲料水提供に加え、供給される水の一部が灌漑用水や工業用水に利用される予定であり、同国の農業開発や産業振興にも寄与します。
2001年に同国ではアルバニア系住民との民族紛争が発生しましたが、NATO仲介の下での停戦合意の成立以降、民族融和に向けた取組が進められています。紛争を経験した同国にとって、本事業によるインフラの整備を通じての民生の安定化は、「安全な飲料水」の確保に加えて、紛争が終結したことの安堵感と希望を市民にもたらし、復興に向けたやる気を促すという点からも非常に意義あるものです。

現在拡張中のスヴェティ・ニコル浄水場 (写真提供:国際協力銀行(JBIC))

完成したステップ浄水場 (写真提供:国際協力銀行(JBIC))