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6.中南米地域
日本の中南米地域に対する2002年の二国間ODAは、約5億9,000万ドルで、二国間ODA全体に占める割合は8.8%です。
日本は、中南米地域に対して、中期政策にもあるとおり、以下の点を重視して支援を行っています。
[1]民主化及び経済改革努力に対する積極的な支援
[2]豊かな自然環境の保全や経済成長に伴う経済負荷の増大に対応した環境保全のための支援
[3]基礎教育、保健医療、農業・農村開発、地域間格差の是正のための基礎インフラ整備等、貧困問題の緩和のための支援
[4]比較的低所得の国において、民間活動の活発化及び海外からの投資促進に資する環境整備のための経済・社会インフラ整備等への支援
[5]複数国を対象とした人材育成・技術移転等のための広域的な協力の推進
さらに、自然災害に見舞われた国々に対する復旧・復興支援、カリブ地域の島嶼国に対する広域的な支援についても配慮していくこととしています。

ハリケーンにより損壊、流失したホンジュラスの8橋梁の切手 日本の無償資金協力により再建されたことを記念して発行されたもの
中南米地域は、2001年12月の「アルゼンチン経済危機」による影響を未だ受けている国もありますが、地域全体で見ると、政治面及び経済面ともに、1990年代における民主化、経済改革を通じて概ね安定的に推移してきています。また、南米南部共同市場(メルコスール)や、カリブ共同体(カリコム)等の地域経済統合も進展し、その一環として、2005年の発効を目指して、南北アメリカ全体を包摂する米州自由貿易地域(FTAA)交渉が行われています。その一方で、急激な経済改革により、域内及び国内の経済格差が生じ、その結果として、一部の国では治安・貧困問題等の社会問題が悪化しています。格差の是正、貧困問題の緩和、さらには域内経済の安定的発展のためには、その基礎となる教育、保健医療分野などの基礎生活分野における取組が課題となっています。また、同地域は、熱帯雨林の減少や大都市における環境悪化、都市への人口集中によるスラム化など多様かつ深刻な環境問題及び社会問題を抱える地域でもあります。
日本の中南米地域に対する経済協力については、伝統的に日本と中南米地域との架け橋になっている多数の日本人移住者・日系人が存在すること、同地域が近年高い経済成長を達成し、日本との経済的結びつきも強くなっていること等を勘案しつつ、上記問題の解消に資するような援助を行っています。
環境保全のための支援は、技術協力及び資金協力の両面において積極的な協力を行っています。例えば、水質改善等のための計画策定を技術協力により行うとともに、比較的所得水準が高い国に対しては環境案件の円借款を供与しています。また、グアテマラ、ニカラグア、ホンジュラス等に対しては、低所得者層の住宅改善や、上水道整備等の基礎的居住環境整備のための無償資金協力を行っています。技術協力では、メキシコの「環境研究研修センター」、チリの「チリ国環境センター」などの技術協力プロジェクトを実施しました。
図表III-22 中南米地域における援助実績

コラムIII-7 ニカラグアにおける小学生栄養補給計画(学校牛乳プロジェクト)
メルコスールに加え、統合に向けた取組が進められている中米諸国やカリコムを形成するカリブ諸国においても、地域統合を考慮した効果的な支援が求められています。日本は、毎年定期的に実施されている日・中米フォーラムを活用し、また、2000年11月に開かれた日・カリブ閣僚レベル会議で採択された「21世紀における日・カリコム協力のための新たな枠組」(注)に基づき、中米諸国やカリブ諸国への広域的な支援及び関係強化に努めています。
また、日本は、広域環境案件、地域全体に裨益するプロジェクト及び災害復興支援などを積極的に支援しています。例えば、環境対策では、休廃止鉱山の鉱害対策が課題となっているチリに対し、鉱山情報管理及び閉山対策に必要な技術を移転する「鉱害防止指導統制強化(技術協力プロジェクト)」等を実施しています。域内に裨益するプロジェクトとしては、コスタリカに対する「中米域内産業技術センター建設計画(技術協力プロジェクト)」、カリコム加盟国のバルバドス及びセントビンセントなどを対象として、防災能力を高めることを目的とした洪水、土砂崩れ、火山、地震のハザードマップ作成を含む災害管理分野での協力を実施する「カリブ災害管理計画(技術協力プロジェクト)」等があります。加えて、ブラジル、アルゼンチン、チリなど、より開発の進んだ国による南南協力など広域的な協力の推進に努めています。
日本人移住者・日系人に関する支援としては、移住事業による移住者あるいはその子弟を対象とした研修員の受入や、ボリビアの「サンタクルス県北部橋梁建設計画」、ドミニカ共和国の「コンスタンサ畑地灌漑計画」等移住地を含む地域一帯の経済社会インフラ整備のための協力を行ってきています。
なお、アルゼンチンは、1998年の経済不振を発端として、2001年12月には「アルゼンチン経済危機」に陥り、経済・社会的、さらには政治的にも多大な打撃を受けました。日本は、2002年8月にJICAによるアルゼンチンへの緊急対応緊急パッケージとして、同国の経済・社会開発を支援する方針を打ち出しました。このパッケージの下、経済面では、中小企業振興と輸出拡大のための基礎的調査を、社会面ではNGOとの連携による社会的弱者支援のためのパイロットプロジェクトを実施し、また、公共サービスの地方分権化に関する調査を行いました。今後は、この調査報告書をもとに危機打開に向けた支援を行っていく予定です。