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(3) 民主化支援

 開発途上国における民主主義の基盤強化は、統治と開発への国民の参加及び人権の擁護と促進につながり、中長期的な安定と開発の促進にとり極めて重要な要素です。特に、民主化に向けて積極的に取り組んでいる途上国に対しては、ODA大綱の原則の観点からも、これを積極的に支援し、民主化への動きを後押しすることが重要です。また、民主化に加え、市場経済化の推進や、ガバナンスの強化は日本の援助が有効に活用されるためにも重要な要素であり、日本はこういった分野でも積極的に支援を行っています。
 日本は、1996年のG7リヨン・サミットの際に「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD:Partnership for Democratic Development)」を発表し、パートナーシップ、オーナーシップ(自助努力)、途上国との協議・同意の3つを原則としつつ、法・司法整備や選挙制度整備などの制度づくり、司法官・行政官・警察官の育成、選挙支援、市民社会の強化、女性の地位向上支援などの取組を強化する方針を明らかにしました。
 途上国における民主化や市場経済化の進展状況によりその援助需要も多種多様なことから、日本はこれら援助需要へ適切に対応するため、関係省庁や国内関係機関との連携により国内支援体制を構築しつつ、研修員受入、専門家派遣、開発調査、施設整備、機材供与、NGOへの支援など様々な援助形態による多角的な支援を展開しています。2002年度の実績では、研修員受入や専門家派遣などの技術協力が中心ですが、警察支援、選挙支援、メディア支援等の分野における援助需要の増大を背景に、施設整備や機材供与といった協力が過去と比較して増加していることが特徴と言えます。
 市場経済化・対外開放政策に取り組む中で各種法制度の整備が課題となっているカンボジア、ベトナム、ラオス及びウズベキスタン等のNIS諸国に対し、2002年度は、民法や商法などの法案起草、立法化への支援及び法曹人材の育成のための法整備支援を行っています。法案起草においては、被援助国の慣習にも配慮した法律づくりを目指し、派遣された専門家等が粘り強く取り組んでおり、具体的な成果をあげつつあります。なお、カンボジアでは、これまでの協力の成果として、クメール語による民法・民事訴訟法草案が完成し、2003年3月にカンボジア政府に引き渡されました。日本の法整備支援への取組は、10年程度と経験が浅いことから、カンボジア等に対する支援が日本の法整備分野における今後の方向性の一端を担うものとして期待が寄せられています。

カンボジア政府に対する民法・民事訴訟法草案の引渡式(写真提供:法務省)
カンボジア政府に対する民法・民事訴訟法草案の引渡式(写真提供:法務省)

 民主化政策の下での経済開発、社会開発に取り組んでいるアフリカ諸国などに対しては、日本の民主化の考え方・経験を紹介し、自国の民主化プロセスの参考にしてもらうことを目的とした民主化セミナーを毎年度開催しています。2002年度は、2003年10月の第3回アフリカ開発会議(TICADIII)につなげることも念頭に置きつつ、ギニア、トーゴ、コンゴ(共)の与党の国会議員を対象に実施しました。
 民主的体制に移行してはいるものの、行政能力の不足、治安問題、汚職や腐敗による政府への不信の存在といった基本的なガバナンスに不安を抱えるインドネシア、モンゴル及び中南米諸国などに対しては、制度づくりや行政能力向上への支援等の人材育成に重点を置いており、これに併せて施設整備や機材供与を含めた有機的な支援を実施しています。インドネシアでは、1999年に国家警察が国軍から分離・独立し、市民警察としての定着を目指して組織の民主化が推進されています。こうした中、日本は、2001年の「国家警察長官政策アドバイザー」としての専門家派遣に引き続き、2002年8月に技術協力プロジェクトとして「市民警察活動支援促進プロジェクト」を開始しました。これは、ジャカルタ近郊にあるブカシ署をモデル警察署とし、組織運営、通信指令及び現場鑑識の各分野における技術移転を通じて同署の市民警察としての機能を強化し、その成果をインドネシア全土の警察署に波及させることによって、警察改革を後押ししようとするものです。これまでに、各分野について専門家を派遣しており、ブカシ署職員の技術指導等を行っています。
 紛争終結直後の国であるアフガニスタンに対しては、民主的統治機能の確立のため、技術協力や資金協力を活用した行政面の強化、選挙支援、さらには選挙プロセスを全国の一般家庭へテレビ中継するための衛星放送支援などを行いました。
 また、途上国に民主主義の定着を促し、政治・開発への国民参加を促進させるためには、民主化の土台となる市民社会の強化と女性の地位向上への支援が不可欠です。日本は、技術協力、無償資金協力及びNGOの活動を通じた支援など様々な協力を実施してきています。なお、女性の地位向上への支援の実施状況については、開発における女性支援(第III部2章1節1-(3))を参照してください。

インドネシア警察への技術支援:鑑識の技術移転を行う日本人専門家(写真提供:国際協力機構(JICA))
インドネシア警察への技術支援:鑑識の技術移転を行う日本人専門家(写真提供:国際協力機構(JICA))


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