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7.債務問題への取組

 途上国の累積債務の問題は、1970年代の2度の石油ショック、1980年代前半のUSドル金利の高騰の影響等により、世界的に拡がりました。累積債務の問題は、サブ・サハラ・アフリカ諸国等の最貧国の債務問題と中南米諸国などのそれ以外の国の債務問題とに分けられ、いずれも主としてパリクラブ(囲みII-6参照)において議論されています。
 最貧国については、特定の一次産品に依存する、経済基盤の弱い国が多く、1970年代後半以降、世界景気の低迷による一次産品価格下落の影響を受け、多くの国が債務問題に直面することになりました。こうした状況に対応するため、先進各国は、1978年のUNCTAD・貿易開発理事会(TDB:Trade Development Board)決議(注)に基づく措置として、最貧国に債務削減を実施してきました。また、パリクラブについては、従来、債務問題を債務国の一時的な流動性の危機ととらえ、債務の償還期間を延長する、つまり支払いを繰延べることで対応していましたが、債務問題が深刻化するに従い、1980年代後半には、サミット等の場で債務持続可能性がなく長期的な支払い能力に問題があるとして債務削減の必要性が指摘され、パリクラブでも債務削減措置がとられるようになりました。一方で、この債務救済措置の対象は二国間債務であり、最貧国の債務の大きな部分を占める国際金融機関の債務は救済の対象とされていなかったため、最貧国の債務問題は十分に解決されることにはなりませんでした。このような状況を背景に、二国間債権者のみならず、国際金融機関や商業債権者をも包含し、重債務貧困国(HIPCs)の債務を持続可能なレベルまで低減することを目的とした「HIPCイニシアティブ」が、1996年のリヨン・サミットの際に合意されました。その後、HIPCイニシアティブは1999年のケルン・サミットにおいて拡充され、拡大HIPCイニシアティブ(ケルン債務イニシアティブ)となり、現在に至っています。
 最貧国の債務問題について、日本は、拡大HIPCイニシアティブにおける最大の貢献国として同イニシアティブの速やかな実施に向けて積極的に取り組んでおり、同イニシアティブが適用されることが決定している27か国に対して、G7貢献分(235億ドル)の約4分の1にあたる約54億ドルの貢献を行っています。日本としては、債務救済が貧困削減や持続可能な開発に繋がることを確保しつつ、引き続き同イニシアティブを迅速かつ着実に実施に移していくことが重要と考えています。しかし、債務救済は、国際社会が一致して行わなければ十分な効果は期待できません。これからも、対象となる国の状況に応じ、二国間及び国際的な議論を通じて債務の問題に取り組んでいきます。

囲みII-6 パリクラブ(主要債権国会合)とは

 また、日本は従来、債務救済無償の供与により円借款債務の救済を行ってきましたが、途上国の債務問題のより早期の解決、債務国の負担の軽減、ODAの透明性及び効率性の観点から、2003年度より、債務救済無償にかえて円借款の債権を放棄することとしました。
 もう1つの債務問題として、中南米諸国等の中所得国を始めとする最貧国以外の国の債務問題が挙げられます。中所得国を中心とするこれらの国々は、比較的経済成長が進んでいる反面、域内及び国内における経済格差が大きく、一部の国における貧困問題は深刻です。こうした域内及び国内の格差を是正し、貧困問題を緩和することは、これらの国々の安定的発展のために重要な課題となっています。重い債務負担がこうした課題の取組への足かせとならないよう、引き続き債務問題に適切に対応していく必要があります。特に中所得国債務の一つの特徴としては、最貧国の場合に比べて、対外債務の中に民間資金が含まれる割合が高いとの特徴があります。また、1990年代以降、民間債権者がそれまでの民間銀行団から不特定多数の債券保有者にシフトするという新たな傾向も見られます。そのため、これらの国々の債務問題の解決のためには公的債権者と民間債権者がいかに協調して取り組むかが課題となっています。こうした課題に対してG7等の国際的な枠組みによる対応が検討されています。
 パリクラブでの対応としては、2003年5月のフランスのドーヴィルにおけるサミット財務大臣会合の合意を受け、2003年10月にHIPC諸国以外の国に対する新たなアプローチ(エビアン・アプローチ)(注)が合意されました。これにより、これらの国々の債務問題について、民間債権者と公的債権者の対話の開始が合意されるとともに、債務負担が大きく、支払い能力に問題がある国に関しては、一定の条件を満たした場合、包括的な債務救済措置がとられることになりました。日本としても、公的債権者と民間債権者の協調についてのG7等の国際的な枠組みにおける議論に積極的に参加するとともに、これらの国々に対する債務救済にも必要に応じて協力しています。
 債務問題の解決に当たっては、債務国自身が経済再建に真剣に取り組む努力が重要です。日本は、債務国自身の努力により中長期的な成長が達成され、債務返済能力が回復することが必要であるとの立場を基本としつつ、こうした成長が可能となるよう、今後も必要に応じて債務国の債務返済負担の軽減に協力していく考えです。


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