本編 > 第I部 > 第2章 > 第1節 > 2.「基本方針」-どのようにODAを行うのか- > (1)開発途上国の自助努力支援
2.「基本方針」-どのようにODAを行うのか-
新しいODA大綱においては、日本のODA政策立案段階から実施に至るまで、あらゆる段階において日本が常に重視する最も重要な考え方、あるいは方針を明確にするために、新たに「基本方針」を設けました。この基本方針においては、[1]開発途上国の自助努力支援、[2]「人間の安全保障」の視点、[3]公平性の確保、[4]日本の経験と知見の活用、[5]国際社会における協調と連携、の5つを掲げています。
(1)開発途上国の自助努力支援
途上国の自助努力に対して積極的に支援する、というこの考え方は、日本が自らの経験と東アジアに対する援助の経験を踏まえ、従来から欧米諸国に先駆けて主張してきたもので、旧ODA大綱においても「開発途上国の離陸へ向けての自助努力を支援することを基本」とするとされていました。新しいODA大綱において、自助努力支援は「我が国のODAの最も重要な考え方である」と位置づけられています。これは、日本は、かねてから被援助国が自助努力に基づいて自国の開発を進めることがその国の真の経済的自立につながるものであり、ODAはその手助けをするものであると考えてきたからです。日本の援助が、被援助国からの要請に基づいて援助を実施するという「要請主義」を採ってきた背景にも自助努力支援という考え方があります。なお、自助努力や自主性(オーナーシップ)については、国際社会においてもその重要性の認識を深めており、日本がその策定に主導的な役割を果たした1996年のOECD-DACの「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」(DAC新開発戦略)でも言及されているほか、1990年代後半から策定され始めたPRSPの根本原則とされています。さらに、東アジア型開発の成功例について現状認識を共有する場でもある東アジア開発イニシアティブ(IDEA:Initiative for Development in East Asia)*1第1回閣僚会合が2002年8月に開催され、その場で採択された共同閣僚宣言においても、開発のオーナーシップの重要性が強調されています。また、日本の対アフリカ支援の中心であるアフリカ開発会議(TICAD:Tokyo International Conference on African Development)のプロセスでは一貫してオーナーシップとパートナーシップの原則を提唱し続け、2003年9月~10月のTICADIIIにおいても、アフリカ自身によるオーナーシップの発露である「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD:New Partnership for Africa's Development)」*2に対し、国際社会による支援が結集しました。
こうした自助努力を支える要素として、人づくり、そして、法・制度構築や経済社会基盤の整備(教育、保健・衛生、水供給といった社会インフラや運輸、エネルギー、通信等の経済インフラの整備)が重要です。人づくりは、途上国が国家建設と経済開発を行っていく上で欠くことのできない自国の人材を育てるものであり、法・制度構築そして経済社会基盤の整備も開発途上国の発展の基本となっています。日本は、今後ともそのような分野を支援していく考えです。
■良い統治(グッド・ガバナンス)とは
なお、新しいODA大綱において「良い統治(グッド・ガバナンス)に基づく開発途上国の自助努力を支援する」としているのは、途上国における「良い統治」が、途上国の開発を効果的・効率的に進める上で不可欠なものであり、また、開発の結果得られた「成長の果実」(富)が、貧困層も含めて国内に公正に再配分されるためにも必要とされているものだからです。ここで言う「良い統治」とは、民主的な政治体制(議会制民主主義)、法の支配、説明責任を果たす効率的な政府、政府による適切な情報公開、腐敗の抑制、人権の保障といった要素を含んだ概念です。
■開発途上国の自主性の尊重とその後押し
自助努力支援に関連して、新しいODA大綱では、民主化努力、経済社会構造改革に向けた取組を積極的に行っている開発途上国に対して重点的に支援する点が明示的に盛り込まれました。和平プロセスの促進、紛争終結後の復興、民主化に向けての選挙実施、人権保障のための制度改革といった「平和、民主化、人権保障のための努力」や、効率的な行政を目指した「経済社会の構造改革に向けた取組」を積極的に行っている途上国に対しては、これを「重点的に支援する」とし、途上国の努力が促進されるような方針が明確に打ち出されています。なお、このような考え方は、旧ODA大綱以来ODA大綱の援助実施の原則に示されている「民主化の促進、市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う」と合致した考え方であり、これらの取組を積極的に推進しようとするものです。
コラムI-2 自助努力支援と円借款