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2003年8月29日、日本のODA政策の基本文書である政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)大綱が11年振りに改定されました。第I部では、新しいODA大綱がどのような経緯で改定され、また、その内容がどのようなものであるのか、そして、今後、日本のODA政策がどのような方向で実施されていくのかについて紹介します。第1章では、まず、日本のODAを概観し、ODA大綱の改定に至った背景と経緯などに触れ、続く第2章において新しいODA大綱の内容について詳しく解説します。
第1節 岐路に立つ日本のODA
1.日本のODAの現状
ODAとは、Official Development Assistanceの頭文字をとったものです。国際的な定義によれば、政府または政府の実施機関によって、途上国の経済社会の発展や福祉の向上に役立つために供与される資金・技術提供による協力のこととされています。今日、日本は、世界145の国や地域(注1)に対して ODAを実施しています。
経済協力開発機構の開発援助委員会(OECD-DAC:Organization for Economic Co-operation and Development-Development Assistance Committee)(注2)の発表によれば、2002年の日本のODA実績は対前年比5.7%減の92億8,300万ドル(注3)で、2001年に引き続きDAC諸国中第2位の援助国となりました。一方、日本のODA実績がDAC諸国全体の実績に占める割合は、前年に比べて2.9ポイント減少し、15.9%となりました。これは、国内の厳しい経済・財政状況のもと日本のODA予算が減少していること(注4)、また、為替レート(注5)の影響でドル建ての実績額が目減りしていることが主たる要因ですが、同時に、他の主要援助国が2002年3月のモンテレイ開発資金国際会議以降ODAの大幅な増額を図り、世界全体のODA総額が上昇傾向にあることも背景にあります。
図表I-1 DAC主要国のODA実績の推移

囲みI-1 政府開発援助(ODA)とは
図表I-2 日本とDAC諸国の援助形態別ODA実績

また、ODA実績の国民総所得(GNI:Gross National Income)に占める割合(対GNI比率)は、日本は前年と同じ0.23%で、DACの加盟国22か国中18位でした。また、国民一人当たりのODA負担額については、77.4ドルとDAC諸国中9位(注6)となっています。
このように、日本は、世界最大級の援助国として途上国の発展に貢献してきています。これまでの日本の援助の特徴をまとめると、人づくりや制度づくりを重視していること、途上国の自助努力支援を基本としていること、日本の戦後復興の経験から、持続的な成長を維持するためにも経済成長を重視する傾向が強いこと、歴史的な関係の深さもあり、アジア諸国との関係が深いことなどが挙げられます。また、援助の手法、形態については、大別して、有償資金協力、無償資金協力、技術協力からなる二国間援助のほか、国際機関を通じた援助、NGO(非政府組織:Non Governmental Organization)との連携による援助など、様々な形態の援助を総合的に展開している点が大きな特徴となっています。
図表I-3 援助形態別配分の推移

図表I-4 二国間ODAの地域別配分

図表I-5 二国間ODAの地域別配分の推移

図表I-6 二国間ODAの分野別配分の推移

図表I-7 ODA予算の推移・他の主要経費の推移

バブル経済の崩壊後、日本は長期的な財政赤字そして経済停滞という厳しい状況に置かれています。その影響を受け、ODA予算もここ数年は減少傾向にあります。1978年福田内閣の下で初めて設定された第1次中期目標から第5次中期目標に至るまで、日本はODAの量的拡大に努めてきました。そして1989年には米国を抜いて初めて「世界最大の援助国」となり総額89億6,000万ドルを供与するまでになりました。その後1990年を除き、2000年に至るまでの10年間、世界最大の援助国としての地位を維持しました。しかし、その後の経済不況やODAに対する国民の批判などを要因として国民のODAに対する見方は厳しくなっており、日本のODA予算は2004年度の政府案についても当初予算で見ると前年度比4.8%減となり、1997年度をピークに7年間で30%以上削減されることとなります。ただし、2003年度補正予算においては国際社会が直面する課題であるイラク復興支援のため1,188億円が計上されるなど、適時適切な対応を図っています。
平和を希求する日本が進める外交において、ODAは国際社会の平和と発展に貢献し、日本の安全と繁栄を確保することにおいて重要な役割を果たしています。しかし、このような予算の減少傾向により現在日本のODAは岐路に立っています。国民の理解を得て、ODAを実施していくためには、ODAの戦略性、効率性などを高め、より効果の高い援助を実施することが必要です。また、ODAの質を改善する努力とともに、ODAに対する国民の理解と支持を得るために、国民に対する説明責任を果たすこともますます必要になってきています。日本のODAが被援助国の発展、福祉にとって有効に機能していることのみならず、それが日本にとっても利益となっていることをこれまで以上に国民に説明し、ODAに関する透明性の向上や説明責任の徹底を実行していくことが不可欠であると認識されるようになりました。