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第I部 「ODA大綱」の改定と日本の新たな取組







第1章 日本のODAを取り巻く状況と大綱の改定


 第1章では、日本のODAの現状を概観し、ODA大綱の改定に至った背景と経緯、改定されたODA大綱のポイントなどについて説明します。

 日本は、世界最大級の援助国として開発途上国の発展に貢献してきましたが、近年、厳しい経済・財政状況やODAに対する国民の厳しい見方などもあり、ODA予算は減少傾向にあります。2002年の日本のODA実績は対前年度比5.7%減の92億8,300万ドルとなりました。このような状況のもと、政府は、透明性、効率性、国民参加をキーワードにODA改革を精力的に推進してきました。
 ODAを取り巻く状況の変化は国内に止まりません。グローバル化の進展は、世界経済の成長や生活水準の向上をもたらしましたが、一方においては、こうした恩恵に与ることができず貧困問題が深刻化した国や地域が存在しています。1995年の世界社会開発サミットや1996年のDAC新開発戦略の採択等を通じて、貧困削減が国際社会における重要課題として認識されるようになったほか、冷戦後多発する地域・国内紛争に対処するための「平和の構築」、個々の人間に着目し、生存・生活・尊厳を確保するため人々の保護と能力強化を図る「人間の安全保障」という新しい開発課題や考え方も生まれました。
 その後、国際社会では、明確な量的目標と達成期限を定めたミレニアム開発目標がとりまとめられ、現在、その実現に向けた取組が強化されています。先進各国は、米国同時多発テロを契機として、貧困にあえぎ統治が行き届かない国がテロの温床ともなり得るとの観点もあり、相次いでODAの増額を発表しました。さらに、NGO、地方公共団体、大学、研究機関、企業といった援助主体の多様化や現地での援助協調を基調とした援助手法の多様化が進んでいます。
 このような国内外の状況の変化を踏まえ、ODAを機動的、戦略的に活用するとともに、その効率性を高めていくため、政府は2003年8月29日、閣議決定によりODA大綱を改定しました。改定されたODA大綱において、ODAの目的は「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資する」こととされたことを踏まえ、ODAを一層戦略的に活用していくことが求められています。また、男女共同参画(ジェンダー)を含む援助の公平性の確保や「人間の安全保障」の視点といった基本方針を個々のODA事業に反映させていくことや、重点課題となった平和の構築分野への取組を積極的に行っていくことも重要です。さらに、ODA改革の成果と方向性に沿って、政府全体として一体性と一貫性のある援助政策の立案・実施、開発途上国との政策協議の強化、現地機能の強化、国民参加の拡大等をさらに進めていく必要があります。
 政府は、現在、改定されたODA大綱の着実な実施に向けて取り組んでいます。具体的には、新たな国別援助計画の策定及び改定(スリランカ、ベトナム)、援助実施機関による環境社会配慮ガイドラインの策定・実施、TICADIIIの開催や日・ASEAN特別首脳会議の開催を通じたアフリカ諸国、アジア諸国に対する支援の表明、イラクやアフガニスタンにおける平和の構築支援の推進等、新大綱に沿った取組が進められています。

留学生支援無償資金協力事業により来日した留学生。写真は防災訓練の様子   (写真提供:JICE2004)
ODA写真館[1] 留学生支援無償資金協力事業により来日した留学生。写真は防災訓練の様子(写真提供:JICE2004)

Point
第1節
・厳しい経済・財政状況やODAに対する国民の厳しい見方などもあり、ODA予算は減少傾向。
・ODAの戦略性、効率性などを高め、国民の理解と支持を得るため、ODA改革を推進。
第2節
・国際社会において貧困削減が重要課題に。平和の構築、人間の安全保障といった新しい開発課題や考え方が出現。
・途上国の開発問題につき国際社会は取組を強化。先進各国は、相次いでODA増額を発表。
・NGOをはじめとした援助主体の多様化、現地での援助協調を基調とした援助手法の多様化が進展。
第3節
・大綱の改定に当たっては、国民と共に歩むODAを目指し、国民各層からの意見を聴取。
第4節
・新しいODA大綱に示された理念と基本方針、援助実施の原則などに従い、幅広い国民参加の下、ODAを活用し、国際社会の平和と発展に貢献していく。
・ODA改革はODA大綱の改定で事足れりとするものではなく、今後とも着実かつ継続的に実施。



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