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第4章 わが国ODAの新たな展開
ODA写真館[4]:ガーナへの青年海外協力隊派遣25周年切手(ガーナ:青年海外協力隊)
Summary
政府は、さらなるODA改革を進めるとともに、援助理念や援助戦略をより明確にするため、ODA大綱の見直しに着手した。
第1章で説明したとおり、国際社会においては開発問題への関心が大きな高まりを見せています。その結果、多くの欧米諸国がODA予算の増額を打ち出しています。また、国際社会全体が、共通の開発目標であるミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けてパートナーシップを強化しており、教育や水など具体的な開発課題に関する国際会議も頻繁に開催されています。国際的な協力の強化は、ODAをより効果的・効率的に活用するため、貧困削減戦略文書(PRSP)の策定や援助手続きの調和化の面でも顕著になっています。
他方、わが国は、厳しい経済財政事情を背景にODA予算は98年以降大幅な減少傾向にあり、ODAの量的増加は当分望める状況にありません。しかしながら、わが国は今でも米国に次ぐ最大級の援助国であり、国際的な開発援助の潮流も踏まえ、これからも途上国の開発に主体的に取り組んでいく必要があります。そのためには、限られたODA資金を最大限活用し、より効率的・効果的なODAを行っていく必要があります。ODAの使途についても、優先順位付けをこれまで以上に厳しく行い、対象国・分野を一層重点化する必要があり、国民のODAに対する理解を得る上でも、こうした取組が不可欠です。
このような考えの下、わが国は、引き続きアジア地域に重点を置きつつ、経済・社会インフラ整備、人材育成・知的支援などの従来の取組に加えて、平和構築や人間の安全保障といった分野におけるODAの積極的な活用や、国民参加・顔の見える援助を進めています。
アジアの平和と繁栄は、わが国の存立基盤です。すでにわが国の二国間ODAの半分以上はアジア向けです。わが国は、2002年、今後の東アジアの開発の方向性について議論し、また、東アジアの開発の経験とそれに果たしたわが国ODAの役割を体系化して世界に発信していくため、東アジア開発イニシアティブ(IDEA)を打ち出しました。2002年8月の第1回IDEA閣僚会合における閣僚共同声明は重要な第一歩ですが、今後、同声明を踏まえ、貿易・投資と密接に連携し、さらには地域の平和と安定と繁栄を求める包括的な開発を進めていくことが重要です。また、東アジアにおける経済連携強化等を十分に考慮し、ODAを活用して、ASEAN諸国との関係強化に努めるとともに、日・ASEAN包括的経済連携構想においては、連携に意味のある参加をするための競争力を向上させるため、ASEAN、特に新加盟国に対する技術支援及びキャパシティ・ビルディングを積極的に活用していくこととしています。一方、対中国ODAについては、対中国経済協力計画に基づき、環境分野、人材育成、内陸部の民生向上・社会開発等に重点を置いて思い切った見直しを進めています。
また、第2章第3節で述べた、アフガニスタン、スリランカ、インドネシアのアチェ、フィリピンのミンダナオ等における平和の定着と国づくりに向けた、わが国の協力は、先進国・途上国のいずれからも日本独自の取組であるとして高く評価されているだけでなく、もはやわが国外交の一つの柱となっており、今後、益々重要になってくると考えられます。2002年12月に来日したフィリピンのアロヨ大統領は、来日にあたり「円は剣よりも強し」と述べ、わが国の取組に賛辞を贈りました。
さらに、「人間の安全保障」は、人間が人間らしく尊厳を持って生きるために人間一人一人に着目してその脅威を取り除こうとの考え方であり、貧困、教育、保健医療、環境、水と衛生などはその中心分野であると同時に、全てミレニアム開発目標(MDGs)に含まれている要素です。わが国は、国際的な援助に関する潮流を踏まえつつ、こうした分野への支援に努めていきたいと考えています。
加えて、ODAはわが国の経済・社会の活性化につながるという視点が重要です。この点、円借款については、2002年7月に新たな供与条件として「本邦技術活用条件」が導入され、わが国の優れた技術やノウハウが積極的に援助に活用されることが期待されています。また、老若男女を問わず、わが国国民の間で国際協力への参加志向が大いに強まっていることを大切にし、NGO・NPO、地域・自治体、企業等の国際協力活動に対する支援を強化することにより、わが国経済社会や地域を活性化するとともに、わが国の貴重な人材の活用につながるフロンティアを形成していくことが大切です。
2002年12月、川口外務大臣は、これらのODAを巡る国内外の新たな展開を念頭におきつつ、より長期的な展望を見据えたわが国ODAの援助理念をより一層明確にするため、ODA戦略の根幹をなすODA大綱について思い切った見直しを行うことを表明しました。見直しに際しては、政府内において、政府開発援助関係省庁連絡協議会を通じて関係省庁と調整しつつ原案を作成することとなっています。ODA総合戦略会議における議論を踏まえるとともに、実施機関、NGO、経済界等からのヒアリングや公聴手続き等幅広い国民的議論を十分に尽くしつつ、検討を行った上で、2003年中頃を目途に対外経済協力関係閣僚会議における審議を経て、最終的な結論を得ることとしています。
見直しの内容に関しては、基本理念については、現行大綱の掲げている人道的見地、国際社会の相互依存関係、環境の保全及び平和国家としての使命等を含めた「普遍的価値」とともに、わが国にとっての安全と繁栄等を加えてODAの基本理念を明確に示す方向で検討を進めています。また、原則については、現行大綱の原則がわが国のODA政策において果たしてきた役割と機能を踏まえつつ、今後のあり方について検討することとしています。重点事項については、めりはりのある実施を前提に、今後ともODAの重点をアジア地域に置きつつ重点化を図るとともに、分野については、現行大綱では、地球規模の問題、基礎生活分野、人造り協力、インフラストラクチャー整備等を重点分野としており、見直しにあたっては、現行ODA大綱策定後の国際的開発課題の変化も踏まえつつ、平和構築分野におけるODAの積極的な活用、人間の安全保障、国際的な開発目標等も踏まえて適切な規定を置くこととしています。その他、これまでのODA改革に関する各般の提言も踏まえ、ODAの戦略性、機動性、透明性、効率性を確保するため、「政策立案・実施体制」、「効率的・効果的実施のために必要な事項」及び「政策の立案・実施上配慮すべき点」等の観点に沿って必要な規定を整理する方向で検討しています。