前頁  次頁


本編 > 第I部 > 第2章 > 第2節 > (3)地域別の援助政策


(3)地域別の援助政策

(イ)南西アジア
南西アジア地域は、世界人口の5分の1を占め、4か国が後発開発途上国(LDC)であり、多くの貧困人口を抱えています。こうした貧困、人口問題に加え、初等教育普及率の低さや保健医療の未整備、また、感染症問題なども深刻であり、国際社会がミレニアム開発目標(MDGs)達成を目指す上でもアフリカと並び最大の課題を抱える地域です。
2002年の南アジアにおいては、2001年来のインド・パキスタン間の軍事的緊張が続き、特に5月から6月にかけては一触即発の危険をはらむ事態となりました。核不拡散問題もあり、同地域は国際社会の重要な関心地域となっています。また、2001年9月11日の米国同時多発テロ以降の「テロとの闘い」という側面からも、同地域の戦略的重要性が注目されています。
インドについては、グローバル・パートナーとしての関係強化を念頭に円借款によるデリーの地下鉄建設支援や環境対策としてガンジス河の汚染対策に協力するなどODAによる支援を強化しています。2003年1月初旬の川口外務大臣のインド訪問の際に、インド政府側に総額約1,100億円の円借款の供与決定を伝えました。わが国は、今後、保健・医療、農業・農村開発、環境保全、経済インフラの4つの重点分野を中心にインドへの経済協力を進めていきますが、対インドODAを巡る環境が変化していることもあり、今後2年以内を目処に、対インド国別援助計画を改定する予定です。
パキスタンについては、2001年10月のインド及びパキスタンに対する経済措置の停止後、パキスタン政府による教育及び保健の分野を含む貧困削減の努力を支援するため、3億ドルの無償資金協力の供与を表明し、現在実施中です。また、同国の深刻な債務状況に鑑み、パリクラブでの債務繰り延べの議論に積極的に貢献し、約4,900億円の債権を例外的に寛大な条件で繰り延べすることに合意しました。
スリランカでは、2002年2月の停戦合意を受けて、国際社会による同国の和平プロセスの後押しと復興開発支援が始まっています。わが国も、明石元国連事務次長をスリランカの和平構築及び復旧・復興に関する日本政府代表に任命し、2003年6月に東京で復興のための会合を開催する用意がある旨表明するなど、スリランカにおける「平和の定着」に向けて、和平・復興プロセス支援に積極的な貢献を行っています(「平和の定着」の観点からのスリランカ和平へのODAの活用については、第3節(2)(ロ)参照)。
バングラデシュ、ネパール、ブータン、モルディブに対しては、これらがLDCであることに留意し、無償資金協力及び技術協力を中心に支援を実施しています。特にネパールに対しては、2002年11月、同国に対し初のノン・プロジェクト無償資金協力を13億円供与しています。

(ロ)中央アジア・コーカサス
中央アジア・コーカサス地域は、ロシア、中国、中東に囲まれているという地政学的な重要性、及び石油、天然ガス等のエネルギー資源を有する経済的な重要性を有し、日本との歴史的、文化的な結びつきもある地域です。こうしたわが国にとっての重要性に鑑み、97年7月、橋本総理(当時)は、「ユーラシア外交」を提唱し、「シルクロード地域」としての同地域に対する積極的な外交を展開していく方針を表明しました。
同地域の国々は、91年に旧ソ連から独立して以来、程度の差はあるものの民主化、市場経済化に取り組んでいます。わが国は、こうした努力を支援すべく民主化、市場経済化に不可欠な人づくり支援やノウハウの提供といったソフト型支援のほか、保健・医療を中心とした基礎生活分野への支援を実施しています。また、この地域は、紛争やイスラム過激派の活動に悩まされてきた地域であり、わが国は地域の安定に資する支援を重視するとの観点から、2001年5月には、東京でタジキスタン支援国会合を主催し、その際、和平達成後の国際収支支援を中心とした25億円規模の支援パッケージを発表しました。
さらに、米国における同時多発テロ事件後は、アフガニスタンの周辺地域として同地域の重要性が増しています。わが国は、周辺国支援の一環として、2001年10月、タジキスタンに対し約2.4億円の難民支援、同年12月、ウズベキスタンとタジキスタンに対し、ユニセフ経由で総額5億4千万円を限度とする無償資金協力、さらに2002年、ウズベキスタン及びタジキスタンにそれぞれ10億円の無償資金協力を供与しました。
同地域は、わが国にとりエネルギー供給源として期待されており、今後、エネルギー分野での協力の可能性についても検討していくこととしています。2002年7月には、エネルギー安全保障強化に向けた協力推進のため、わが国は、カザフスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンの4か国に対し、杉浦外務副大臣(当時)を団長とする「シルクロード・エネルギー・ミッション」を派遣しました。このミッションにおいては、長期的な視点でシルクロード地域とアジア地域のエネルギー分野での協力を強化したいというわが国の考えに対し、各国から好意的な反応が得られ、また、エネルギー分野のみならず、諸国の国づくりを引き続き支援していく考えを表明しました。

(ハ)中東
わが国が原油の約88%を中東諸国に依存し、中東諸国にとってもわが国が最も重要な貿易相手国の一つであるなど、わが国と中東地域は、高い相互依存関係にあります。しかしながら、中東地域は、中東和平やアフガニスタン、イラク情勢等をめぐり不安定要因を抱えているほか、非産油国の中には国際収支赤字、累積債務問題などの経済的困難に直面している国もあります。また、同時多発テロ以降、イスラム教徒が大半を占める同地域の動揺と不安定化を避けることの重要性がより一層高まっています。こうした点を踏まえ、わが国は、ODAを通じ、この地域との円滑な通商関係の維持、社会的安定と平和の実現に向けた支援を重点的に行っています。
中東地域には、比較的裕福な国もありますが、その中には石油収入に依存し他の産業育成が遅れ、経済構造が脆弱な面を持つ国もあります。これらの国にとっては産業の多角化が急務であり、わが国は、職業訓練をはじめ国内技術者の育成のための技術協力や海外からの投資促進のための環境整備への支援を行っています。また、比較的低所得の国においては、農業、水資源開発などの経済・社会インフラ整備支援を中心に行っています。中東地域はまた、水資源の不足をはじめとした環境問題を抱えており、わが国は、資金協力、技術協力を通じた支援を行っています。
わが国は、この地域全体の平和と安定に大きな影響を及ぼす中東和平にもODAを通じて取り組んでいます。2002年6月、川口外務大臣がパレスチナを訪問した際、パレスチナ自治政府に対し、和平の進展に応じて支援を進めていくとの考えに基づき、「パレスチナ支援のロードマップ」を提示しました。現在は、和平に向けた取組を励ましつつ、パレスチナの「国づくり」と自治政府の改革に向けたガバナンス分野での支援を行っています。
わが国は、イランに対しても、ハタミ大統領の進める改革努力を支援するとともに、国際社会における同国の建設的関与を引き出すとの観点から、職業訓練、省エネルギー、水資源開発等の分野における技術移転を中心に、積極的な協力を行っています。
なお、アフガニスタン復興開発支援については、第3節(2)(イ)を参照して下さい。

(ニ)中南米
中南米地域は、90年代における民主化、経済改革を通じて、政治的にも概ね安定的に推移してきています。また、同地域においては、メルコスール(南米南部共同市場)、CARICOM(カリブ共同体)等の地域経済統合が進展してきており、さらには、2005年の発効を目指して、南北アメリカ全体を包摂する米州自由貿易地域(FTAA)交渉が現在行われています。また、近年、ブラジルやメキシコ等の一部の国は、国際社会において発言力を有するようになり、グローバル・プレーヤーとして活躍するに至っています。しかしながら、急激な経済改革により、域内及び国内において経済格差が生じ、結果、一部の国々において、治安、貧困の悪化等様々な社会問題が発生しています。
中南米諸国には、ブラジル、アルゼンチン、チリなどの比較的開発の進んだ国もありますが、中米諸国、ボリビア、ガイアナ、ハイチ等における貧困問題は深刻です。また、比較的開発が進んでいる国においても地域間格差が大きいため、域内および国内の格差を是正し、貧困問題を緩和することで、域内経済の安定的発展のための基礎を固めることが重要です。こうした問題に対して、わが国は、教育、保健医療分野など基礎生活分野への支援を中心に貧困対策や域内格差是正のための支援を行っています。
また、域内格差是正に対する中南米諸国の主体的な対応として域内協力・域内統合の動きが活発にみられ、ブラジル、アルゼンチン、チリなど周辺諸国と比べてより開発の進んだ途上国が新たな援助国となり、他の途上国の支援を開始しています。こうした協力の形は南南協力と呼ばれますが、わが国はそれら新興援助国との協力の枠組み文書(パートナーシップ・プログラム)の下、南南協力を積極的に支援しています。
さらに、わが国は、中南米諸国に居住する多数の日本人移住者・日系人の子弟を対象とした研修員受入れや日本人移住地を含む地域の経済社会インフラ整備のための協力など、移住者や日系人に配慮したODAも行っています。
CARICOM諸国との関係では、2000年11月に初の日・カリブ閣僚レベル会議が東京で開かれ、協力の枠組み文書が署名されました。この枠組みには、雇用創出と産業の多角化、職業訓練などの人材育成、保健衛生・エイズ対策、環境保全、自然災害対応能力強化、観光、IT促進、水産振興など広範な分野における協力が盛り込まれ、着実に実施してきていますが、今後もこの枠組みの実施を通じた日・CARICOM友好関係の促進が期待されています。

(ホ)大洋州
わが国は大洋州地域と伝統的に友好関係にあり、国際的な場においてもわが国の立場に対する支持を得ています。さらに、この地域はわが国の遠洋漁業にとって重要な漁場であり、また海上輸送ルートの要衝になっています。このような事情を踏まえ、わが国は良きパートナーとしてこの地域を支援してきています。
大洋州地域の国々は、国家規模が小さい、地理的に分散している、気候温暖化などによる海面上昇の結果、国土喪失の危機に直面している、自然災害に対して脆弱である、一次産業依存型経済である、若い独立国であるといった共通の特徴を有しており、このような地域の特殊性に起因する共通問題と、各国に固有な事情の両面を勘案しながら支援を実施しています。
また、わが国は、2000年4月に宮崎で開催された「太平洋・島サミット」の森総理(当時)による基調演説において「太平洋フロンティア外交」を提唱し、その具体化のために「太平洋諸島各国の持続可能な開発」「地域及び地球規模の共通の課題」「日本と太平洋諸島各国間のパートナーシップの強化」という3つの分野での協力を盛り込んだ「宮崎イニシアティブ」を表明しました。現在、2003年5月の次回「太平洋・島サミット」も念頭に置いて、具体的案件の実施に努めているところです。
広大な太平洋に島嶼国が点在する同地域においては、複数の国に対する広域協力が有効です。わが国は地域に共通の問題の克服と、ODAの効果的活用を目的とし、複数の国に利益をもたらす案件として域内12か国に係わる「南太平洋大学通信体系改善計画」や、アジア大洋州地域の珊瑚礁研究の拠点として建設された「パラオ国際珊瑚礁センター」、南太平洋地域の環境・資源管理問題を扱う「南太平洋地域環境プログラム(SPREP)訓練・教育センター」への無償資金協力や技術協力を実施しました。
また、同地域では、民主化に対する支援も重視しており、わが国は2001年8月から9月に実施されたフィジーの総選挙や、同年12月に実施されたソロモンの総選挙に対して選挙機材供与や選挙監視要員の派遣などの支援を実施しました。

(ヘ)欧州
中・東欧諸国の民主化や旧ユーゴスラビア地域の平和の定着と復興は、国際社会が協調して取り組むべき課題です。このため、わが国も、東欧の民主化支援や旧ユーゴスラビア地域における難民支援等の人道支援、復興・開発のための経済・社会インフラ支援、基礎生活分野支援等を通じて積極的に同地域の復興開発に協力しています。具体的には、紛争の被害を大きく受けたコソボに対し、これまでに総額約1億8,700万ドルを人道・復興支援として拠出したほか、周辺国支援として、コソボ難民の受け入れ等により経済的影響を受けたマケドニアやアルバニアに対して6千万ドル以上の支援を実施しました。
また、東欧諸国は、EU加盟に向けて政治・経済・社会改革に精力的に取り組み、改革が順調に進展している国がある一方で遅れをとっている国もあることから、上記諸国に加えEU加盟候補国の中でも特に経済的困難に直面しているブルガリアやルーマニアに対して実情に応じた適切な支援を実施しています。その一環として、わが国はブルガリアに対し、首都機能の強化のために地下鉄拡張事業に約129億円の円借款を供与しました。さらに、ポーランドに対しては、競争力のある産業構造構築に向けて産業政策の改善・強化を図ることを目的とした「中小企業振興」、「産業技術」、「産業振興戦略」分野の専門家を派遣しました。


前頁  次頁