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人権・人道


市民的及び政治的権利に関する国際規約
第40条1(b)に基づく第4回報告
(仮訳)


I 一般的コメント

 憲法を最高法規とする我が国法体系における人権擁護の制度的側面、及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」と国内法規との関係については、第1回、第2回及び第3回報告で述べたとおりであるが、補足的説明は次のとおり。

日本国憲法における「公共の福祉」の概念

 憲法第11条は、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」と規定している。しかし、同時に、第12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」と、第13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定している。
 これは人権保障も絶対的で一切の制約が認められないということではなく、主として、基本的人権相互間の調整を図る内在的な制約理念により一定の制限に服することがある旨を示すものである。例えば、他人の名誉を毀損する言論を犯罪として処罰することは、行為者の言論の自由を制限することにはなるが、この制限は、他人の名誉権を保護するためにはやむを得ないことであり、「公共の福祉」の考え方により説明することができる。
 したがって、そもそも他人の人権との衝突の可能性のない人権については、「公共の福祉」による制限の余地はないと考えられている。例えば、思想・良心の自由(憲法第19条)については、それが内心にとどまる限り、その保障は絶対的であり一切の制約は許されないものと解されている。
 さらに、人権を規制する法令等が合理的な制約であるとして公共の福祉により正当化されるか否かを判断するにあたって、判例は、営業の自由等の経済的自由を規制する法令については、立法府の裁量を比較的広く認めるのに対し、精神的自由を規制する法令等の解釈については、厳格な基準を用いている。
 このように、憲法には、「公共の福祉」の内容を示す明文の規定はないものの、「公共の福祉」の概念は、各権利毎に、その権利に内在する性質を根拠に判例等により具体化されているから、「公共の福祉」の概念の下、国家権力により恣意的に人権が制約されることはあり得ない。
 確かに、B規約においては権利を制限できる事由が権利毎に個別的に定められているのに比して、我が憲法においては、条文の文言上は、「公共の福祉」により一般的に人権を制約することができる規定振りとなっている。しかしながら、右は単にその規定振りが異なるに過ぎず、制限の内容は、上記のとおり、「公共の福祉」の概念の具体化が図られることにより、実質的には、B規約による人権の制限事由の内容とほぼ同様なものとなっている。
 人権の制約が公共の福祉に基づくものとして許されるかどうかを判断するのに当たっては、各種の利益衡量が要求されるところ、右を判示した判例は、別添1のとおり。

本規約と憲法を含む国内法との関係

 憲法第98条第2項の趣旨から、我が国が締結した条約は国内法としての効力を持つ。なお、条約の規定を直接適用し得るか否かについては、当該規定の目的、内容及び文言等を勘案し、具体的場合に応じて判断すべきものとされている。B規約についても以上の考えと同様である。
 訴訟において原告側がB規約の条項を引用して争っている場合に、裁判所が国内の法律・規則・処分等の当該条項違反の有無を判示している例は、別添2に掲げるとおりであり、最高裁判所において法律・規則・処分等が規約違反とされたものはない。
 なお、憲法は我が国の最高法規であり、その効力はB規約の国内法的効力に優位するものと解されるが、上記のとおり、憲法による人権保障の範囲はB規約のそれとは、実質的にはほぼ同様なものであるから、両者の抵触の問題は生じないものと考えられる。

我が国の人権保障メカニズムの実態

(a)人権擁護機関による人権保障

 行政府にあって人権擁護を直接の目的としている人権擁護機関の仕組みは、第2回報告別添1.に記したとおりであるが、人権擁護機関による「人権相談」及び「人権侵犯事件の調査・処理」の具体的方法については、以下のとおり。
 なお、民間のボランティアである人権擁護委員の人数は、1996年1月1日現在、13,735名である。

(i)人権相談

 人権相談は、常設相談所(法務局、地方法務局において常時開設)や特別相談所(デパート等において臨時に開設)で行っている他、人権擁護委員が自宅においても行っている。相談を受けた法務局職員や人権擁護委員は、問題を解決するための適切な手続きを助言したり、人権侵犯事件の調査手続きに切り替えたり、その問題を取り扱う関係官公署を紹介するなど、相談内容に応じた援助を行っている。

(ii)人権侵犯事件の調査・処理

 人権侵犯事件の調査・処理にあたっては、まず、人権擁護機関が関係者からの申し出を受けたり、新聞等や官公署からの通報により人権侵害の疑いのある事実を知った時に、侵害事実の有無についての調査を行い、その結果、法令に違反した行為、または、それにとどまらず、広く憲法等の基本原則たる人権尊重の精神に反するような行為が認められた場合に、

(a)人権侵害を行ったと認められる者やその者を指導、監督する立場にある者に対して、
  • 刑事訴訟法の規定により告発する
  • 文書で人権侵犯の事実を摘示して必要な勧告を行う
  • その問題を取り扱う関係官公署に文書で人権侵犯の事実を通告する
  • 反省を促し善処を求めるため、口頭または文書で事理を説示する
(b)被害者に対し、関係官公署へ連絡を取り、法律扶助機関へ斡旋し、法律上の助言をする等の援助を行う
(c)関係者に対し、勧奨、斡旋その他人権侵犯を排除するための適切な措置を採る、
など事案に応じた適切な措置を採る。
 この人権侵犯事件の調査・処理は、その過程において、関係者に人権尊重の意識を啓発することにより、人権侵害の状態を自主的に排除させたり、既に人権侵害行為が行われてしまっているような場合には、将来の再発を防止させることによって、被害者の救済を図っている。人権侵犯事件の調査・処理が、受け入れられるか否かについては、最終的には当該人の意思に係ることになるが、同処理措置は、そもそも具体的権利の存否を公権的に確定したり、強制力によって侵害を排除することを目的としているものではなく、関係者に人権意識を啓発することにより、人権侵害を自主的に排除させたり、将来の再発を防止することを目的としているものである。人権擁護機関は、関係者に対して粘り強く啓発を行い、侵害の排除や再発の防止に役立っており、更に、一般社会に対しても啓発を行い、相応の効果を挙げている。

(iii)子どもの人権専門委員

 人権擁護機関では、従来から、「いじめ」、体罰、不登校児などの子どもの人権問題に積極的に取り組んできたところであるが、1994年度から、子どもをめぐる人権問題により適切に対処するため、人権擁護委員の中から子どもの人権問題を専門的に取り扱う「子どもの人権専門委員(子ども人権オンブズマン)」を指名する制度を設けた。1996年1月1日現在、全国で515名の「子どもの人権専門委員」が指名されており、次代を担う子どもの人権擁護をより一層積極的に推進していくため、子ども及びその保護者等を対象とした講演会、座談会等を開催するなど活発な活動を行っている。

(b)人権教育10年の取り組み

 1994年の第49回国連総会において、1995年から10年間を「人権教育のための国連10年」とする旨の決議が採択された。
 この「人権教育のための国連10年」に係る対策について、関係省庁が緊密に連携・協力し、政府一体となった取組を推進するため、1995年12月、閣議決定により「人権教育のための国連10年推進本部」を設置し、その後、関係省庁間で我が国としての取組について検討を行ってきた。1996年3月18日には、同推進本部の第1回会合を開催し、「人権教育のための国連10年」に係る取組を積極的に推進していくことを確認した。
 当面、人権についての教育・研修・啓発活動の推進などを内容とする国内行動計画を早急に策定し、「人権教育のための国連10年」に係る取組を積極的に推進することとしており、現在、関係省庁間で国内行動計画の内容等について検討中である。


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