冷戦終結後10年間が経過し、21世紀を目前に控えた今、国際的安全保障の枠組みは崩壊しつつあり、核の危険が憂慮すべき勢いで増大している。主要国間の関係は悪化している。国際連合は政治的、財政的危機のなかにある。核兵器その他の大量破壊兵器拡散防止のための国際体制も窮地に陥っている。テロ行為はますます懸念される方向に向かいつつあり、大量破壊兵器で武装したテロリストが現れる可能性もある。インド・パキスタンによる核実験は、核兵器の有用性が低下しつつあるという見方にすべての国が同意しているわけではないことを示した。これまでの数年間にわたる不断の努力にもかかわらず、大量破壊兵器の拡散を頑強に追求する国による秘密裏の大量破壊兵器計画は根絶されていない。米ロ間の核軍縮プロセスは停滞し、これが世界的な軍縮のアジェンダに悪影響を及ぼしている。アジアの状況はとくに流動的であり、今後数年間に核軍縮および核不拡散に好ましくない変化が生じる恐れがある。
このような危険な傾向を逆転させるため、すみやかに協調的な行動がとられなければ、核不拡散・核軍縮に関する諸条約は無意味な文書となろう。核不拡散・核軍縮に取り組む決意を新たにすることが緊急に求められている。われわれ東京フォーラムのメンバーは、増大する危険に対する注意を喚起し、かつ、これを是正するための緊急手段および長期的な行動を提言すべく、本報告書をここに公表する。
東京フォーラムは、その招集者であり、核不拡散・核軍縮の努力を継続する日本政府のイニシアティブを賞賛する。われわれは、核不拡散・核軍縮において、日本政府が積極的な役割を今後とも果たし続けることを希望し期待していることを表明する。
1. |
NPTの中核的合意を再び誓約することにより、NPT体制の弱体化を阻止し、修復せよ。
NPTは核軍縮と核不拡散を同時に追求している。核兵器国は核軍縮の具体的な進展を示さなければならず、これに対し非核兵器国は条約を堅持するため結集し、IAEAの強化された保障措置を受け入れる等の方法によって、より強い措置をとらなければならない。条約の中核的な合意を堅持するためには、条約不遵守の問題に対応し、NPTを強化する措置を検討するための協議委員会と常設事務局が創設されるべきである。 |
2. |
段階的削減を通じて核兵器を廃絶せよ。
世界は、拡散という確実な危険に直面するか、それとも軍縮に挑戦するかの選択に直面している。よりよい選択は、核兵器の段階的削減とその完全な廃絶である。広島、長崎が体験した核兵器による破壊およびその影響からの回復における苦難は、他のいかなる都市にも経験させてはならない。核兵器国は、核廃絶の目標を改めて確認し、この目的の実現に向けて持続的、かつ具体的な措置を講じなければならない。 |
3. |
核実験禁止条約の発効を実現せよ。
CTBTは、まだ条約を批准していない次の重要な国々-米国、ロシア、中国、インド、パキスタン、北朝鮮およびイスラエル-によって緊急に批准されなければならない。すべての国は核実験停止のモラトリアムを尊重し、条約の検証制度に要する費用を公平に負担しなければならない。 |
4. |
STARTプロセスを再活性化させ、核兵器削減の対象を拡大せよ。
東京フォーラムは、米国およびロシアに対して、核兵器削減と安全保障に関する新たな包括的交渉を開始し、START IIとSTART IIIのプロセスを一体化させ、配備された戦略核弾頭数を1000発までさらに削減することを要請する。もしこれらの条約が停滞し続ける場合には、両国が同時並行的に検証可能な方法で核弾頭数をこの水準にまで削減することを要請する。検証可能な方法による削減と廃絶には、未配備の戦略核兵器と戦術核兵器も含められるべきである。さらに、東京フォーラムは、中国が、英仏がとった保有核兵器の削減と、少なくともこれを増加させないという措置に加わることを求める。 |
5. |
核についての透明性を高める措置を採用せよ。
核戦力の不可逆的な削減を実現するためには、より高い透明性が必要である。東京フォーラムは、核兵器国がこれまで実施してきた透明性措置を歓迎し、これらの国がさらに透明性を高めることを求める。最近、英仏がとった透明性措置は、両国の核兵器保有数量と貯蔵量を相当明らかにしてきた。これらの措置は、さらに発展させることが可能であろう。米国は、核ドクトリン、核配備および核関連技術開発に関して多くの透明性措置を導入している。その貯蔵量に関するより多くの情報は核軍縮に向けての措置によい影響を与えるであろう。ロシアは、核兵器計画の一部を公表している。ロシアは、核ドクトリン、戦術核の数、および核分裂性物質の貯蔵量についてさらに透明性措置を高めることができよう。中国は、透明性措置をほとんどとっていない。核兵器の数量や種類、核分裂性物質の数量についての透明性をさらに高めることは、地域と世界によい影響を及ぼすので、奨励されるべきである。 |
6. |
すべての核兵器について即時警戒態勢を解除せよ。
東京フォーラムは、すべての核兵器国に対し、すべての核兵器について即時警戒態勢を解除することに合意し、これを実行することを要請する。この目的のため、米ロ両国がSTART IIにより削減される予定の核兵器について警戒態勢をただちに低下させることを求める。コンピューターの2000年問題によって核兵器が偶発的に発射される危険をなくすため、すべての核兵器国は、すべての核兵器について、この問題が懸念される期間中、警戒態勢を解除すべきである。 |
7. |
核分裂性物質を、とくにロシアにおいて管理せよ。
米国は、旧ソ連諸国における脅威削減努力に対する協力を継続し、増大すべきである。国際社会、とくにG8諸国とEUは、脅威削減努力に対する協力を大幅に拡大すべきである。カットオフ条約がすみやかに合意されることを求める。また、中国、インド、パキスタンおよびイスラエルに対しては、兵器用核分裂性物質の生産停止を宣言するよう求める。核兵器国は、余剰となったすべての兵器用核分裂性物質とすべての民生用核分裂性物質をIAEAの保障措置下におくべきである。 |
8. |
テロと大量破壊兵器に注意せよ。
東京フォーラムは、大量破壊兵器が過激・狂信・犯罪集団の手に渡るのを防止するため、地域的および国際的な協調努力を行うことを求める。 |
9. |
ミサイル拡散に対する措置を強化せよ。
MTCRのガイドラインが強化される必要がある。われわれは、すべての国、とくに北朝鮮がこのガイドラインを尊重し、MTCRに参加することを求める。国際社会は、ミサイル拡散を規制し、これをむしろ巻き返すため、1987年のINF条約の条項を参考にして、国際的または地域的合意を形成する等の現実的方法を探求すべきである。拡大しつつあるミサイル拡散の問題に対応するために、関係国は特別な会合を開催すべきである。 |
10. |
ミサイル防衛の配備は慎重にせよ。
東京フォーラムは、ミサイル防衛の配備は不確実性と複雑さをもたらす可能性があると認識している。われわれは、弾道ミサイルがもたらす安全保障上の懸念を理解する一方で、先進的なミサイル防衛の配備を検討しているすべての国に対しては、その配備は、突出する核兵器を削減するための他の方法と整合性をとりつつ慎重に進めることを要請する。 |
11. |
南アジアにおける拡散を阻止し、巻き返しをせよ。
東京フォーラムは、インドおよびパキスタンに対し、短期的には、核実験停止モラトリアムを継続すること、CTBTを署名・批准すること、カットオフ条約の早期交渉を支持すること、核の危険の削減措置を採用して、これを適切に実施すること、ミサイル発射実験を中止すること、核とミサイルの関連輸出を規制する誓約を確認すること、挑発的行為を中止すること、およびカシミール問題を解決するための措置をとることを求める。長期的には、インドおよびパキスタンが非核兵器国としてNPTに加入することを強く促す。 |
12. |
中東における大量破壊兵器を廃絶せよ。
東京フォーラムは、平和な中東と大量破壊兵器のない中東という二つの主要目的の間に関連があると認識している。われわれは、アラブ・イスラエル和平プロセスの再活性化、イラクの大量破壊兵器に対する国連安保理の監督下での効果的な管理体制の再開、ミサイルとその発射実験計画の抑制、中東地域のすべての国による化学兵器禁止条約と生物兵器禁止条約の効果的かつ検証可能な実施、IAEAの強化された保障措置の実施、およびイスラエルが非核兵器国としてNPTに加入することを求める。 |
13. |
朝鮮半島における核とミサイルの危険を根絶せよ。
東京フォーラムは、朝鮮半島非核化の目標が可能なかぎりすみやかに実現できるよう、すべての関係国がその努力を倍加することを促す。われわれは、北朝鮮による黒鉛減速炉と関連施設の建設凍結が維持されるための、協調的な国際的努力を求める。北朝鮮における核兵器とミサイル関連のすべての活動は、大量破壊兵器搭載可能なミサイル技術の開発および売却を含め、中止されなければならない。われわれは、1994年の「合意された枠組み」の完全かつ効果的な実施を求めるとともに、北朝鮮によるIAEAの保障措置協定の完全な実施と、IAEAの強化された保障措置の遵守を求める。 |
14. |
拡散の支持につながる拒否権の行使は自粛せよ。
東京フォーラムは国連安保理に対し、大量破壊兵器の拡散は国際の平和と安全に対する脅威であると宣言する決議を採択するよう求める。安保理常任理事国は、拡散を防止する特別な責任を有する。われわれは、大量破壊兵器の使用、または使用の威嚇の対象となった国連加盟国を支援、または防衛する努力に対し、拒否権の行使を自制するよう求める。現在および将来の常任理事国は、不拡散についての模範となるべきである。 |
15. |
軍縮会議を再活性化せよ。
東京フォーラムは、軍縮会議が議事手続規則を改善し、作業計画を一新し、意義のある活動を実行することを求めるとともに、そうしないのであれば、活動を中止することを求める。全会一致規則は、恒常的な行きづまりをもたらしている。多国間条約の交渉の開始と終了について、全会一致が必要とされるべきではない。 |
16. |
軍縮の検証措置を強化せよ。
東京フォーラムは、効果的な検証措置が広範に採用されることを求める。核軍縮の検証の対象は、未配備の核兵器と核兵器の解体にも拡大されるべきである。BWCのために効果的な検証措置の議定書が合意されるべきであり、またCWCの検証体制を弱体化させている実施規則は撤回され、改善されるべきである。 |
17. |
核不拡散・核軍縮の違反に対して効果的な制裁メカニズムを構築せよ。
東京フォーラムは、核不拡散と核軍縮を求めるすべての国に対して、軍備管理条約の違反国は捕捉されるのみならず、重大な結果に直面することを周知させる諸協定の構築を、積極的に支持するよう求める。国際社会は違反国に対し、国連憲章第7章の適用の可能性を含めた広範なコンセンサスに基づき、一体となって決然と対応すべきである。効果的な条約遵守に対する国際社会の支持を確保し維持するためには、改革された権威のある安保理を含む、再活性化された国連が必要不可欠である。 |