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「児童の権利に関する条約批准10周年記念シンポジウム」
-概要と評価-

平成16年4月

1..概要

(1) 本年3月29日、外務省は国際連合児童基金(ユニセフ)との共催により、東京(国連大学)において「児童の権利に関する条約(以下、児童の権利条約)批准10周年記念シンポジウム」を開催した。今次シンポジウムは我が国の同条約批准10周年を記念するとともに、去る1月28日ジュネーヴで行われた我が国の第二回政府報告に対する児童の権利委員会による審査のフォローアップとして位置づけられる。特に児童の権利条約の意義や目的について一般の国民に広く周知するとともに、現在我が国で大きな社会問題となっている児童虐待、不登校、いじめ、少年犯罪などの問題について条約に基づき議論することを目的とした。

(2) シンポジウムは、石川薫外務省国際社会協力部長により開会された。まず、来賓代表として野田聖子衆議院議員が挨拶を行い、同議員が熱心に取り組んで来ている児童買春・児童ポルノ禁止法の改正につき、議員自身が本件に関心を持つようになった経緯について触れつつ、より実効性のある法律にすべく努力している旨述べた。また、マルタ・サントス=パイス・ユニセフ・イノチェンティ・リサーチ・センター所長(国連児童の権利委員会初代委員)が基調講演を行い、その中で条約批准10周年を記念してこのようなシンポジウムを開催した我が国政府のイニシアティブを評価すると共に、先進国、途上国を問わず児童は社会の重要な構成員であり、無視されるべき存在ではないとして児童の権利及び福祉の国際的規範である同条約の一層の実施を訴えた。特に、他の多くの先進国が設立している児童の権利の保護・促進を包括的に管轄するオンブズマンの設立を主張した。

(3) 今次シンポジウムでは、「児童の権利条約の意義及び目的」「家庭における『児童の権利』」「学校における『児童の権利』」「社会における『児童の権利』」の4つのパネルを設け、国内外のパネリストがコーディネーターの司会進行の下、活発に議論を行った(概要以下のとおり)。

(イ) パネル1「児童の権利条約の意義及び目的」(コーディネーター:有馬真喜子氏)

(丸谷佳織衆院議員)
子どもは自らの環境を変えることが困難なため、大人たちがそれら子どもの意思を汲み取り成長しやすい環境を作ることが必要である。
日本の政治家は日本における児童の権利の擁護・促進により熱心に取り組むべきであり、縦割りの行政を円滑に調整する観点からも子ども担当大臣を設置すべきである。

(平野裕二ARC(子どもの権利のための行動)代表)
児童の権利条約に記されている児童の意見表明権などの諸規定を広く推進する「権利に基づいたアプローチ」を行政の各方面で実施すべきである。
川崎市などの地方自治体などはこうしたアプローチが取り入れられ、オンブズマン制度や児童の権利に関する条例の施行などが進められている点は喜ばしい進展である。

(サントス=パイス所長)
条約の広報は児童が条約の精神を理解する上で重要。それは、民主主義の価値観を育むこと、つまり、大人になった際に社会の構成員としての責任感を育むからである。その上で学校での人権教育の役割は重要である。

(ロ) パネル2「家庭における『児童の権利』」(コーディネーター:大久保真紀朝日新聞編集委員)

(高橋重宏日本社会事業大学教授)
15年前にカナダで研究生活を送っていた時にカナダではソーシャルワーカーの目的は人権を最もよく確保することにあると聞き驚いた覚えがある。
日本では長らく子どもは親の付属物としての見方であったが、93年の厚生省(当時)の児童の意見の尊重についての見解、97年の体罰を許容する法律の改正などを経て、漸く日本でも人権を重視する認識が生まれつつあるのは喜ばしい。
児童の権利条約は児童虐待問題を表面化させたとの意味で意義深い。この条約の制定後初めて日本政府は児童虐待の統計をとりはじめ、2003年では24000件を超えた。今後より一層の努力を行う必要がある。

(安藤由紀PEACE(児童虐待の被害者を支援するNGO)代表)
親が忙しすぎること、こうした親を支援する政策が十分でないことが児童虐待の急増に繋がっており、子育てを支援する政策を拡充する必要がある。
子どもをありのままに受け止め、その存在を祝福することが、子どもに対する愛情表現として必要である。

 その他、児童養護施設で生活する児童の劣悪な環境について議論が及び、より多くの専門家を養護施設に配置するなどの配慮をすべきであるとの問題提起がなされた。その後の質疑応答では、小宮山洋子衆議院議員より、児童虐待防止法や出会い系サイトへのアクセス規制法は、児童の権利保護に関心がない人間により作成されたため、不備がある。今後こうした不備を正すために働きかけを強める必要がある旨意見表明があった。

(ハ) パネル3「学校における『児童の権利』」(コーディネーター:浦元義照ユニセフ駐日事務所代表)

(トロンド・ワーゲ・ノルウェー子どもオンブズマン代表)
(ノルウェーにおける反いじめキャンペーンについて資料を用いつつ、)言葉だけでなく具体的な行動を執るべきである。
教師は傍観者ではなく、確固たるリーダーシップを以て問題の解決にあたるべし。
いじめを許容する学校の文化を変えること、いじめの被害にあった児童をケアし、その自尊心を回復させることも重要。

(中村国生東京シューレ事務局長)
政府は、教育を受ける権利について、児童に対しより幅広い選択肢を設けるべし。

(福田雅章一橋大学名誉教授)
親や教師が子どもを保護することは重要であるが、それらは子どもの健全な発達を阻害してはならない。

 その後の質疑応答では、参加者から、近年見られる成人式での新成人による騒ぎについてワーゲ氏の見解を求める質問があり、同氏は、近年の子どもは、昔に比べてより能力が高く、家庭でも一人の人間として扱われている、それが学校などでは軽視されたりするので個として認められたい欲求が暴走するのではと述べるところがあった。

(ニ) パネル4「社会における『児童の権利』」(コーディネーター:嘉治美佐子外務省人権人道課長)

(宮本潤子ECPAT/ストップ子ども買春の会共同代表)
条約の批准は児童の商業的性的搾取の分野での政府当局の責任を明らかにした上で意義があった。それに基づき1999年の児童買春・児童ポルノ禁止法が制定されることとなった、同法には被害者に対するケア及びリハビリを行うことが定められているが、現実にはそうしたメカニズムは未だ不十分である。

(津田玄児弁護士(日弁連子どもの権利委員会委員))
長年に亘る弁護士活動の中で、多くの非行少年と接してきたが、彼らの犯す犯罪の裏には必ず不遇な境遇や虐待などを受けた経緯があり、こうした側面に着目せずに彼らが犯した罪だけに注目するのは不十分である。

(トロンド・ワーゲ・ノルウェー子どもオンブズマン代表)(パネル3に続いて参加)
(同氏が代表を務めるノルウェー子どもオンブズマン・オフィスについて報告)同オフィスは、1981年に議会の承認により設置されたが、僅差での可決であった。その後、23年間に亘り、ノルウェーの児童の権利の保護と促進のためにオンブズマン・オフィスは様々な取り組みを行い、大きな成果を上げている。
現在では、25ヶ国で同様の組織が設立され、1997年には、自分が主催し、ヨーロッパ諸国のオンブズマン・オフィスのネットワークを立ち上げ、連携を図っている。

(4) 締めくくりとして、サントス=パイス所長より総括があった。
 児童に関する施策が本当に彼らの最善の利益を反映しているか考えなければならない。その際の拠り所となるのが児童の権利条約であり、こうしたアプローチこそが「権利に基づいたアプローチ」である。こうしたプロセスを国レベルだけでなく、地方レベルで進める必要がある。さらに、家庭や学校において、子どもが責任と自信を感じることが重要であり、そのためにはこれらの場が民主的な場にならなければならない。今次シンポジウムの開催につき再度賞賛したい。この批准10周年は新たな出発点であり、日本における児童の権利の保護・促進をより一層進めていく必要がある。

(5) これらのパネルと並行して、この条約を広く若い世代の人たちにも知ってもらう観点から、最近TVドラマで娘との関係構築に悩む父親役に初めて挑戦し、好評を得たタレントで俳優のくさなぎつよしさん(人気グループSMAPのメンバー)を特別ゲストとして招いた。くさなぎさんは、ファンであり、不登校となった少女との文通のやりとりを紹介しつつ、困難に直面しながら生き抜いている日本の子どもたちに対し激励のメッセージを送って頂いた。また、子を持つ親に対しても、「愛の反対語は無関心である。愛を持って子どもと接して欲しい、それこそが子を育む」などと訴えた。

(6) シンポジウムには学生、主婦など一般の参加者や国内NGO、学術関係者、外交団、国際機関関係者等のべ400名が出席し、パネリストらの議論を熱心に傍聴するとともに、質疑応答にも積極的に参加した。シンポジウムは、フランスのシャンソン歌手、イヴ・デュテイユ氏の歌「子どもの権利」が流される中で閉会した。

2.評価

(1) 本シンポジウムを、我が国の児童の権利条約批准10周年という節目に開催したことは、同条約の広報に大きく資するものであった。特に、同条約が日本のような先進国にとってどのような意義を持つかについて有識者による議論を行い、これを広く広報したことは、一般の人々の同条約への理解を深める上で大きく役に立ったと考える。

(2) 国会議員、ジャーナリスト、学術関係者、作家、国内NGOなど、多様なバックグラウンドを有し、長年児童の問題について各々の分野で携わってきており、現場で活躍しているパネリストが、我が国の実態について率直に意見表明を行い、議論を展開したことは、我が国が抱える問題を浮き彫りにする効果を持った。

(3) 我が国における児童を巡る諸問題の解決にあたっては、政府だけでなく、市民社会など各種アクターが一丸となって取り組まなければならないとの共通認識を得ることができた。こうした認識を踏まえ、外務省としても、各省庁とともに、政府としてより一層、同条約の実施に努めていく意向である。

(4) 本シンポジウムのような試みは、我が国の政府報告を受けて児童の権利委員会から勧告された「市民社会との連携強化」のモデルケースとして、元委員であるサントス=パイス氏から、児童の権利委員会に報告することも示唆されている。



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