(1) |
今回の訪日は、2002年12月に開催された類似のEU関係者の訪日に引き続いて行われたものと位置づけられる。前回訪日がICC規程発効直後(発効は同年7月1日)であり、国内においてICCそのものに対する全般的な関心はあったものの、当時はICCの活動がほとんど開始されていなかったこともあり、国内の関心はあくまでも一般的な内容にとどまっていた。これに対し、今回のEU及びICC関係者の訪日は、ICCが活動を開始して2年が経過し、実際にコンゴ民主共和国及びウガンダ北部における事態の捜査を開始していること等とも相俟って、ICCの具体的な活動及び将来の展望につき関心が高まっている時期に実施された。こうした点からも、今次訪日はきわめて時宜に適ったものであったと考えられる。また、ICC検察局からも幹部職員が訪日したことは、ICCにおける捜査の現状及びその体制につき、直接意見交換をできる機会を提供することになり、とくに有意義であった。
|
(2) |
政府関係者との意見交換においては、ICCの活動の現状に加え、各国関係者によるICCに対する評価など広範な論点につき議論が及んだ。また、わが国におけるICC規程の締結に向けた検討についてもEU及びICC関係者から多くの質問が寄せられ、日本のICC規程の早期締結に対し、各国の関心が引き続き高いことが伺われた。この点に関連して、現在政府部内で進められているICC規程の締結に関連した様々な法的論点につき、ICC規程の解釈や各国におけるICC規程締結に際しての国内法整備について、前回(2002年)よりも一層詳細かつ細部にわたる議論が進められた。こうした議論は、政府におけるICC規程締結に関する更なる検討に資するものであったと評価できる。
|
(3) |
研究者との意見交換においては、ICC関係者からは実務の観点からICCの活動の現状につき説明がなされた。また、EU各国関係者からも、実務においてICC規程の実施に際し、どのような点が問題となったかにつき紹介があり、いずれも学界関係者にとっては、実務家の実践的な関心を直接聴取できる機会となったと考えられる。また、研究者からはICCに対して、締約国が自国内における事態を付託した場合、ICCがどのようにして限られた人員や財源を用いて、実効的な捜査を進めていくのか、侵略の罪に関する今後の議論はどのように進められるのかといった詳細な論点が提起され、EU及びICCの関係者に対し、日本国内におけるICCに対する学術面での関心の高さも印象づけることとなったと思われる。
|
(4) |
ICCの現状及び将来につき議論した、一般向けのセミナーについては、一般参加者の募集期間は約2週間であったにもかかわらず、定員をはるかに上回る応募者があった。こうした多数の応募者もあり、セミナー会場(定員120名)は満員となり、ICCに対する国内の関心の高まりを伺わせる結果となった。
また、パネリストである日本の国会議員、研究者及びEU・ICC関係者との議論も活発に行われ、聴衆からの質問やコメントも加わった結果、ICCの現状及び各国の見解に対する理解を深める格好の機会になったと考える。とくに現在ICCにおいて何が起こっているか、各国がどのような考えに基づき協力しているか、さらには、ICCが実効的な国際司法機関として機能していく上で、どのような困難に直面し得るかといった、ICCに関する多面的な検討・議論を行うことができた。
なお、セミナーでは直接には触れられなかったが、訪日の際の各種の意見交換の際には、日本がICCに参加することの実質的な意義について、どのような形で広く一般に理解を求め、支持を得ていくかについては、説明方法及びその内容を含めさらに検討する必要があるとの見方が少なからず示された。とりわけ現下の厳しい財政状況の中で、新たな国際機関に加入することの積極的な意義をより説得的に説明する必要性があると考えられる。
|
(5) |
訪日したEU及びICC関係者も、今回の訪日プログラムについては充実したものであったと好意的な評価を寄せている。外務省としても、EU及びICC関係者に対して、日本におけるICC規程に関する検討状況及び国内の関心の所在等につき、より正確な認識を得る上で、有益な機会を提供できたと考えている。また、各種会合・意見交換に参加した関係者、セミナーに出席した一般関係者の評価も全般的に肯定的なものであった。
|
(6) |
今回の一連の会合の成果を踏まえ、今後さらに関係国内省庁の協力を得つつ、我が国のICC規程の締結に対する検討を一層促進する必要があると考えられる。
|