各論

1.アフリカ各国・地域情勢

(1)スーダン情勢

2009年も南北和平とダルフール情勢の双方について様々な展開が見られた。南北和平は、2010年4月の総選挙、2011年の南部独立を問う住民投票に向け、2005年の南北包括和平合意(CPA)履行の最終局面を迎えている。7月に、常設仲裁裁判所が、アビエ地域の境界線画定問題に関する判決を下し、南北双方がこれを受け入れた。6月には、2010年2月実施予定であった総選挙日程の同年4月への延期が発表されるなど、準備の遅れが懸念されたが、12月には有権者登録の結果が公表され、懸案だった南部住民投票法案も12月末に国民議会で可決された。南部における部族間衝突による治安悪化等の課題は残るものの、総じて2009年は和平プロセスが進展した1年となった。

ダルフールに関しては、ドーハ和平会合が2月に始動し、反政府勢力との協議が本格化している一方で、3月に、国際刑事裁判所(ICC)がバシール・スーダン大統領に対する逮捕状を発付し、これに反発したスーダン政府が、13の国際NGOを国外追放するなど、「和平」と「正義」の両立の問題が浮き彫りになっている。

国際社会はスーダンの和平支援を継続・強化しており、米国のオバマ新政権はスーダン担当特使を任命するなど和平仲介に積極的に乗り出している。日本は、元兵士の社会復帰支援(約16億円)等に加え、アフリカに対しては過去最大規模となる約10億円の総選挙支援を決定した。また、ドーハ和平会合への参加に加え、日本に招待した南北政府要人に対する和平働きかけなど積極的な貢献を行っている。

(2)「アフリカの角」情勢

2007年末の大統領選挙結果をめぐるケニアにおける混乱は、翌年の大連立政権発足により収束したが、国民融和は連立政権の主要課題となっている。ケニア政府は、引き続き、IDPの再定住、国内対立の遠因(えんいん)とされる土地制度改革、汚職対策、更には憲法改正等に取り組んでいるが、食糧価格の高騰や旱魃(かんばつ)による国民生活の逼迫(ひっぱく)といった問題も生じている。

ソマリアでは、1月に就任したシェイク・シャリフ・ソマリア暫定連邦「政府」(TFG)注1「大統領」らが和平推進に努めているものの、TFGに反対する武装勢力の攻勢により、不安定な状況が継続している。ソマリア沖における海賊事件も前年の約2倍となり、国際社会は、TFGの治安維持能力向上が差し迫った課題であるとの認識の下、支援を継続している。

国連PKOが2008年12月に完全撤退したエチオピア・エリトリア国境付近では、両国軍が対峙(じ)しており、依然として緊張状態にある。エリトリアに対しては、1月、ジブチ国境からの部隊の撤退を要求する国連安保理決議第1862号が、12月には、ソマリアの反TFG勢力に対する支援等の中止を求める決議第1907号が採択されたが、エリトリアはこれら決議に反発する姿勢を見せている。

岡田外務大臣(左)とアリ・ソマリア共和国「外相」との会談(2010年2月8日、東京)
岡田外務大臣(左)とアリ・ソマリア共和国「外相」との会談(2010年2月8日、東京)

(3)南部アフリカ諸国情勢

ジンバブエでは、与野党間の政治合意(GPA)に基づき、2月に主要三政党からなる包括的政府が発足し、政治情勢は一定の落ち着きを見せた。また、ハイパーインフレの発生等、経済は破綻(たん)していたが、複数外貨制(米ドル、南アフリカ・ランド等)の導入により物流が改善され、物価も安定した。

マダガスカルでは、3月にラジョリナ・アンタナナリボ市(首都)前市長を首班とする反政府勢力が軍の支持を受け、憲法に則(のっと)らない形で「暫定政府」を樹立した。国際社会が同国情勢の収拾に向け仲介を試みているものの、混乱は続いている。

南アフリカ共和国では、4月の総選挙で与党アフリカ民族会議(ANC)が絶対多数を獲得し、5月にズマANC総裁が大統領に就任した。そのほか、マラウイ(5月)、ボツワナ(10月)、モザンビーク(10月)、ナミビア(11月)において大統領選挙や国会議員選挙が実施され、大統領選挙ではそれぞれ現職の大統領が再選される結果となった。

(4)中部アフリカ諸国情勢

コンゴ民主共和国東部では、2008年8月末以降、反政府勢力の一派である人民防衛国民会議(CNDP)と政府軍等との間で武力衝突が発生していたが、国際社会による働きかけもあり、3月にCNDPと政府との間で和平合意が結ばれた。また、同地域における反政府武装勢力の存在をめぐり、対立してきたコンゴ民主共和国とルワンダとの間では、8月に首脳会談が行われ、関係正常化に向けた動きが見られた。ブルンジでは、1990年代の内戦以降の和平プロセスが終了し、2010年中には民主的な選挙が予定されている。このように、大湖地域においては依然として脆(ぜい)弱な状況は残るものの、全体として安定に向けた前向きな動きが見られている。ガボンでは、40年以上にわたり大統領を務めたオマール・ボンゴ大統領が6月に死去し、その後民主的な手続を経て息子のアリ・ボンゴ前国防相が10月に大統領に就任した。

(5)西部アフリカ諸国情勢

西アフリカでは、2008年以来、クーデターや大統領等の殺害など政治危機が頻発しているが、モーリタニア及びギニアビサウにおいて、7月に大統領選挙が行われ、政治的安定を回復した。コートジボワールでは、大統領選挙の実施が長年の懸案となっているが、選挙人登録の完了等投票に向け準備が進展した。一方、2008年末のクーデター以降、暫定軍事「政府」による統治が続くギニアでは、2009年中に予定された選挙は翌年に延期され、また、ニジェールでは従来禁止されていた大統領3選を可能とする新憲法が8月の国民投票で採択・公布され、国際社会の非難を招くなど、依然不安定な情勢が続いている。

(6)地域機関・準地域機関との協力

アフリカ53か国・地域が加盟する世界最大の地域機関であるAUは、ダルフール地域やソマリアへ平和維持部隊を派遣しているほか、ギニアやマダガスカル等での政治的混乱に際して積極的に調停活動を行うなど、平和・安全保障分野で果たしている役割には目覚ましいものがある。さらに、最近では開発分野でも役割を増しており、日本としても、存在感・役割を増加させているAUとの関係強化に努めている。

また、アフリカの地域経済共同体(RECs)も地域統合及び地域の平和と安定の維持に積極的に取り組んでおり、重要性を増している。12月、日本はギニア等の問題対処に主導的な役割を果たしている西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)・及び地域経済統合を推進する東南部アフリカ市場共同体(COMESA)に対する常駐代表注2を任命した。

ピン・アフリカ連合(AU)委員長との会談に臨む福山外務副大臣(中央)(2010年1月29日、エチオピア)
ピン・アフリカ連合(AU)委員長との会談に臨む福山外務副大臣(中央)(2010年1月29日、エチオピア)
アフリカにおける主要紛争地域の動向(2009年12月現在)
アフリカにおける主要紛争地域の動向(2009年12月現在)

(注1)2009年末時点で、日本はソマリア、ギニア、マダガスカルに対する政府承認を行っていないため、本文中では「」で示している。

(注2)植澤利次駐ナイジェリア大使、三田村秀人駐ザンビア大使がそれぞれ兼任。