各論

1.中南米地域情勢

(1)中南米政治情勢

2009年の幕開けとともに発足した、オバマ米国新政権は、中南米への積極的関与政策への回帰を打ち出し、4月に開催された米州サミットにおいては、相互尊敬及び共通の利益と価値観に基づいて対等なパートナーシップを築きたいと表明し、世界経済・金融危機への対応や治安対策などの、中南米が抱える課題の解決に向けたリーダーシップを発揮する姿勢を見せた。

6月に中米のホンジュラスでクーデターが発生した。米国、米州機構(OAS)を始めとする各国・機関の仲介努力により、一旦は合意が成立し、11月には大統領選挙が行われた。しかし、事態は正常化しておらず、ホンジュラスの政情の安定化への努力が継続されている。

一方、エルサルバドル(3月)、パナマ(5月)、ウルグアイ(10月)、ボリビア(12月)、チリ(2010年1月)、コスタリカ(2月)などにおいて大統領選挙が行われた。選挙が実施されたいずれの国においても、大きな混乱が生じることなく新政権の下で政権運営が行われており、民主主義が定着している。

地域統合の動向
地域統合の動向

(2)中南米経済情勢

2009年は、リーマン・ショック後深刻化した世界経済・金融危機が本格的に実体経済に影響を及ぼした年でもあった。特に、メキシコ等の中米諸国など米国経済への依存が高い国においては、輸出、海外直接投資、移民からの海外送金が減少するなど深刻な影響が生じた。それでも、地域全体としては、過去の経済危機の経験や近年続いてきた経済成長などによって、比較的潤沢な外貨準備、健全な経常収支等を維持してきたこともあり、経済危機の影響が深刻化するのを免れており、今後の回復と成長が期待できる。特に、ブラジルは高速鉄道等の大型インフラ整備を進めており、また、2014年のサッカー・ワールドカップ、そして2016年のオリンピック開催による好景気が見込まれる中で、内需主導型経済構造を生かした今後の高度成長が期待されている。

さらに、中南米は、世界でも有数の食料供給地域であり、銀、銅、亜鉛、鉄鉱石等の鉱物資源や、電気自動車などの電池用として今後大幅な需要増が見込まれるリチウムを始めとするレアメタルの主要産地でもある。一次産品価格の変動の影響や、一部の国における資源の国家管理強化の動きはあるが、中長期的には、経済発展の潜在力は高い。