目次 | 前の項目に戻る |  次の項目へ進む

【各論】


 1.

アフリカ各国情勢


 (1) 

スーダン情勢


4年目を迎えた南北スーダン和平プロセスは、スケジュールの遅延は見られるものの、アビエ地域の帰属問題の解決に向けた動きなど着実な進展が見られた。その一方で、ダルフール情勢は、治安・人道状況が一向に回復せず、5月には反政府勢力の一派(正義と平等運動:JEM)が首都近郊に侵攻するなど、依然として不安定である。また、7月には国際刑事裁判所(ICC)検察官によるバシール大統領の逮捕状請求により、ダルフールにおける「和平」と「正義」の両立という新たな難題が浮上している。

日本はスーダンにおける平和の定着支援を積極的に展開している。具体的には5月に2億米ドルの追加支援を発表し現在実施中であるほか、TICAD IVの際には地域の安定に向けた取組として、スーダン及び周辺国の閣僚等を招き、「北東アフリカ地域連携・協力会議」を開催した。さらに、10月から国連スーダン・ミッション(UNMIS)司令部に自衛官2名を派遣している。また、バシール大統領の来日(5月)等、要人往来の機会をとらえて、南北和平合意の履行促進とダルフール情勢の改善についてスーダン側に働き掛けを行っている。


写真・第3回スーダン・コンソーシアム会合で共同議長を務める中山外務大臣政務官

第3回スーダン・コンソーシアム会合で共同議長を務める中山外務大臣政務官(5月6日、ノルウェー・オスロ)



 (2) 

東部アフリカ諸国情勢


ケニアにおける2007年末の大統領選挙結果をめぐる対立は、多数の死傷者を伴う暴動に発展した。2008年以降の大連立政権樹立に向けた動きの中で混乱は収束したが、国内避難民の再定住や国民融和等が課題である。

ソマリアでは、8月に「暫定連邦政府」と「ソマリア再解放連盟の穏健派グループ」が和平等を定めたジブチ合意に署名したが、和平の見通しは依然として不透明である。また、ソマリア沖では海賊による船舶の拘束・武装強盗事件が相次いだ。

エチオピア・エリトリア国境問題は、2007年11月末の国境委員会による国境の確定に関する決定の効力をめぐり両国の見解に相違があり、事態打開には至っていない。7月に決定された両国国境地帯に展開していた国連PKO(国連エチオピア・エリトリアミッション:UNMEE)の撤退が漸次進む中で国境地帯は不安定な状況である。

6月、エリトリア・ジブチ国境において両国軍の武力衝突が発生した。国連安保理は2009年1月、エリトリアに対し係争地からの撤退を要求する決議第1862号を採択した。


写真・ロマノ・キオメ・ケニア農業次官との共同記者記者会見に臨む小野寺外務副大臣

ロマノ・キオメ・ケニア農業次官(左)との共同記者記者会見に臨む小野寺外務副大臣(右)(3月18日、ケニア・ナイロビ)



 (3) 

南部アフリカ諸国情勢


ジンバブエでは、3月の大統領選挙を含む総選挙、6月の大統領決選投票強行という流れの中、野党や反政府勢力へのムガベ政権側からの激しい政治的暴力が続き、国内経済も崩壊状況に至るなど、大きな混乱に直面した。9月には与野党間で閣僚ポスト等を分配する合意に達したが、その後、交渉は決裂した。

9月、南アフリカ共和国では、与党アフリカ民族会議(ANC)の内部対立が引き金となり、任期満了前にムベキ大統領が辞任に追い込まれた。その後、同前大統領の支持者が新党を結成し、2009年の総選挙に向けて内政動向が注目を集めている。

スワジランドでは、9月に新憲法発効後初の下院総選挙が、アンゴラでは9月に内戦終了後初の国会議員選挙が、ザンビアでは、10月にムワナワサ大統領死去に伴う大統領補欠選挙が、総じて平穏に実施された。



 (4) 

中部アフリカ諸国情勢


従来、反政府勢力が活動していたコンゴ民主共和国東部では、1月に紛争当事者間で即時停戦合意(ゴマ合意)が締結されたが、8月末に反政府武装勢力の一派(CNDP)が武力侵攻を行うなど、依然として流動的な情勢が続いている。日本は、12月に約700万米ドルの緊急人道支援を実施するとともに、御法川信英外務大臣政務官を派遣し紛争の政治的解決を働き掛けた。また、チャド、スーダン、中央アフリカの国境地帯は、ダルフール情勢の影響を受けて引き続き劣悪な治安・人道状況にある。


アフリカにおける主な紛争(2008年12月現在)


アフリカにおける主な紛争(2008年12月現在)


 (5) 

西部アフリカ諸国情勢


リベリアやシエラレオネでは、1990年代の紛争状態からの復興が着実に進行し、ガーナでは12月及び2009年1月に大統領選挙がおおむね自由、公正かつ平穏に行われ、野党のミルズ候補が選出され平和裡に政権交代が行われるなど、政治的安定を示す動きが見られた。その一方で、11月に予定されていたコートジボワールの大統領選挙は具体的な選挙日程を設定することなく再延期となったほか、8月にはモーリタニアでクーデターが発生し軍部が実権を掌握した。さらに、11月にはギニアビサウで一部国軍兵士による大統領邸襲撃事件、12月にはギニアでもクーデターが発生するなど、西アフリカでは政治的安定と不安定が混在している。



 (6) 

地域機関との協力


アフリカ連合(AU)は地域協力の中心としてその存在感を増している。特に平和・安全保障分野においては、AUソマリアミッション(AMISOM)やダルフール国連・AU合同ミッション(UNAMID)を派遣しているほか、クーデターが発生した加盟国のAUへの参加資格を停止するなど政治的影響力も拡大している注3。日本はAUとの関係強化に努めており、1月に開催された第10回AU総会には森政府代表が参加したほか、TICAD IV及びG8北海道洞爺湖サミットにはピンAU委員長が参加した。

さらに、準地域的な経済統合や平和・安全保障への取組の中心である「地域経済共同体(RECs)」の重要性も増している。2008年、日本は南部アフリカ開発共同体(SADC)に対する常駐代表を任命した注4



(注3) 2008年8月のモーリタニア及び12月のギニアでのクーデター発生を受け、AUはこれを非難し、憲法秩序が回復されるまで同国の議席を停止する旨発表した。
(注4) 松山良一駐ボツワナ大使が兼任。

テキスト形式のファイルはこちら

▲このページの上へ