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【各論】


 1.

海外における危険と日本人の安全


海外において日本人が遭遇する危険は多様性を増している。具体的には、テロ・誘拐及び政変・紛争の脅威や、地震・津波・ハリケーンなどの自然災害による被害、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)等新種の感染症の発生などが挙げられる。

さらに、日本人が麻薬犯罪や国際詐欺等に巻き込まれる事例や、渡航先の国・地域によって気候、文化、宗教などが異なることにより、日本では許容される行動でも現地の法令や慣習に反することになり、思わぬ犯罪や事故につながるケースが報告されている。こうした危険を回避し、海外における日本人の行動を支えるための安全の確保及び支援はますます重要な課題となっている。



 (1) 

2007年における海外の脅威の動向


海外におけるテロ・感染症の脅威や、自然災害による被害といった事態は2007年においても引き続き増大している。アフガニスタン及びモルディブでの爆弾テロに日本人が巻き込まれ負傷したほか、英国における爆発物積載車両の空港施設突入事件等テロの脅威は国際的広がりを見せ、脅威は依然として高い。感染症については、デング熱、コレラ等に加え、鳥インフルエンザの感染者数及び発生地域は拡大を見せている。12月には中国において、鳥インフルエンザがヒトからヒトへ感染した疑いのある例が発生するなど、新型インフルエンザの出現が大きな脅威になりつつある。誘拐については、パラグアイ及びイランで日本人が被害に遭ったほか、中東、アフリカ、中南米において、外国人を含む多くの誘拐事件が報道された。自然災害については、2004年12月のスマトラ島沖大地震及びインド洋津波による被害の悲惨さはいまだ記憶に新しいところであるが、2007年においても自然災害の脅威は継続している。地震・津波のみならず、ハリケーン、サイクロンあるいは集中豪雨による洪水、また、異常乾燥を原因とする広範囲かつ長期間に及ぶ山林火災など、災害の形態も変容しており、従来の災害経験の想定を上回る被害が世界各地で発生している。

このほか、麻薬犯罪に対する国際的取締りの強化に伴い、麻薬犯罪の重刑化が進められ、8月及び11月には、中国において、日本人3人が麻薬密輸による死刑判決を受けた。このほかにも、犯意の有無にかかわらず、麻薬密輸への関与、また麻薬所持の容疑で日本人が拘留される事案が発生している。日本国民を対象とする国際詐欺(通称「419詐欺」)は、アフリカにとどまらず地域的に拡大しており、10月以降、タイを主要な舞台として、商談を装う国際貿易詐欺による日本企業の被害が報告された。

さらに、近年、高齢者の海外渡航及び中長期滞在が増加する中、海外における高齢者の山岳事故、海難事故やこれら事故に伴う疾病が多く報告されており、海外渡航に際する高齢者の健康管理及び海外旅行保険への加入が非常に重要になっている。


2006年の海外邦人援護件数の事件別・地域別内訳

2006年の海外邦人援護件数の事件別・地域別内訳

援護件数の多い在外公館上位20公館(2006年)

順位 在外公館名 件数
 1    在タイ日本国大使館 1,658件  
 2    在フィリピン日本国大使館 1,017件  
 3    在上海日本国総領事館 940件  
 4    在ロサンゼルス日本国総領事館 838件  
 5    在英国日本国大使館 806件  
 6    在フランス日本国大使館 612件  
 7    在大韓民国日本国大使館 531件  
 8    在イタリア日本国大使館 429件  
 9    在広州日本国総領事館 427件  
 9    在ニューヨーク日本国総領事館 427件  
 11    在サンフランシスコ日本国総領事館 415件  
 12    在中華人民共和国日本国大使館 403件  
 13    在ミラノ日本国総領事館 343件  
 14    在バルセロナ日本国総領事館 342件  
 15    在シドニー日本国総領事館 312件  
 16    在香港日本国総領事館 242件  
 17    在ホノルル日本国総領事館 223件  
 18    在デュッセルドルフ日本国総領事館 217件  
 19    在デンマーク日本国大使館 212件  
 20    在バンクーバー日本国総領事館 208件  


 (2) 

海外における日本人の安全対策


このように、海外における危険が多様化・深刻化する中で、海外に永住・長期滞在する日本人は2005年に100万人を超え、また、日本人海外渡航者は2001年の米国同時多発テロを受けて一時減少していたが、2006年には約1,750万人と史上2番目の人数に増加している。なお、2007年の日本人海外渡航者は約1,730万人と若干の減少が見込まれている中で、60歳以上の高齢者の海外渡航は伸びを示している。

これに対し、2006年において在外公館が取り扱った邦人援護案件は、件数で1万6,523件、人数では1万8,771人となり、過去10年間で見ると、海外渡航者数が約4%の増加にとどまっているのに対し、邦人援護件数は人数で約22%、件数では約33%増加しており、海外における日本人の安全対策には、在外公館の体制強化とともに、渡航者一人ひとりの危機管理意識の強化を含め、より一層の取組が必要となっている。

また、10月に実施された内閣府「外交に関する世論調査」において、海外における日本人の安全確保や支援について、回答者の過半数(約54%)が政府の責任による保護・支援が必要と感じている。その一方で、約43%の回答者はできるだけ個人または派遣元企業・団体で対応すべきであり、できないところは政府が支援すべきと回答しており、海外の日本人の安全確保には、官民相互の連携による取組が必要となっている。

外務省では、こうした国民の要請にこたえ、海外における邦人援護をより効果的・効率的に行うため、外務省が主体となって官民のセーフティネットの構築及び連携を図っている。具体的には、日本国内及び海外において海外の安全対策に関する官民の連絡協議会等を開催し、在外公館及び現地日本人関係団体や企業・個人の代表等との間で、海外における日本人の安全対策に関する情報共有や意見交換を行うことに加え、効果的な邦人保護の実現のための現地日本人団体等とのネットワークの構築・連携の必要性について協議を継続している。

このほか、国民一人ひとりが海外において危険を回避するための安全対策を講じられるよう、海外安全ホームページ、海外安全情報FAXサービス、最新渡航情報メール等を通じて、海外における具体的危険の傾向及び対策に関する渡航情報を提供している。また、国民の海外での活動に応じてきめ細やかに対応し得るよう、総合的な安全対策をとりまとめた「海外安全虎(とら)の巻」のほか、テロ対策、脅迫事件対策、誘拐対策等各種の想定される事案ごとに作成したパンフレットを提供するとともに、外務省海外安全相談センターを設置し、国民からの直接の相談に応じている。

外務省では、こうした安全対策上の取組及び安全対策の必要性を集中して広報するために、毎年「海外安全キャンペーン」を展開しており、2007年においては年末年始及び春季の旅行シーズンにあわせ、11月1日から12月31日まで、幅広い年齢層の国民に愛される「鉄腕アトム」を海外安全大使として「海外安全キャンペーン」を実施した。

さらに、海外における安全対策を講じた場合であっても、完全に危難を回避することは困難であることから、国民が海外において不測の事態に遭遇した際に、即時、機動的に海外の日本人を援護できるような体制をとり得るよう、在外公館の体制の整備・強化を進めている。具体的には、国民からの緊急連絡に24時間対応し得る体制をはじめ、全米・カナダ地域における邦人安否確認システム(注1)の効果的運用、緊急情報通報システムの構築、機動的な展開を可能とするための外部専門家を含めた人員・資機材等の整備を進めている。


「渡航情報」の体系及び概要

「渡航情報」の体系及び概要

海外安全ホームページ(http://www.anzen.mofa.go.jp

海外安全ホームページ[1]

海外安全ホームページ[2]

写真・海外安全キャンペーンのイメージキャラクターである海外安全大使の鉄腕アトムと木村外務副大臣

海外安全キャンペーンのイメージキャラクターである海外安全大使の鉄腕アトムと木村外務副大臣


写真・2007年度海外安全キャンペーンポスター

2007年度海外安全キャンペーンポスター



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(注1) 海外版災害伝言ダイヤルとして、2006年9月に全米(ハワイ、グアム、サイパン、プエルトリコ、米領バージン諸島を含む)及びカナダ地域を対象に運用を開始。全米・カナダ地域における大規模災害発生時に専用電話番号への音声メッセージ登録を通じて、日本人被災者及び家族等との間で安否確認ができるシステム。

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