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湾岸諸国 |
サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国は、外交面では、GCCの結束、アラブ・イスラム諸国との連帯を主要な柱としているが、現実的には、域内におけるイランの影響力の拡大、イラクの不安定な情勢等を背景に、安全保障を含め米国との関係を重視してきている。
継続的な原油価格の高騰、金融分野の成長等を背景に湾岸富裕国の経済的地位は高まっており、特に、いわゆる政府系ファンドによる投資活動が活発化する中で、湾岸諸国の海外への投資は大きな経済的影響力を有している。12月に行われたGCC首脳会議においても、各国通貨の米ドルペッグ制の維持等の金融政策に関する議論が注目を集めた。一方で、石油・天然ガス輸出に過度に依存し、労働力の多くを外国人労働者に依存するという経済構造は大きく変化していない。若年層の失業問題は依然として深刻な社会問題であり、各国とも若年層の雇用対策に力を入れている。自国民労働力の能力向上と経済の自国民化の推進が引き続き共通の課題となっている。
治安問題については、大きなテロ事件の発生は見られなかったものの、2月にはサウジアラビアのメディナ近郊でフランス人観光客4名が殺害される事件が発生した。また、GCC諸国に隣接するイエメンでは7月、マアリブ州の観光地にてアル・カーイダ関連分子による自動車爆弾自爆テロによりスペイン人観光客7名が死亡する事件が発生した。湾岸諸国全体で、潜在的なテロの脅威は継続していると見られる。
外交面では、パレスチナ内部の対立解消のためのメッカにおける緊急会議開催(挙国一致内閣樹立を目指す「メッカ合意」成立)(2月)、アラブ連盟首脳会議のリヤド開催(3月)、レバノン情勢等を巡ってのイランとの頻繁な政府高官レベルの接触等、サウジアラビアの積極外交が目を引いた。イランの核問題に関連して地域が不安定化することが危惧される中で、アフマディネジャード大統領が3月、11月(石油輸出国機構(OPEC)総会)、12月(巡礼)にサウジアラビアを訪問したほか、5月にはアラブ首長国連邦(UAE)、オマーンを、11月にはバーレーンを訪問し、12月にはカタールで開催されたGCC首脳会議で演説する等、イランと湾岸諸国との要人往来・善隣外交が活発化した。
日本との関係については、安倍総理大臣が、4月から5月にかけて、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタールを訪問し、各訪問国との間でエネルギー分野に限らない重層的パートナーシップの構築を表明する共同声明を発表した。12月には、ムハンマドUAEアブダビ首長国皇太子殿下が公式訪日した。
経済面では、貿易・投資分野での関係緊密化を背景に、日本とGCC間の自由貿易協定(FTA)交渉が2006年9月から行われているほか、サウジアラビアとの投資協定交渉、UAE及びクウェートとの租税条約交渉など、更なる関係強化のための具体的取組が活発化している。
また、UAEとの間では、12月に日・UAE合同経済委員会の第1回会合が行われ、高村外務大臣、甘利経済産業大臣、アブダッラー外相が参加し、投資・エネルギー分野で関係強化を図っていくことで一致した。カタールとの間でも、2006年に創設された合同経済委員会の第2回会合(閣僚級)が11月に開催され、投資協定交渉を開始することが確認された。