4. |
イラン |
国内では、2005年に成立した強硬保守派のアフマディネジャード政権が、地方及び貧困層と、支持基盤である革命防衛隊等への裨益(ひえき)を重視した経済政策を継続している。また、政府要職への支持勢力の登用など体制内の基盤強化も進めている。しかし、インフレや失業率の上昇、ガソリンの割当制の導入、核問題に端を発すると見られる海外企業の投資の減少等の影響から、国民の間にはアフマディネジャード政権への不満も出てきており、特に、2007年9月の専門家会議議長選挙で議長に選出されたラフサンジャニ公益評議会議長やハタミ前大統領を中心とするグループとの対立が顕在化している。10月には核交渉責任者のラリジャニ国家安全保障最高評議会書記が辞任するなど、政権内部の対立も見られる。このような中、ハメネイ最高指導者は、アフマディネジャード大統領への支持を表明しつつ、対立する勢力にも配慮する姿勢も見せており、2008年3月の国会議員選挙に向けた各勢力の動向が注目される。
外交面では、引き続き核問題が国際社会の注目を集めた。2006年12月、濃縮関連・再処理活動及び重水関連の拡散上機微な核活動に関連する物資、人、資金に関する措置を含む国連安保理決議第1737号が採択され、さらに2007年3月に資産凍結対象等の追加や武器等の取引に措置対象を拡大する措置を含む国連安保理決議第1747号が採択された。しかし、イランは、これらの決議の履行期限(それぞれ2月21日、5月23日)を過ぎても前向きな対応を示さず、その間、4月にアフマディネジャード大統領は産業規模の核燃料製造を宣言した。その後、EU3(英・仏・独)+3(米・露・中)の代表を務めるソラナEU共通外交・安全保障政策(CFSP)上級代表及び国際原子力機関(IAEA)とイラン側の交渉が続けられ、また、IAEAとイランは核問題に関する未解決の問題解決のための「作業計画」を発表した。8月末、同計画を添付しつつ、イランが国連安保理決議の要求に反し濃縮関連活動等を停止していない旨明記したIAEA事務局長報告が発出された。また、9月に開催されたEU3+3外相会合において、11月のソラナCFSP上級代表及びIAEA事務局長の報告が肯定的な成果を示さない限り、更なる国連安保理決議のテキストを完成させることにつき合意した。10月から11月にかけて、ソラナCFSP上級代表とイラン側の協議が行われたが、イラン側から前向きな対応は示されず、また11月には、未解決の問題解決に向けた一定の進展に言及しつつも、イランが国連安保理決議の要求事項を遵守していない旨明記したIAEA事務局長報告が発出された。このような動きを受け、次の国連安保理決議採択に向けた協議が継続された。また、12月、米国は、「イラン政府の指示の下で軍部が核兵器開発を行っていたが2003年秋以降同開発を停止した。しかし、イランは少なくとも核兵器を開発する選択肢を維持し続けている。」との評価を記した国家情報評価書(NIE)を公表した。
イランは、近隣・イスラム・NAM(非同盟運動)諸国等との関係拡大を優先政策として掲げ、9月のNAM閣僚会合や10月のカスピ海沿岸諸国首脳会合を開催し、また12月の湾岸協力理事会(GCC)首脳会議(於:ドーハ)にはイラン大統領として初めてアフマディネジャード大統領が出席した。また、5月から、バグダッドにおいて、イラン革命後初の米国との公式な直接対話となるイラク問題に関する協議が開始された。
日本は、中東地域の大国であるイランが同地域や国際社会の平和と安定のために一層建設的な役割を果たすよう、同国との伝統的な友好関係に基づき活発な働きかけを行ってきている。特に、核問題については、日本は、国際的な核不拡散体制を堅持する必要があるとの立場から、累次の外相会談や次官級、軍縮・不拡散、人権、領事等の種々のレベル・分野における二国間対話などの機会を通じて、イランが濃縮関連・再処理活動等を停止し、交渉のテーブルにつくよう働きかけている。
イランの核問題を巡るクロノロジー
2002年 8月 | イラン反体制派組織が、イランによる秘密裏の核施設建設を公表。 |
2003年 2月 | エルバラダイ国際原子力機関(IAEA)事務局長がイランを訪問。以後、IAEAが検証活動を継続的に実施。 |
9月 | IAEA理事会は、イランに対し、IAEAとの協力、追加議定書の署名・批准、ウラン濃縮関連・再処理活動の停止等を求める決議を採択。 |
10月 | イランは、IAEAに対し、自らの原子力活動に関する報告書を提出。 |
11月 | IAEA理事会は、イランの前向きな対応を歓迎する一方、過去の未申告のウラン濃縮等に強い遺憾の意を表明し、イランに更なる対応を求める内容の決議を採択。 |
12月 | イランは、追加議定書に署名。(ただし未批准。その後、同議定書の暫定実施を行ったが、現在は停止中。) |
2004年 3月 | IAEA理事会は、イランが積極的なIAEAとの協力を継続・強化すること等を求める決議を採択。 |
6月 | IAEA理事会は、イランに対し、すべての未解決問題の解決に必要なすべての措置を緊急にとること等を求める決議を採択。イランは、この決議に反発し、ウラン濃縮関連活動を再開。 |
9月 | IAEA理事会は、イランに対し、IAEAへの完全な情報の提供やウラン濃縮関連活動の停止等を求める決議を採択。 |
11月 | EU3(英国、フランス、ドイツ)とイラン間の協議の結果、イランによるウラン濃縮関連活動の停止を含む合意(パリ合意)が成立。これを受け、イランはウラン濃縮関連活動を停止し、EU3とイランの間で長期的取決めに向けた交渉を開始。その後、IAEA理事会は、イランに対し、ウラン濃縮関連・再処理活動の停止の継続等を求めるとともに、これが十分に履行されない場合等には、IAEA理事国に通報することをIAEA事務局長に要請する決議を採択。 |
2005年 8月 | EU3は、長期的取決めに関する提案を示したが、イランは同提案を拒否し、パリ合意に基づき停止していたウラン濃縮関連活動のうち、ウラン転換活動の一部を再開。これを受け、IAEA特別理事会が開催され、イランに対してウラン濃縮関連活動の完全な停止を再度行うこと等を求める決議を採択。 |
9月 | IAEA理事会は、イランのIAEA保障措置協定の「違反(non-compliance)」を認定するとともに、イランに対してIAEAへの更なる協力とウラン濃縮関連・再処理活動の再停止等を求める内容を含む決議を採択。 |
2006年 1月 | イランは、ナタンズにおけるウラン濃縮関連の研究開発活動を再開。 |
2月 | IAEA特別理事会は、イランの核問題を国連安保理に報告すること等を内容とする決議を賛成多数で採択。イランは、IAEA理事会決議の採択を受け、追加議定書の暫定実施の停止等をIAEAに通報したのに続き、ウラン濃縮活動を再開。 |
3月 | IAEA3月理事会終了後、国連安保理における議論が開始され、国連安保理は、イランにIAEA理事会の要求事項の履行等を求める議長声明を発出。 |
4月 | イランは3.5%の濃縮ウラン製造の成功を発表するなど、IAEA理事会及び安保理議長声明の要求に応じず。IAEA事務局長の報告を受け、国連安保理は、安保理決議の採択に向けた協議を開始。 |
5月~6月 | 米国は、イランによる濃縮関連活動等の完全かつ検証可能な停止を条件に、EU3と共にイランとの交渉に参加する用意がある旨発表。EU3及び米国・中国・ロシアは、イランが国際社会の懸念を十分に払しょくした場合に行い得る協力を含む包括的提案をイランに提示。 |
7月 | 国連安保理は、イランに対しすべての濃縮関連・再処理活動の停止を義務付け、8 月末までに同決議を遵守しない場合には、国連憲章第7 章第41条下の適当な措置を採択する意図を表明すること等を内容とする安保理決議第1696号を採択。 |
8月 | イランは、EU3+3の包括的提案に対する回答を提示したが、交渉再開のための前提条件である濃縮関連活動の停止には応じず。 |
9月~12月 | IAEA事務局長報告によってイランが安保理決議第1696号の要求にこたえていないことが報告された後も、関係国間で外交努力が続けられたが、交渉再開には至らず。 |
12月 | 国連安保理は、イランに対してすべての濃縮関連・再処理活動及び重水関連計画の停止等を義務とするとともに、国連憲章第7 章第41条下の制裁措置を含む安保理決議第1737号を採択。 |
2007年 2月 | IAEA事務局長報告は、イランが安保理決議第1737号に反して濃縮関連活動等を拡大・継続していることを確認。 |
3月 | 国連安保理は、制裁内容を追加する内容の安保理決議第1747号を採択。 |
4月 | アフマディネジャード大統領が、産業規模の核燃料製造を宣言。 |
7月~8月 | IAEA・イラン間の協議の結果、「作業計画」がまとまる。IAEA事務局長報告では、プルトニウム分離実験は解決済みと結論付ける一方で、濃縮関連活動等の継続・拡大を確認。 |
9月 | EU3+3外相が会談し、11月のソラナCFSP上級代表及びエルバラダイIAEA事務局長の報告が肯定的な成果を示さない限り、次の国連安保理制裁決議のテキストを完成させることに合意。 |
11月 | IAEA事務局長報告は、P1・P2遠心分離機の調達と技術獲得につき、イランの提供情報は、IAEAの調査結果と齟齬(そご)はないとする一方で、イランが安保理決議の要求に反し濃縮関連活動等を停止していない旨明記。ソラナ代表とイランのジャリリ国家安全保障最高評議会書記が協議するも具体的な進展なし。 |
12月 | 米国は、イランの核開発に関し、イラン政府の指示下で軍部が核兵器開発を行い、2003年秋以降同開発を停止したが、イランは少なくとも核兵器を開発する選択肢を維持し続けているとの評価を行った国家情報評価書(NIE)を公表。 |