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中南米政治経済情勢 |
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政治分野 |
貧困削減や貧富の格差是正に取り組むため、中南米地域の大多数の国は、自由開放経済を維持しつつ、社会経済開発の取組を漸進的に実施するという現実的な路線をとっている。
その一方で、資源分野での国家管理強化や国家機構の根本的変更を急激に進める動きも見られた。特に、大統領権限の強化を含む憲法改正を目指したベネズエラ(憲法改正案は12月の国民投票にて否決)や、天然資源による収益の国民への還元を主張するとともに、貧富の格差の是正、先住民の権利拡大を掲げ憲法改正を目指したボリビアが注目を集めた。
こうした国内政策の相違は、対米関係にも表れた。キューバ、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグアはALBAに基づき、米国と距離を置きつつ、相互に関係を強化するとともに、イラン、中国等との関係強化を試みている一方で、チリ、ペルー、コロンビアは対米協調路線を維持している。
こうした地域情勢の変化の中で、地域大国のブラジル、メキシコは、域内の安定化を図る役割を指向している。ブラジルは、開発途上国を重視した外交から先進国との関係にも配慮したバランスのとれた外交へと軸足を移しつつある。2007年は、ブラジルが生産・供給において比較優位を有するバイオ燃料を外交手段として最大限活用(注2)し、先進国・開発途上国のいずれとも協力関係を築こうとする姿勢が目立った。
メキシコは、「責任ある外交」をスローガンに、国際社会の主要課題の解決に向けて積極的な役割を果たすとともに、対米重視の外交は維持しつつも、前政権時に関係の悪化した一部の中南米諸国との関係の修復に努めている。
中米では、多くの国が親米的な政策を維持する中で、1月に成立したニカラグアのオルテガ政権が、ALBAへの新規参加を通じ、ベネズエラ及びキューバとの関係を緊密化させ、ほかの中米諸国と一線を画している。また、これまで中米諸国はすべて台湾と外交関係を有していたが、6月には、コスタリカが中国との外交関係を開設した。グアテマラでは11月に大統領選挙が実施され、2008年1月、中道左派系のコロン政権が誕生した。
カリブ地域では、バハマ、ジャマイカ、トリニダード・トバゴにおいて総選挙が実施され、バハマ及びジャマイカでは政権交代が起こった。近年、カリブ地域は安定した経済成長を遂げ、7月に開催された第28回カリコム首脳会合において、2015年までにカリコム単一市場経済(CSME)を完全実施する目標に合意する等、統合に向け前進が見られた。国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)が派遣されているハイチにおいては、治安改善の兆しも見られ、平和の定着が進展しつつある。
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経済分野 |
域内経済統合と域外国との経済連携強化が注目を集めた。域内経済統合については、UNASURの下での、エネルギー分野の統合に向けた南米エネルギー理事会の設立、南米諸国の経済開発を目的とした南米銀行設立(7か国が参加)、ALBAの経済的側面にも着目したニカラグアやドミニカ国の新規参加の動きがあった。
域外国との関係については、米州自由貿易地域(FTAA)交渉進展の見通しが立て難い状況にある中、米国との間で、コロンビア、ペルー、パナマ(6月署名)、中米及びドミニカ共和国(2007年中にコスタリカを除き発効)等がそれぞれ二国間のFTA交渉を進展させた。EUとの間では、メキシコ、チリが既にFTAを発効させ、SICAやカリフォーラム(カリコム諸国及びドミニカ共和国)が経済連携協定(EPA)、メルコスールやアンデス共同体が、経済のみならず、政治・社会・文化等の分野も含む、より包括的な連携協定の締結を目指して交渉を進展させている。
中国・韓国等アジア諸国とのFTA/EPA締結にも前向きである。2007年には、ペルーが中国とのFTA交渉を開始し、メルコスールは韓国とのFTA締結を検討するため、政府・学術レベルでの研究会を設立し、共同報告書を作成した。
主要な動き(各国・地域別)
(注2) | 米国、EUとの関係では、バイオ燃料使用による地球温暖化防止・エネルギー源多角化という利点を強調し、その世界的普及に向けた協力に合意。中南米・アフリカ等の開発途上国との関係では、産業育成・貧困対策の観点から、バイオ燃料生産促進支援の実施を約束。 |