第3章 分野別に見た外交 |
(3)交渉各分野の概観
(イ)農業 農業分野では、関税率や国内補助金の具体的な削減率や規律の在り方について各国共通のルール(モダリティ)に合意することを目指し、1月以降集中的に交渉が行われた。主な論点は(1)一般的な農産物の関税削減率をどの程度にするか、(2)関税削減率を緩和することが認められる一部のセンシティブ品目の数・扱いはどのようにするか、(3)国内補助金の削減率をどの程度にするか、(4)国内補助金を貿易歪曲性に応じてどのように分類するか、(5)食料援助等のうち、輸出補助金と同様の効果のあるものをどのように規律するか-等であった。WTO全加盟国が参加する全体会合、主要少数国が集まるG6会合、二国間での協議等を通じ、このうち、扱い、分類、規律の議論については一定の進展はあったものの、特に具体的な関税や国内補助金の削減率やセンシティブ品目の数等については各国間の溝が埋まらず、交渉中断の主要因の一つとなった。11月以降、各国ジュネーブ代表部の大使間では議論が再度進められている。今後、厳しい交渉が予想されるが、日本はこれまで同様、農業の多面的機能や食料安全保障等の非貿易的関心事項に配慮した、バランスのとれた最終合意を目指して取り組んでいく。 (ロ)非農産品市場アクセス 非農産品市場アクセス交渉では、鉱工業品及び林水産品の関税や非関税障壁の削減に関する議論を行ってきている。関税の削減に関しては、「7月枠組み合意」の下、関税削減方式(フォーミュラ)、開発途上国配慮、分野別関税撤廃・調和、等の主要論点を中心に交渉を行い、2005年12月香港閣僚会議では、フォーミュラについて、高関税ほど大きい削減とする「スイス・フォーミュラ」の採用が合意された。 モダリティ合意を目指し、主要三要素(フォーミュラ係数、途上国への柔軟性、非譲許品目の扱い)の議論での合意形成のための努力が続けられるとともに、低譲許率国、小規模脆弱経済、新規加盟国等の例外的扱いについて集中的に議論が行われた。合意に向けた交渉は6月まで継続したが、農業交渉での議論に収斂が見られないことから、NAMAの主要三要素を巡る議論も収斂せず、より野心的な成果を目指す先進国と、途上国配慮を重視する途上国(インド、ブラジル等)との間の意見の隔たりが縮まらないまま、7月、交渉が中断した。 11月下旬からの実務的交渉再開を受け、現在、途上国の扱い等の議論が行われている。鉱工業で強い競争力を持つ日本としては、実質的な市場アクセスの改善につながる成果を目指し、早期にモダリティ合意がなされるよう、更なる努力を行っていく。 (ハ)サービス 2005年12月の香港閣僚宣言での合意内容に従い、2006年3月・4月及び5月の計2回にわたり、個別の分野ごとに複数国間でサービス貿易交渉を促進させることを目的としたプルリ交渉 (注5) が実施され、また、7月初めにはサービス非公式閣僚会合が開催されるなど、7月末提出予定の第二次改訂オファー (注6) が、より質の高いものとなるよう、途上国を含め加盟国の機運が高まった。しかし、7月の交渉全体の中断を受け、同オファーの提出目前でサービス貿易交渉も中断した。その後、11月中旬の実務レベルでの議論再開を受け、サービス貿易分野でも交渉グループ議長の下での非公式会合等が実施され、今後本格交渉再開に向け実務レベルでの交渉を進めていくことで合意が得られた。日本としては、サービス貿易自由化推進派として、本格交渉再開後に速やかに加盟国による質の高い第二次改訂オファーの提出が実現するよう、引き続き努力していく。 (ニ)開発 開発途上国がWTOの加盟国の約5分の4を占めている現状で、開発途上国の開発問題は、今次ラウンドの中核的なテーマとなっており、開発途上国に対する「特別かつ異なる待遇(S&D)」、綿花問題 (注7) などに加え、「統合フレームワーク」 (注8) を含む「貿易のための援助」(Aid for Trade) (注9) を主要テーマとして議論が行われている。香港閣僚会議においては、後発開発途上国(LDC)産品に対する市場アクセスの原則無税無枠化 (注10) についても合意された。 日本は、香港閣僚会議に先立ち「開発イニシアティブ」を発表した。これは、貿易促進を通じて開発途上国の発展に資することを目的に、「生産」、「流通・販売」、「購入」の各局面において、ODAによる開発援助やLDC無税無枠等を含む様々な措置を組み合わせて包括的な支援を行うものである。日本は、ラウンド交渉の進捗いかんにかかわらず、「開発イニシアティブ」を着実に実施していくこととしている。 (ホ)紛争処理 WTO体制に信頼性・安定性をもたらす柱として、紛争解決制度がある。WTO加盟国は、この制度を加盟国間の貿易紛争の解決のために積極的に利用しており、1995年のWTO発足時から2006年末までの12年間の紛争案件数は、356件(年平均29.7件)に達する (注11) 。 日本もこの制度の下で多くの紛争案件に関与してきている。2006年には、米国のダンピング防止措置に関連する「ゼロイング」手続 (注12) がダンピング防止協定等に違反すると日本が申し立てた案件について、9月にパネル (注13) 報告書が発出されたが、日本は、同報告書の内容を不服として10月に上級委員会に上訴したところ、2007年1月、パネル判断を覆して日本の主張をほぼ全面的に認める上級報告書が採択された。また、韓国の半導体製造企業に韓国政府が交付する補助金に関し、日本が賦課した相殺関税 (注14) が補助金協定等に違反すると韓国が申し立てた案件について、日本と韓国との間で紛争解決手続に従って協議が行われたが、問題の解決には至らず、本件について審議するためのパネルが6月に設置された (注15) 。 |
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