第3章 分野別に見た外交 |
(2)人間の安全保障の推進に向けた地球規模課題への取組
(イ)人間の安全保障 紛争やテロ、貧困、感染症、環境汚染といった脅威に直面する人々が恐怖に慄いたり、欠乏に苛まされることなく、平和的に尊厳をもって暮らしていける世界を実現していくことは、日本を取り巻く国際環境を安定的なものとし、日本自身の平和と繁栄を維持していく上での前提である。そのためには、前述の「人間の安全保障」の理念に基づく取組を強化していくことが不可欠である。日本は、これまで、「人間の安全保障」の理念の普及等を目的として設置された人間の安全保障諮問委員会(緒方貞子JICA理事長が議長)を支援するとともに、国連をはじめとする多国間の枠組みや二国間外交の場において、この理念の重要性を訴えてきた。また、国連事務局に設置した「人間の安全保障基金」を通じ、国連開発計画(UNDP)がタンザニアで実施するプロジェクトでは周辺諸国から流入した難民を対象に、小型武器回収活動や基礎教育の提供に取り組むなど、人間の安全保障の実践に努めている。また、バングラデシュにおいて理数科プロジェクトの一環として青年海外協力隊が開発した算数ドリルを、ユニセフ経由で普及させることで、社会的弱者に初等教育を普及させるなど、二国間・多国間の連携を通じた人間の安全保障の推進も積極的に行っている。 (ロ)感染症対策 日本は、感染症を途上国の住民に対する脅威かつ経済発展の阻害要因であるとともに、他国に容易に広がる人類共通の脅威でもあるととらえ、人間の安全保障の観点からその対策に積極的に取り組んできた。日本は世界エイズ・結核・マラリア対策基金の設立の契機をつくり、これまで累計約4億8,000万ドルを拠出してきた。2006年以降も、当面の間に5億ドルを拠出(同年に1億3,000万ドル拠出済み)する予定である。また、6月、2001年エイズ特別総会の中間レビュー会合に森元総理大臣が出席し、世界及び日本のエイズ対策への取組につきスピーチを行った。 鳥及び新型インフルエンザについては、日本は、早期対応、情報共有、啓発活動が予防において重要と考え、1月の北京における国際会合において、1億5,500万ドルの支持を表明して着実に実施し、12月の日・フィリピン首脳会談等において新たに6,700万ドルの対策支援を表明した。 ▼2006年末時点でのHIV/エイズ感染者(大人及び子供)の推定数 (ハ)持続可能な開発に向けた地球環境問題への取組 気候変動や森林減少等の地球環境問題や自然災害は、持続可能な開発の達成と人間の安全保障に対する脅威である。日本は、こうした課題に対処するための国際的なルールづくりと協力枠組みの構築に積極的に取り組んでいる。 G8サンクトペテルブルク・サミットにおいては、循環型社会の構築を目指す「3Rイニシアティブ」 (注52) 実施の推進が確認されるとともに、深刻化する違法伐採問題につき、取組の強化と途上国支援の推進が確認された。日本はこの問題について国際熱帯木材機関(ITTO) (注53) やアジア森林パートナーシップ(AFP) (注54) を通じた協力を推進している。また、日本の提案で始まった国連「持続可能な開発のための教育の10年(ESDの10年)」については、3月に日本の国内実施計画を策定し、アジア各国との意見交換を行うなどの取組を進めている。さらに12月には、日本の主導で2008年を「国際衛生年」とすることが国連総会で決定され、緊急の課題である水と衛生への取組の機運を高めた。防災については「兵庫行動枠組」 (注55) 実施促進のため、国連国際防災戦略(ISDR)の活動支援やアジア地域への支援を強化している。 2006年は、京都議定書後(2013年以降)の将来枠組みに関する議論が本格化した年でもあった。日本は、米国や開発途上国を含む主要排出国が参加する、実効性のある枠組みの構築が重要との立場から、国際的な対話や交渉の場において積極的な発言・貢献を行ってきている。2005年のG8グレンイーグルズ・サミットでは「気候変動、クリーンエネルギー及び持続可能な開発に関する対話」を進めることが合意され、10月にはメキシコで第2回閣僚級対話 (注56) が開催され、低炭素社会の実現に向けた具体的な方策や適応の問題等につき率直な意見交換が行われた。今後更に議論が深められ、2008年に日本で開催されるG8サミットにおいてその成果が報告される予定である。また、2005年7月に発足したAPP (注57) でも、今後の活動の進展によりエネルギー効率改善を通じた温室効果ガス削減への貢献が期待される。 (ニ)人道支援 現在、約3億人の5歳未満の子供たちが慢性的な飢餓に直面しており (注58) 、難民・国内避難民の数は2,000万人以上(2006年1月1日現在) (注59) に達している。こうした現状を踏まえ、日本は、国連における議論や人道支援政策に積極的に関与しつつ、さらに、WFP、ユニセフ、UNHCR等人道支援関係国際機関への拠出を行い当該国際機関の支援活動を支えてきた。2006年には、3月にWFP及びユニセフ、7月にUNHCRとの政策協議(於:東京)の開催、12月にグテーレス国連難民高等弁務官を日本に招くなど、個別政策協議等を積極的に行い、効率的な支援の実施及び日本との連携の強化を現場レベルに拡充させつつ顔の見える援助を目指している。 |
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