第2章 地域別に見た外交


(1)日露関係

(イ)北方領土問題と平和条約交渉

 ロシアは、様々な問題について日本と利害を共有する大事な隣国であり、日露関係の発展が両国に恩恵をもたらす潜在的な可能性は大きい。そのためにも最大の懸案である北方領土問題の解決に向け、強い意思をもって取り組んでいくことが重要である。政府としては、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針に従い、日ソ共同宣言 (注3) 、東京宣言 (注4) 、イルクーツク声明 (注5) 、「日露行動計画」等のこれまでの諸合意及び諸文書に基づき、日露両国が共に受け入れられる解決策を見いだすべくロシア側と強い意思をもって交渉を続けている。

 日ソ共同宣言の締結により両国間で戦争状態が終結し、外交関係が回復されてから50年目に当たる2006年には、ロシアがG8議長国として首脳会議、関係閣僚会合を主催した際に日露外相会談(6月28日、モスクワ)及び日露首脳会談(7月15日、サンクトペテルブルク)が行われ、平和条約問題についても真剣な議論が行われた。11月のAPEC首脳会議の際には、安倍総理大臣がプーチン大統領と初めて会談を行い、北方領土問題に関し、これまで日露間で達成された諸合意及び諸文書に基づき、双方に受入れ可能な解決策を共に見いだすため、政治レベル、事務レベルで更に精力的に交渉していくことで一致した。また、APEC閣僚会合の際の日露外相会談では、交渉進展のための環境整備として、北方四島を含む日露の隣接地域において防災分野で協力を行っていくための作業を進めていくことで一致し、また、8月に北方四島周辺水域で発生したロシア警備艇による日本漁船に対する銃撃・拿捕事件(注6) に関し、再発防止のために共に努力していくことを確認した。

(ロ)日露経済関係

 日露の経済関係は、好調なロシア経済及び日本の民間企業の対露ビジネスへの関心の増大を背景に、引き続き拡大している。2006年の日露間の貿易高は約137億ドルに達し、3年連続で、ソ連時代を含めて過去最高額を記録した。また、12月現在、モスクワ日本商工会の会員数が150社を超えるなど多くの日本企業がロシアに進出した。

 政府としても、日本企業がロシアにおいてより円滑に経済活動を行えるよう、民間企業の対露ビジネス上の問題点の是正を種々の政府間協議の場でロシアに対し働きかけてきたほか、日露貿易投資促進機構 (注7) を通じ、企業やビジネス慣行に関する情報の提供等、ビジネス支援活動を行っており、9月には、日露貿易投資促進機構、経済産業省及びロシア経済発展貿易省の共催によりサンクトペテルブルクにおいて日露投資フォーラムが開催された。

 また、政府は、日露経済分野で活躍する人材の発掘・育成のため、ロシア国内7か所に設置した日本センターを通じ、経営関連講座、訪日研修、日本語講座等を実施している。同センターは、上記機構のロシア国内における日本支部としても活動している。

 エネルギー分野では、7月にG8サンクトペテルブルク・サミットにおいて、G8各国が、世界のエネルギー市場の透明性、予見可能性及び安定性の向上を図る旨を含む行動計画に合意した。日露間のエネルギー分野においては、日本企業が参加する石油・天然ガスプロジェクトであるサハリン1・2プロジェクトが引き続き進んでおり、サハリン2プロジェクトについては、12月、オペレーターであるサハリン・エナジー社の株主間で、ロシアのガスプロム社が参入することで合意した。また、シベリアの原油を太平洋岸まで輸送する「東シベリア-太平洋」パイプラインについては、同プロジェクトの実現のための日露の協力について、日露の専門家の間で協議が行われている。

▼サハリンプロジェクトの概要

(ハ)様々な分野における日露間の協力

 治安・防衛の分野においては、5月の海上保安庁長官訪露及びテロ対策・捜索救難に関する合同訓練の実施、同月の日露合同油防除総合訓練の実施、6月の陸上幕僚長訪露、10月のロシア参謀総長訪日といったハイレベル交流、京都府舞鶴港へのロシア艦艇訪問と日露捜索・救難共同訓練の実施、陸上自衛隊北部方面総監訪露など、活発な交流が行われた。

 文化・国民間交流の分野では、日露青年交流事業として8月にモスクワ大学で「日露学生フォーラム」(日露学生約100名が参加)が開催され、幅広い分野での日露関係の発展の重要性等について議論された。また、ロシア政府が日本においてロシア文化フェスティバルを実施した (注8)

 そのほかにも、環境分野においては、地球温暖化対策等の観点から、「極東・シベリア森林保全作業部会」の設置が合意されたほか、国際舞台においても、イランの核問題や、北朝鮮のミサイル・核・拉致問題など、様々な分野で協力を進めていくことで一致した。




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